【本編完結】おかわりはいかが?〜偉大なる魔女たちの優雅なお茶会〜

上木 柚

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第三章

エレオノーラ邸にて

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 ◇


「ようこそ我が邸へ」
「お、お招きいただきありがとうございますわ」

 魔境と王国を分断する大渓谷の中、巨大な岩を利用したエレオノーラの邸の外観は、まるで岩の中に埋もれている様な不思議なものだった。
 エレオノーラに招かれ中に入ると、室内の壁は一部に剥き出しの岩肌を残しつつ、渓谷側の壁一面を使った大きな窓からはどこまでも続いていく雄大な渓谷の岩壁と、谷底を流れる大河が一望でき、その圧巻のスケールに初めてここを訪れたミリアム、エミリオ、レオナルドの三名は息を呑んだ。

「すごい眺めだな」
「まさか断崖絶壁の途中に邸があるとは…」

 三人がエレオノーラの邸に召喚されると、すでにそこにはベアトリーチェ、ヴァレリア、ロビンが揃っていた。

「ミリィお姉さん!」
「まあ、ロビン!」

 両手を広げながら嬉しそうにロビンが走ってくると、ミリアムも同じ様に両手を広げてロビンを抱きしめた。
 それを見ていたエミリオとレオナルドだが、反応はそれぞれだ。
 天使のような幼い少年と愛する妹の心温まる交流にレオナルドが頬を緩ませていると、わずかに眉間に皺を寄せたエミリオが口を開く。

「レオ、私はおかしいのだろうか」
「うん?」
「今ロビンに嫉妬している」
「…子供だぞ?」

 ロビンに手を引かれベアトリーチェ達のいるサロンへと進むミリアム。そんな二人の姿を眺めながらエミリオは「はぁ」とため息をつく。

「私だってミリアム嬢と手を繋ぎたいし、抱き締めたいし、あんなに嬉しそうな顔で迎えられたい」
「…エミル、お前なかなか気持ち悪い奴だな」

 話し込みなかなか進んでこない二人にミリアムが気付き、声をかける。

「お兄様、エミリオ様!どうされたのですか?」

 手を振るミリアムを見てエミリオは頬を緩め、ミリアムに駆け寄って行った。

「…重症だな」


 ◇


「この図案の場合、ここはバックステッチよりチェーンステッチにした方が良くなる、ほら」
「まあ、本当ですわ!こちらの方が華やかになりますのね」
「ここまで刺したら声をかけて」
「はい!ありがとうございます」

 本日刺繍を教わるついでに子守要員として呼ばれたミリアムが、ロビンの子守をしながら刺繍に勤しんでいる間に、他の者は一連の事件について話し合う。

「それじゃあ、今日は一連の事件について状況を整理しつつ、犯人の目論見を推測するわよぉ。それによって次に打つ手を考えましょう」

 ベアトリーチェの声掛けに各々姿勢を正す。
 今日エレオノーラの邸で会議をしているのは訳があった。
 アレッシア誘拐事件の際、“ジル”の正体とフェリーネ家の事がわかった途端にアレッシアが解放された。おまけに花園の邸に踏み込んだ時にはすでに邸はもぬけの殻。恐らく王城内には間諜がいることが疑われた。
 よって、一連の事件に関連していそうな“人為的異世界転移事件”、“黒龍事件”、“アレッシア誘拐事件”の3つは議会に通さずに秘密裏に捜査を進めることにした。
 会議をしていること自体を悟らせない為、ベアトリーチェの邸に集まることを控えることにしたのだ。
 ヴァレリアの邸はこれだけの人数が入るには手狭なので、今回エレオノーラの邸に集まることとなった。

「まずロビンの件。これが一番手掛かりが少ないが、異世界転移という点から考えると魔法に長けているものが絡んでいる事は確かだ」
「樹海でロビンを発見した位置から、最初にロビンが召喚された場所は恐らく王都周辺ね。あの辺りは猛獣も魔獣も比較的少ないから、捨てる方も樹海の奥まで入りやすい」
「おかげでロビンもヴァレリアが保護するまで無事でいられたわけだがな」

 もし、捨てられたのが獣が多い場所だったらどうなっていたか…。考えただけでも恐ろしい。
 現在は樹海の邸で共に暮らし、一番ロビンと一緒にいる時間の長いヴァレリアは怒りで眉を顰める。

「あの子の記憶では犯人は赤いローブの集団、あれこれ指示を飛ばしてた中心人物は中年の男だったわ。…樹海に捨てろと命じたのもそいつ。絶対に赦さない」
「シアの誘拐の時も実行犯は“赤いローブの集団”だったな。誘拐先での身の回りの世話は基本的には“ジル”と呼ばれる男、ジルベルト・ダッラ・ディ・フェリーネが行っていたようだが、時折ジルに指示を仰ぎに来る赤いローブの人間を目撃したそうだ」
「じゃぁ、その中年の男は現フェリーネ伯なのかしらぁ?」
「それを決めつけるのはまだ時期尚早だな…状況証拠しかない」

 エレオノーラは先日魔女二人に見せた小瓶を棚から取り出し、エミリオとレオナルドに渡す。

「これは?」
「恐らくは黒龍の幼体の血液を固めたものだ。渓谷の谷底に消音の魔法陣がいくつか敷かれ、そこに設置されていた」
「消音の魔法陣?」
「ああ、そこには黒龍の幼体の悲鳴が籠められている。今は封印しているから大丈夫だが、何もしなければ常にその赤い石から悲鳴が発され続ける。それでは人間の耳にも聞こえてしまうから、消音の魔法陣の上に設置することで聴覚が異常発達した黒龍にだけに聞こえるようにしたんだ」
「つまり、黒龍の若い個体は人為的に誘い出された…となるのですね」

「酷いことを…」とエミリオとレオナルドが眉間に皺を寄せる。

「ですが、なぜわざわざそんな事を?黒龍の髭と漆黒の魔石が目的ならば、幼体を仕留めた時点で目的は達せられているはずです」

 エミリオの言葉にエレオノーラは自嘲ぎみに答える。

「恐らくは、若い個体を使って私を消そうとしたんだろう」
「エレオノーラ様をですか!?まさか救国の魔女に手をかけるなど!」
「多くの者は代替わりしていると思っているが、真実を知る者の中には私をよく思わない者は多い。私はダークエルフと人間のハーフだからな」
「エリー…」
「それでな、フェリーネが起こした“救国の魔女排除運動”について思い出していたんだが、今回の騒動はその続きなんじゃないのか?」

 エレオノーラの発言にヴァレリアはハッとする。

「そうか!フェリーネ家では白銀の髪に金色の瞳の人間は聖なる竜の血を色濃く受け継いでいる者だと信じられていた。これを“混ざりあいし者”と解釈した」
「“ジル”はイヴァンに高貴な血筋の美しい娘を探していると言って近づいてきたと言ったな。それが“高貴なる者”か…」
「それで“遠きところより遣わされし者”を得るために異世界転移…なるほど。しかし、疑問があるのだが」

 レオナルドの言葉に全員が振り返る。

「“高貴なる者”、“遠きところより遣わされし者”がである必要はあるのか?しかも“高貴なる者”の時には態々高貴な血筋のと言っているが?」
「それはたぶん犯人の趣味でしょうね!」

 ヴァレリアの言葉に一同は「え、何かすごく嫌だな」と遠い目になった。
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