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第二章
それぞれの混乱
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「あ、あの…わたくし少し混乱しておりまして、お返事は少しお待ち頂いてもよろしいでしょうか…?そ、それから降ろして下さいませ」
エミリオの突然の告白に動揺したミリアムは真赤に染まったままの顔を両手で押さえて俯く。
「ああ、返事はいつでも構わない。突然すまなかった。だが、今後は君に私の気持ちが伝わるように行動させてもらうよ」
エミリオはニコッと笑うとミリアムの額に口づけを落とした。
「ぴゃっ!」
恥ずかしさの余りミリアムがおかしな声を出すと、エミリオは微笑みながらミリアムを自分の横に座らせた。
「さ、一旦忘れてお茶にしようか。アマレットをどうぞ?」
「は、はいぃ…」
以前よりも格段に甘さが混ざった瞳で見つめられると、ミリアムは混乱して大好きなアマレットの味も全くわからなくなってしまう。
(な、なんだかエミリオ様がおかしいわ…お兄様に相談…は出来ませんわ。わたくしエミリオ様のお膝に…ああ、なんでこんな事に!?顔が熱いですわ。どうしましょう…)
帰りの馬車もいつもの様に向かい合わせではなく、隣に座らされ手を握られていた。時折ちらりとエミリオに視線を向けると、蕩けるような微笑みと甘い眼差しで見つめられている。
カパローニ邸に着く頃には記憶も朧げになるほどミリアムはのぼせ上がっていた。
◇
「うあああー!私は一体なんて事をしてしまったんだ!」
城に戻ったエミリオは執務室で悶ていた。時間が経つに連れ、昼間の己の暴走を思い出して、頭と胸を掻き毟る。
「なにが『今後は君に私の気持ちが伝わるように行動させてもらうよ』だ!馬鹿なのか!」
と言いつつ、ソファに転がりながら今日一緒に過ごしたミリアムを思い出す。
馬車の中で向かい合った時の微笑み、湖畔の美しさに息を呑む横顔、大好きなアマレットを頬張る小動物の様な愛らしさ、風に乱れた髪を耳にかけてやった時のこちらを見つめる潤んだ瞳、膝に乗せたときの柔らかさと壊れてしまうような繊細さ!
「…恥ずかしがる姿は何とも言えぬ可愛らしさだったな」
(ああ、いつの間にかこんなにも好きになっているとは…。最初は共通の悩みがあるから親しみを感じていただけだったはずなのに)
「ああ!それにしても、だ!私はなんて事を!膝に乗せて抱きかかえるなど!」
ドサドサ!
何か大量の書類を落としたような物音に、慌てて扉の方に振り向くと、鬼神のような表情をした美貌の側近がエミリオを睨みながら立っていた。
「……が……を……と?」
「うん?」
よく聞こえず近づくと襟首を掴まれる。
「誰が、誰を、どうしたと?」
「ひっ!お、落ち着けレオ」
レオナルドはエミリオから手を離すと落とした書類を拾い集め、エミリオの執務机に一束一束並べ始める。
「俺の聞き間違いでなければ、『膝に乗せて抱きかかえた』と聞こえたな」
「そ、そうだったか?」
「お前は今日、登城したミリィを馬車に同乗して送っていったな。いつものように」
「…う、うむ」
「つまり、あれか、お前は俺の可愛い天使のミリィを『膝に乗せて抱きかかえた』と、そういう事か?」
「……」
エミリオは何とも答えられず目を逸らす。
「日頃のアピールが全くもって報われないお前に多少同情していたし、ミリィにも『エミリオ様にも息抜きが必要ですわ。わたくしでお役に立てるなら、お兄様お願いです』などと、可愛いにも程があるお願いをされたから馬車に同乗しての送迎も目を瞑っていたんだ」
(お願いするミリアム嬢はさぞ可愛らしいだろうな…)
エミリオはミリアムに何かお願いされる場面を想像する。
コテンと首を傾げ、こちらを見上げながら『お願いですわ。エミリオ様』と言うミリアム。
(うむ、悪くない。むしろお願いされたい)
「おい、今何か想像しただろう」
美しい顔に青筋を立てた親友がさらに冷徹な視線を送ってくる。
「邪な事を考える余裕があるならば、息抜きなど必要あるまい。暇ならば仕事はいくらでもあるぞ。エミリオ第一王子殿下?」
薄い唇が弧を描き、執務机に書類の塔が出来上がる。
「議会に頼んで、陛下の分の書類も回していただきましょう。なに、直に立太子なさるのですから、問題ございませんよね?ご心配なさらずとも、もしミリィがまた登城する際には兄であるこの私が!しっかりと送りますから!殿下の出る幕は全く!全然!これっぽっちもございません!」
それからしばらくレオナルドの怒りは収まらず、エミリオはいつもの倍以上ある書類仕事に埋もれた。
◇
風を通すために開けた窓辺に腰掛け、アレッシアは夜の庭を眺めていた。
ふとした時に思い出す、あの男の言葉。
『侯爵家の中にいる君はいつもどこか苦しそうにしているね』
そして、唇に触れた柔らかで、それでいて熱い感触。
(本当に信じられない!なんて酷いことをするのかしら…分かったような事を言って…)
だがしかし、毎日考えない時はないのだ。今まで侯爵家の令嬢として恥ずかしくないようにと必死で自分を律してきた。
『澄ましている君も素敵だけど、感情的な君はもっと魅力的だ!』
(わたくしだって、もっと感情的になれればと思うこともあるわ。でも、貴族に生まれたからにはそうはいかないことだってある。それなのに、あの男…)
気がつくとあの男のことばかり考えている。
白銀の髪を肩まで伸ばし、金色の瞳をしたあの男。
強引で、自己中心的で、何を考えているかわからない、危険な感じのするあの男が、なぜこんなにも気になるのだろうか。
アレッシアはため息を一つつくと夜空に煌めく無数の星を眺めた。
エミリオの突然の告白に動揺したミリアムは真赤に染まったままの顔を両手で押さえて俯く。
「ああ、返事はいつでも構わない。突然すまなかった。だが、今後は君に私の気持ちが伝わるように行動させてもらうよ」
エミリオはニコッと笑うとミリアムの額に口づけを落とした。
「ぴゃっ!」
恥ずかしさの余りミリアムがおかしな声を出すと、エミリオは微笑みながらミリアムを自分の横に座らせた。
「さ、一旦忘れてお茶にしようか。アマレットをどうぞ?」
「は、はいぃ…」
以前よりも格段に甘さが混ざった瞳で見つめられると、ミリアムは混乱して大好きなアマレットの味も全くわからなくなってしまう。
(な、なんだかエミリオ様がおかしいわ…お兄様に相談…は出来ませんわ。わたくしエミリオ様のお膝に…ああ、なんでこんな事に!?顔が熱いですわ。どうしましょう…)
帰りの馬車もいつもの様に向かい合わせではなく、隣に座らされ手を握られていた。時折ちらりとエミリオに視線を向けると、蕩けるような微笑みと甘い眼差しで見つめられている。
カパローニ邸に着く頃には記憶も朧げになるほどミリアムはのぼせ上がっていた。
◇
「うあああー!私は一体なんて事をしてしまったんだ!」
城に戻ったエミリオは執務室で悶ていた。時間が経つに連れ、昼間の己の暴走を思い出して、頭と胸を掻き毟る。
「なにが『今後は君に私の気持ちが伝わるように行動させてもらうよ』だ!馬鹿なのか!」
と言いつつ、ソファに転がりながら今日一緒に過ごしたミリアムを思い出す。
馬車の中で向かい合った時の微笑み、湖畔の美しさに息を呑む横顔、大好きなアマレットを頬張る小動物の様な愛らしさ、風に乱れた髪を耳にかけてやった時のこちらを見つめる潤んだ瞳、膝に乗せたときの柔らかさと壊れてしまうような繊細さ!
「…恥ずかしがる姿は何とも言えぬ可愛らしさだったな」
(ああ、いつの間にかこんなにも好きになっているとは…。最初は共通の悩みがあるから親しみを感じていただけだったはずなのに)
「ああ!それにしても、だ!私はなんて事を!膝に乗せて抱きかかえるなど!」
ドサドサ!
何か大量の書類を落としたような物音に、慌てて扉の方に振り向くと、鬼神のような表情をした美貌の側近がエミリオを睨みながら立っていた。
「……が……を……と?」
「うん?」
よく聞こえず近づくと襟首を掴まれる。
「誰が、誰を、どうしたと?」
「ひっ!お、落ち着けレオ」
レオナルドはエミリオから手を離すと落とした書類を拾い集め、エミリオの執務机に一束一束並べ始める。
「俺の聞き間違いでなければ、『膝に乗せて抱きかかえた』と聞こえたな」
「そ、そうだったか?」
「お前は今日、登城したミリィを馬車に同乗して送っていったな。いつものように」
「…う、うむ」
「つまり、あれか、お前は俺の可愛い天使のミリィを『膝に乗せて抱きかかえた』と、そういう事か?」
「……」
エミリオは何とも答えられず目を逸らす。
「日頃のアピールが全くもって報われないお前に多少同情していたし、ミリィにも『エミリオ様にも息抜きが必要ですわ。わたくしでお役に立てるなら、お兄様お願いです』などと、可愛いにも程があるお願いをされたから馬車に同乗しての送迎も目を瞑っていたんだ」
(お願いするミリアム嬢はさぞ可愛らしいだろうな…)
エミリオはミリアムに何かお願いされる場面を想像する。
コテンと首を傾げ、こちらを見上げながら『お願いですわ。エミリオ様』と言うミリアム。
(うむ、悪くない。むしろお願いされたい)
「おい、今何か想像しただろう」
美しい顔に青筋を立てた親友がさらに冷徹な視線を送ってくる。
「邪な事を考える余裕があるならば、息抜きなど必要あるまい。暇ならば仕事はいくらでもあるぞ。エミリオ第一王子殿下?」
薄い唇が弧を描き、執務机に書類の塔が出来上がる。
「議会に頼んで、陛下の分の書類も回していただきましょう。なに、直に立太子なさるのですから、問題ございませんよね?ご心配なさらずとも、もしミリィがまた登城する際には兄であるこの私が!しっかりと送りますから!殿下の出る幕は全く!全然!これっぽっちもございません!」
それからしばらくレオナルドの怒りは収まらず、エミリオはいつもの倍以上ある書類仕事に埋もれた。
◇
風を通すために開けた窓辺に腰掛け、アレッシアは夜の庭を眺めていた。
ふとした時に思い出す、あの男の言葉。
『侯爵家の中にいる君はいつもどこか苦しそうにしているね』
そして、唇に触れた柔らかで、それでいて熱い感触。
(本当に信じられない!なんて酷いことをするのかしら…分かったような事を言って…)
だがしかし、毎日考えない時はないのだ。今まで侯爵家の令嬢として恥ずかしくないようにと必死で自分を律してきた。
『澄ましている君も素敵だけど、感情的な君はもっと魅力的だ!』
(わたくしだって、もっと感情的になれればと思うこともあるわ。でも、貴族に生まれたからにはそうはいかないことだってある。それなのに、あの男…)
気がつくとあの男のことばかり考えている。
白銀の髪を肩まで伸ばし、金色の瞳をしたあの男。
強引で、自己中心的で、何を考えているかわからない、危険な感じのするあの男が、なぜこんなにも気になるのだろうか。
アレッシアはため息を一つつくと夜空に煌めく無数の星を眺めた。
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