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第一章
忘れていたお茶会
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◇
「いつもの頭痛の薬ねぇ。それじゃぁ、調合するからちょっと待っててちょうだいな」
「あ、ならそろそろあたし達は帰るわー」
「あらぁ、そう?」
室内のソファに腰を掛けて、エミリオから症状を確認したベアトリーチェが席を立ち、薬の調合室に向かおうとすると、ヴァレリアとエレオノーラもテラスの円卓から立ち上がった。
その様子にドレスのお礼がまだだったと、ミリアムは慌てて二人を呼び止めた。
「本日はドレスをお見立ていただいて、誠にありがとうございました。また皆様の楽しいひと時に同席させていただき、大変光栄な体験をさせていただきました事を深く感謝致します」
「くっそまじめね!こっちこそ、楽しかったわ!これからはもっとオシャレしなさいよね!」
「そうだぞミリィ、また一緒にお茶を飲もう」
「有難うございます。精進致しますわ」
二人はベアトリーチェとも挨拶を交わすと、各々杖を取り出し、自身の上に向けて魔法陣を展開する。
辺りは瑠璃色の光と白銀の光に包まれ、次の瞬間フッと二人の姿が消えた。
「すごいわ。これが魔法なのね…」
「うふふ、空間転移の魔法ね。それにしても、二人もとっても楽しんでいたみたいねぇ。また遊びに来てあげて頂戴な」
初めて見る空間転移の魔法に感動するミリアムに、ベアトリーチェはウィンクすると、改めて調合室に向かって歩き出した。
「まだ痛むか?」
「いや、今はだいぶいい。先ほど久しぶりに笑ったからな。少し気分がほぐれたのだろう。カパローニ嬢のお陰だな」
「ミリィは嫁にはやらんぞ」
「いや、話が飛躍しすぎだろう」
だが、エミリオはレオナルドよりも自分を敬ってくれて、自分の言葉をしっかりと聞いてくれる素直なミリアムに好感を抱いていた。
何せ、少年時代からレオナルドの美貌のせいでさんざん影を薄くしてきたのだ。
レオナルドが一緒にいるのに年若い令嬢から認識される経験そのものが少なかったので、少々舞い上がってもいた。
まあ、その令嬢はレオナルドの実妹なので単に美貌に慣れていただけなのだが。
(そうかカパローニ嬢は、レオの美貌を見慣れていると言う点において、非常に稀少な存在かもしれない。しかも、母君や姉君のような胸焼けしそうな美しさではないのがむしろ好みだ。もう少し話をする機会があればよいのだが…)
エミリオはミリアムがレオナルドの美貌に目が眩まない存在ということに気付くと、先程の“確かにそこにいるのに誰も覚えていないまぼろし姫”の件の事もあって、俄然興味が湧いてきた。
「カパローニ嬢、よければ薬が出来るまでこちらで少し話でもどうかな?魔女のお二人もお帰りになられて、そちらのテラスに1人では暇を持て余すだろう」
エミリオはさっそくテラスに1人残っていたミリアムに声をかける。
突然の誘いにミリアムは少々瞠目したが、すぐに微笑みを浮かべ、スッと立ち上がった。
「お気遣いいただき誠にありがとうございます。お言葉に甘えて同席させていただきますわ」
ミリアムはテラスから室内に入ると部屋の中央に置かれた応接用のソファセットに向かった。
室内はウォルナットの家具で統一されており、華美な装飾がなく、その代わりに所狭しと植物が並べられ、壁一面に備え付けられた書棚には様々な書物が整然と並べられている。
天井を見上げると、一瞬屋外かと見紛うような星空の幻影が浮かんでいた。
「…すごいわ」
「ここではないどこか別の場所の空を映しているそうだよ。部屋に入る時に見なかったのかい?」
レオナルドは立ったまま天井を見上げ、動かなくなってしまったミリアムの横に立ち問いかけると、ミリアムがやや興奮した面持ちで目線をレオナルドに向けた。
「はい!薔薇園の小道からこちらの庭園に迷い込んで、そのままテラスからお邪魔させていただきましたので、この天井すごいですね!」
「薔薇園の小道…?そんなものあったかな?…ところでどうしてそんな所にいたんだい?今日は王妃陛下のお茶会ではなかったかな?」
お茶会のことをすっかり忘れていたミリアムは目を見開き、ヒュッと息を吸い込んだ驚愕の表情のまま固まってしまう。
「そうでしたわ!わたくしお茶会の途中で薔薇園の散策をしてきますとお母様に告げて出てきたきりですわ!ど、ど、ど、どうしましょう!?」
「落ち着きなさい、ミリィ」
アワアワと慌てふためくミリアムを落ち着かせようとレオナルドがオロオロしていると、調合室からベアトリーチェが戻ってきた。
「ミリィのことなら大丈夫よぉ。この邸に来た時にちゃんと使いを出しておいたからぁ」
「そうなのですか!?ああ、良かった。ありがとうございます!」
「当然よぉ。私が引き止めたのにミリィが叱られちゃったら可哀想でしょう?ところで、いくつか材料が足りないから庭に採取しに行ってくるわねぇ。カパローニ卿ちょっとお手伝いしてちょうだいね」
「かしこまりました」
ベアトリーチェとレオナルドは採取用具一式をまとめた籠を手に、テラスから庭園へと出て行った。
室内にエミリオと二人残されたミリアムは、やや緊張しながらエミリオの向かいの席に腰をかけた。
「いつもの頭痛の薬ねぇ。それじゃぁ、調合するからちょっと待っててちょうだいな」
「あ、ならそろそろあたし達は帰るわー」
「あらぁ、そう?」
室内のソファに腰を掛けて、エミリオから症状を確認したベアトリーチェが席を立ち、薬の調合室に向かおうとすると、ヴァレリアとエレオノーラもテラスの円卓から立ち上がった。
その様子にドレスのお礼がまだだったと、ミリアムは慌てて二人を呼び止めた。
「本日はドレスをお見立ていただいて、誠にありがとうございました。また皆様の楽しいひと時に同席させていただき、大変光栄な体験をさせていただきました事を深く感謝致します」
「くっそまじめね!こっちこそ、楽しかったわ!これからはもっとオシャレしなさいよね!」
「そうだぞミリィ、また一緒にお茶を飲もう」
「有難うございます。精進致しますわ」
二人はベアトリーチェとも挨拶を交わすと、各々杖を取り出し、自身の上に向けて魔法陣を展開する。
辺りは瑠璃色の光と白銀の光に包まれ、次の瞬間フッと二人の姿が消えた。
「すごいわ。これが魔法なのね…」
「うふふ、空間転移の魔法ね。それにしても、二人もとっても楽しんでいたみたいねぇ。また遊びに来てあげて頂戴な」
初めて見る空間転移の魔法に感動するミリアムに、ベアトリーチェはウィンクすると、改めて調合室に向かって歩き出した。
「まだ痛むか?」
「いや、今はだいぶいい。先ほど久しぶりに笑ったからな。少し気分がほぐれたのだろう。カパローニ嬢のお陰だな」
「ミリィは嫁にはやらんぞ」
「いや、話が飛躍しすぎだろう」
だが、エミリオはレオナルドよりも自分を敬ってくれて、自分の言葉をしっかりと聞いてくれる素直なミリアムに好感を抱いていた。
何せ、少年時代からレオナルドの美貌のせいでさんざん影を薄くしてきたのだ。
レオナルドが一緒にいるのに年若い令嬢から認識される経験そのものが少なかったので、少々舞い上がってもいた。
まあ、その令嬢はレオナルドの実妹なので単に美貌に慣れていただけなのだが。
(そうかカパローニ嬢は、レオの美貌を見慣れていると言う点において、非常に稀少な存在かもしれない。しかも、母君や姉君のような胸焼けしそうな美しさではないのがむしろ好みだ。もう少し話をする機会があればよいのだが…)
エミリオはミリアムがレオナルドの美貌に目が眩まない存在ということに気付くと、先程の“確かにそこにいるのに誰も覚えていないまぼろし姫”の件の事もあって、俄然興味が湧いてきた。
「カパローニ嬢、よければ薬が出来るまでこちらで少し話でもどうかな?魔女のお二人もお帰りになられて、そちらのテラスに1人では暇を持て余すだろう」
エミリオはさっそくテラスに1人残っていたミリアムに声をかける。
突然の誘いにミリアムは少々瞠目したが、すぐに微笑みを浮かべ、スッと立ち上がった。
「お気遣いいただき誠にありがとうございます。お言葉に甘えて同席させていただきますわ」
ミリアムはテラスから室内に入ると部屋の中央に置かれた応接用のソファセットに向かった。
室内はウォルナットの家具で統一されており、華美な装飾がなく、その代わりに所狭しと植物が並べられ、壁一面に備え付けられた書棚には様々な書物が整然と並べられている。
天井を見上げると、一瞬屋外かと見紛うような星空の幻影が浮かんでいた。
「…すごいわ」
「ここではないどこか別の場所の空を映しているそうだよ。部屋に入る時に見なかったのかい?」
レオナルドは立ったまま天井を見上げ、動かなくなってしまったミリアムの横に立ち問いかけると、ミリアムがやや興奮した面持ちで目線をレオナルドに向けた。
「はい!薔薇園の小道からこちらの庭園に迷い込んで、そのままテラスからお邪魔させていただきましたので、この天井すごいですね!」
「薔薇園の小道…?そんなものあったかな?…ところでどうしてそんな所にいたんだい?今日は王妃陛下のお茶会ではなかったかな?」
お茶会のことをすっかり忘れていたミリアムは目を見開き、ヒュッと息を吸い込んだ驚愕の表情のまま固まってしまう。
「そうでしたわ!わたくしお茶会の途中で薔薇園の散策をしてきますとお母様に告げて出てきたきりですわ!ど、ど、ど、どうしましょう!?」
「落ち着きなさい、ミリィ」
アワアワと慌てふためくミリアムを落ち着かせようとレオナルドがオロオロしていると、調合室からベアトリーチェが戻ってきた。
「ミリィのことなら大丈夫よぉ。この邸に来た時にちゃんと使いを出しておいたからぁ」
「そうなのですか!?ああ、良かった。ありがとうございます!」
「当然よぉ。私が引き止めたのにミリィが叱られちゃったら可哀想でしょう?ところで、いくつか材料が足りないから庭に採取しに行ってくるわねぇ。カパローニ卿ちょっとお手伝いしてちょうだいね」
「かしこまりました」
ベアトリーチェとレオナルドは採取用具一式をまとめた籠を手に、テラスから庭園へと出て行った。
室内にエミリオと二人残されたミリアムは、やや緊張しながらエミリオの向かいの席に腰をかけた。
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