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第二章
公爵たちの密談
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◇
ヴァレリアの邸で一泊した翌日、ミリアムは朝日も昇らぬ早朝に叩き起こされ、朝の日課だと言う家畜の世話と畑の農作業をしっかり手伝わされ、昼前にはカパローニ邸へと帰された。
ちなみにここでも、全ての作業が生まれて初めてというミリアムはあまり役には立たなかった。
たった一泊での出来事だったが、ミリアムにとっては全てが新鮮で貴重な経験となった。
「わたくし気付きましたの。自分の生活が成り立つ為には、どれ程人からの支えがあるのかと。このお茶の葉一つ一つも、この果実も、このテーブルに添えられた花にも、それぞれに生産者がいて、想いを込めているのですわ」
「そうか、それは貴重な経験をしたのだな」
ヴァレリアに手伝わされた諸々にカルチャーショックを受け、その経験を語るミリアムを隣の席を陣取った第一王子エミリオが何となく熱っぽい瞳で見つめる。
昨日のお詫びと一時的にロビンの世話をした事へのお礼の品を持って、なぜか今日もエミリオがカパローニ邸を訪れていた。
現在はカパローニ邸の庭園にある四阿にてエミリオ、レオナルド、ミリアムの三人がお茶をしている。
ちなみにアレッシアは昨日ミリアムを心配し過ぎた事がたたり、熱を出して寝込んでいる。姉がそこまで自分を案じてくれるとは思いもしなかったミリアムは申し訳ない気持ちももちろんあるが、それ以上に“もしかしたら姉に嫌われていないのでは!?”と言う考えに心に温かいものを感じたのだが、「お姉様が苦しんでいらっしゃるのになんと不謹慎な…」と自重している。
「ひとついいか?エミリオ王子殿下?」
親友が公の席以外で自分の事を敬称で呼ぶ時はたいてい良くない時だ。
エミリオはやや警戒しながらレオナルドへと向き直す。
するとそこには悪魔の様な笑みを浮かべながらこちらを見ている男の姿があった。
「ミリィに昨日の詫びと礼の品をと言う所は評価してやろう。しかし、自ら来る必要はあったか?」
笑顔のレオナルドだが、目は笑っていない。オーラと言うものが見えるとしたらきっと黒いものが見えるだろうとエミリオは苦笑する。
「人伝では誠意が伝わらんだろう。同志たるミリアム嬢には常に誠実でありたいんだ」
「先日から気にはなっていたのだが、そもそもその“同志”とは何なんだ!?お前とミリィに共通点など特にないだろう!?」
「まあ、お兄様!そんな事はありませんのよ!わたくしと殿下は同じ思いを共有できる唯一無二の同志ですの」
ミリアムが思わず口を挟むと、エミリオがミリアムの手を取り再び熱っぽい瞳で見つめる。
「ああ!ありがとうミリアム嬢!そうだな!我らは唯一無二の同志だ!しかし、残念だな…君はいつも私を名前で呼んでくれない」
エミリオの悲しげな表情にミリアムは慌てて、その手を両手で包み込む。
「申し訳ありません…どうしても畏れ多くて…」
「気にする事は何もない、呼んでくれ?さあ」
「…エミリオ様」
頬を染めてミリアムが俯くと、レオナルドは嘆息する。
「あー、このやり取りは何度か見たぞ。もはや予定調和だな。わかったから離れるんだ。で、一体何の同志なんだ?まさか、恋愛感情が生まれたわけではあるまいな!?」
ミリアムとエミリオは手を離し、目を見合わせるとレオナルドの方に向き直す。
「強いて言うなら被害者の会?」
エミリオの発言にレオナルドは訝しげな視線を投げかけ、ミリアムは苦笑した。
◇
「エミリオ王子がニ日連続でカパローニ侯爵家に行かれたそうだな」
「側近のカパローニ卿とは幼少期からの友人関係でもあるが、今までカパローニ邸訪れたことはなかったはずだ」
「それが一昨日の午後に突然の訪問。おまけに今日もか…。カパローニ卿と王城では出来ない話があるのか、あるいは…」
「もしや、精霊姫か…?妹と引き合わせる為とも考えられる。カパローニ侯爵家が後ろ盾に付くとなると厄介だな」
王城の一室にて、複数の貴族が集まり密談を交わす。彼らは側妃の実兄であるサンタンジェロ公爵とその取り巻き。いわゆる“第二王子派”である。
「公爵、どうされますか?このままエミリオ王子に後ろ盾となる家の令嬢と婚約を結ばれると…」
「そうですぞ。しかもそれがカパローニ家の精霊姫など、なんと羨ま…ゲフンゲフン…社交界からも一目置かれる存在だけに面倒ですぞ」
取り巻きに詰め寄られたサンタンジェロ公爵は顎に蓄えた自慢の髭を撫でながら『ふむ』と考え込む。
「なんとかイヴァン王子との婚約にすり替えられぬものか…」
「そう言えばカパローニ侯爵家にはもう一人娘がいませんでしたかな?確かまぼろし姫とか言われて…」
「ああ、誰も姿を見たことがないという…」
「だが両親がアレだからな。当然末の娘も精霊姫同様だろう」
一同はミリアム以外のカパローニ家の人間を思い出し、それぞれ好き勝手にミリアムの姿を想像した。
「何せ、あのタチアナ夫人の娘だからな…それはそれは美しいに決まっている…」
「おや、伯爵、もしや貴殿もその昔入れ込んでいたクチか?」
「いやはやお恥ずかしい。しかし、我らの世代でタチアナ様に憧れていない者などおらぬだろう。未だ衰えぬあの女神の様な微笑み…ああ」
「かく言う私もその一人だがな」
「やや!公爵!奥方に言いつけますぞ~」
かつてミリアムの母タチアナは社交界の華と謳われ、女神もかくやと思われるその美貌は侯爵家に嫁ぎ、三人の子宝に恵まれた今も衰えを知らず、当時は男性と言う男性が憧れを抱き、密かに愛好会も出来る程の人気ぶりであった。
どうやら、この男達もご多分に漏れずだった様で、“第一王子による連日のカパローニ侯爵家訪問問題”について話し合われる予定であったこの密談は、いつの間にか“懐かしのタチアナ様愛好会~再び募る想い~”にすり替っていたのだが、それに気づく者も止める者も残念ながら不在の様だった。
ヴァレリアの邸で一泊した翌日、ミリアムは朝日も昇らぬ早朝に叩き起こされ、朝の日課だと言う家畜の世話と畑の農作業をしっかり手伝わされ、昼前にはカパローニ邸へと帰された。
ちなみにここでも、全ての作業が生まれて初めてというミリアムはあまり役には立たなかった。
たった一泊での出来事だったが、ミリアムにとっては全てが新鮮で貴重な経験となった。
「わたくし気付きましたの。自分の生活が成り立つ為には、どれ程人からの支えがあるのかと。このお茶の葉一つ一つも、この果実も、このテーブルに添えられた花にも、それぞれに生産者がいて、想いを込めているのですわ」
「そうか、それは貴重な経験をしたのだな」
ヴァレリアに手伝わされた諸々にカルチャーショックを受け、その経験を語るミリアムを隣の席を陣取った第一王子エミリオが何となく熱っぽい瞳で見つめる。
昨日のお詫びと一時的にロビンの世話をした事へのお礼の品を持って、なぜか今日もエミリオがカパローニ邸を訪れていた。
現在はカパローニ邸の庭園にある四阿にてエミリオ、レオナルド、ミリアムの三人がお茶をしている。
ちなみにアレッシアは昨日ミリアムを心配し過ぎた事がたたり、熱を出して寝込んでいる。姉がそこまで自分を案じてくれるとは思いもしなかったミリアムは申し訳ない気持ちももちろんあるが、それ以上に“もしかしたら姉に嫌われていないのでは!?”と言う考えに心に温かいものを感じたのだが、「お姉様が苦しんでいらっしゃるのになんと不謹慎な…」と自重している。
「ひとついいか?エミリオ王子殿下?」
親友が公の席以外で自分の事を敬称で呼ぶ時はたいてい良くない時だ。
エミリオはやや警戒しながらレオナルドへと向き直す。
するとそこには悪魔の様な笑みを浮かべながらこちらを見ている男の姿があった。
「ミリィに昨日の詫びと礼の品をと言う所は評価してやろう。しかし、自ら来る必要はあったか?」
笑顔のレオナルドだが、目は笑っていない。オーラと言うものが見えるとしたらきっと黒いものが見えるだろうとエミリオは苦笑する。
「人伝では誠意が伝わらんだろう。同志たるミリアム嬢には常に誠実でありたいんだ」
「先日から気にはなっていたのだが、そもそもその“同志”とは何なんだ!?お前とミリィに共通点など特にないだろう!?」
「まあ、お兄様!そんな事はありませんのよ!わたくしと殿下は同じ思いを共有できる唯一無二の同志ですの」
ミリアムが思わず口を挟むと、エミリオがミリアムの手を取り再び熱っぽい瞳で見つめる。
「ああ!ありがとうミリアム嬢!そうだな!我らは唯一無二の同志だ!しかし、残念だな…君はいつも私を名前で呼んでくれない」
エミリオの悲しげな表情にミリアムは慌てて、その手を両手で包み込む。
「申し訳ありません…どうしても畏れ多くて…」
「気にする事は何もない、呼んでくれ?さあ」
「…エミリオ様」
頬を染めてミリアムが俯くと、レオナルドは嘆息する。
「あー、このやり取りは何度か見たぞ。もはや予定調和だな。わかったから離れるんだ。で、一体何の同志なんだ?まさか、恋愛感情が生まれたわけではあるまいな!?」
ミリアムとエミリオは手を離し、目を見合わせるとレオナルドの方に向き直す。
「強いて言うなら被害者の会?」
エミリオの発言にレオナルドは訝しげな視線を投げかけ、ミリアムは苦笑した。
◇
「エミリオ王子がニ日連続でカパローニ侯爵家に行かれたそうだな」
「側近のカパローニ卿とは幼少期からの友人関係でもあるが、今までカパローニ邸訪れたことはなかったはずだ」
「それが一昨日の午後に突然の訪問。おまけに今日もか…。カパローニ卿と王城では出来ない話があるのか、あるいは…」
「もしや、精霊姫か…?妹と引き合わせる為とも考えられる。カパローニ侯爵家が後ろ盾に付くとなると厄介だな」
王城の一室にて、複数の貴族が集まり密談を交わす。彼らは側妃の実兄であるサンタンジェロ公爵とその取り巻き。いわゆる“第二王子派”である。
「公爵、どうされますか?このままエミリオ王子に後ろ盾となる家の令嬢と婚約を結ばれると…」
「そうですぞ。しかもそれがカパローニ家の精霊姫など、なんと羨ま…ゲフンゲフン…社交界からも一目置かれる存在だけに面倒ですぞ」
取り巻きに詰め寄られたサンタンジェロ公爵は顎に蓄えた自慢の髭を撫でながら『ふむ』と考え込む。
「なんとかイヴァン王子との婚約にすり替えられぬものか…」
「そう言えばカパローニ侯爵家にはもう一人娘がいませんでしたかな?確かまぼろし姫とか言われて…」
「ああ、誰も姿を見たことがないという…」
「だが両親がアレだからな。当然末の娘も精霊姫同様だろう」
一同はミリアム以外のカパローニ家の人間を思い出し、それぞれ好き勝手にミリアムの姿を想像した。
「何せ、あのタチアナ夫人の娘だからな…それはそれは美しいに決まっている…」
「おや、伯爵、もしや貴殿もその昔入れ込んでいたクチか?」
「いやはやお恥ずかしい。しかし、我らの世代でタチアナ様に憧れていない者などおらぬだろう。未だ衰えぬあの女神の様な微笑み…ああ」
「かく言う私もその一人だがな」
「やや!公爵!奥方に言いつけますぞ~」
かつてミリアムの母タチアナは社交界の華と謳われ、女神もかくやと思われるその美貌は侯爵家に嫁ぎ、三人の子宝に恵まれた今も衰えを知らず、当時は男性と言う男性が憧れを抱き、密かに愛好会も出来る程の人気ぶりであった。
どうやら、この男達もご多分に漏れずだった様で、“第一王子による連日のカパローニ侯爵家訪問問題”について話し合われる予定であったこの密談は、いつの間にか“懐かしのタチアナ様愛好会~再び募る想い~”にすり替っていたのだが、それに気づく者も止める者も残念ながら不在の様だった。
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