【本編完結】おかわりはいかが?〜偉大なる魔女たちの優雅なお茶会〜

上木 柚

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第三章

ミリアム、恋の自覚

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 ◇


 エレオノーラ邸での話し合いでの話し合いでは、アレッシア周辺の警備の強化、ジルベルト・ダッラ・ディ・フェリーネ伯爵令息の捜索、現フェリーネ伯爵と【真・救国神教】との繋がりの捜索などが決まった。
 その後は当初予定していた渓谷の視察を恙無く終え、一同は帰路につくことになった。
 エレオノーラが杖を取り出し、ミリアムをカパローニ邸に転移させようとした時、エミリオがそれを止めた。

「エレオノーラ様!ちょっとお待ち頂いてもよろしいでしょうか?」
「ん?かまわないが、なんだ?逢い引きの約束でもするのか?」

 エレオノーラの言葉にエミリオはニコッと笑う。

「そうですね。ミリアム嬢が頷いてくれればそうなります」

 今までとは違うエミリオの反応にエレオノーラは少々目を見張ったが、その中性的な美貌でいたずらっぽく微笑んだ。

「ならば私はミリアムを王城に飛ばしてしまおう。エミルと一緒にな」

 その言葉にエミリオは破顔し、ミリアムの手を取った。

「え?エミリオ様?」
「カパローニ邸までしっかり送れ」
「ありがとうございます!エレオノーラ様!」

 突然の出来事に驚くミリアムと、そんなミリアムを愛しそうに見つめるエミリオを王城に飛ばし、エレオノーラは邸に戻る。
 邸ではレオナルドがまだベアトリーチェ、ヴァレリアと何かを話していたが、エレオノーラに気付き、ミリアムを邸まで送ってもらったことへの礼を言いに来た。

「ありがとうございます。妹を送って頂いて…、あれ?殿下も見送りに行きませんでしたか?」
「おや、間違えて二人で王城に送ってしまったな。すまん」 

 悪びれた様子もないエレオノーラに、レオナルドは嘆息する。

「態とですね?エレオノーラ様」
「ははは、どうだろうな?」
「まあ、いいでしょう。仕方ない」

 妹の事になると見境がなくなるレオナルドの態度の変化に魔女達はザワつく。

「あらぁ!なぁに?怒らないの?レオちゃん」
「レ、レオちゃん…?まあ、いいでしょう」
「シスコン兄貴もついに認めたって訳?」
「どういう心境の変化だ?」

 魔女達に囲まれ、レオナルドは肩をすくめる。

「俺は可愛い天使ミリィの兄であると同時に、エミリオ第一王子殿下の親友なんですよ。どちらも大切なんです。大切な者同士が一緒になるなら、まあ、それもアリかと最近思いまして」
「へぇ、まあどんな人間かはよくわかってるしね」

 レオナルドは先程ロビン相手に嫉妬していたエミリオを思い出し、思わず吹き出す。

「いや、ミリィの事になると見たこともなかったあいつが出てきて、驚くことも多いですがね」
「まあ、恋なんてそんなものだ」

 笑い合うと、レオナルドはベアトリーチェと、ヴァレリアはロビンと一緒に光に包まれ、それぞれの場所に戻って行った。


 ◇


 ミリアムとエミリオは王城の庭園の中にある四阿にいた。
 ミリアムは顔を真っ赤に染め、俯いている。エミリオがあれこれと話しかけてくるが、気もそぞろでそれどころではない。
 なぜならピッタリと寄り添うように隣に座らされ、ガッチリと腰に腕を回されているからだ。

(ち、近い近い近い近いですわ!)

 なぜこんな事になったのか。遡ること半刻前。

 ――――

「渓谷では君とあまり話せなかったから、エレオノーラ様に頼んで王城に転移させてもらったよ」

 ミリアムの手を取り、エミリオが微笑む。
 二人は転移してきた王城の庭園をそのまま散策していた。

「まあ、そうでしたの」

 先日の告白の一件以来、エミリオと初めて顔を合わせたミリアムは、エミリオの顔を見るたびに湖畔での出来事を思い出し、悶々としていた。

(エミリオ様の顔を見ると、何だか動悸がして、こう、鳩尾あたりがフワフワするわ…わたくしどこかおかしいのかしら…)

「今日はエレオノーラ様の邸で刺繍を刺していたんだろう?上手く出来たかな?」
「ええ、エレオノーラ様は教え方がとてもわかり易くて、とても勉強になりましたわ」
「そう。何を刺したの?」

 エミリオが尋ねるとミリアムは恥ずかしそうにもじもじとしだした。

(おい!なんだこの可愛い生き物は!)

 エミリオはその様子に身をよじって叫びだしたくなったが、なんとか耐えた。

「あの、いつもエミリオ様はお花やお菓子を下さいますし、馬車で態々邸まで送って下さっていますのに、わたくし何もお返し出来ておりませんでしょう?」
「そんなことは気にしなくてもいい(純粋に下心の割合のほうが多いからな)」
「いえ、それはいけませんわ」

 頬を少し膨らませて見上げてくるミリアムにエミリオは天を仰いだ。

(く!わざと?わざとなのか?)

「受けた分はきちんとお返ししませんと。ですから、わたくしエミリオ様に差し上げたくて、その、手巾に刺繍をしましたの。貰ってくださいますか?」

 先程エレオノーラに教わりながら仕上げたイニシャルの“E”に繊細な蔦模様が刺繍された手巾をミリアムが差し出すと、何かが弾け飛んだエミリオはミリアムの腰と膝裏に腕を回し、横抱きに抱きかかえると、庭園の中にある四阿に向かった。
 突然抱き上げられ、驚いたミリアムは思わずエミリオの首に手を回しバランスを取ったが、次の瞬間、密着しすぎた姿勢が恥ずかしくなり、手を離そうとする。

「離さないで。そのまま掴まってくれていたほうが抱き上げやすい」

 耳元で囁かれると「ぴゃっ!」とおかしな声を上げる。
 それを聞いたエミリオはフッと蕩けるように微笑む。

「可愛い」

 耳元でまた囁かれると、ミリアムは耳まで赤く染まり、顔を背けた。

「おおお、降ろして下さいまし…」

 蚊のなくような震える声でそう告げると、エミリオは残念そうにしながらも四阿の長椅子にミリアムを座らせ、自身はピタリと寄り添うように横に陣取ったのだ。

 ――――

「ありがとう。ミリアム嬢。すごく嬉しいよ」
「い、いえ。申し訳ございません。きちんと包んで贈りたかったのですが…」
「いや、構わないよ。むしろその分早く貰えた」

 エミリオはミリアムの胡桃色の髪を一房手に取り、口づけている。

(ああ、なんて可愛らしいんだミリアム!なんならもう婚約を打診してしまってもいいんじゃないか?よく考えたらこんなに可愛らしいんだから誰かに先を越されてしまうかもしれないじゃないか!)

 ミリアムを捉えたまま、急に神妙な顔で考え込んだエミリオにミリアムは不安げな表情を向ける。

「あ、あのエミリオ様?どうかなさいましたか?」
「うん?いや、ミリアムはこんなに可愛らしいから誰かに取られてしまう前に婚約を打診しなければと…」
「ええ?」
「え?って、こ、声に出していたか!?」

 どうやら心の声が漏れ出てしまったらしいエミリオはわかり易く狼狽えた。
 ミリアムも好意を隠さなくなったエミリオに胸が高鳴るばかりだった。

「あ、あの、わたくし恋をしたことが、異性を意識した事があまりなくて…」
「うん」
「で、でも、ここ数日、エミリオ様の事が頭から離れないのです。ふとした時にエミリオ様の事を考えてしまって、刺繍をしながらついボンヤリしてしまって…」

 針で刺した跡がたくさん残る左手をエミリオに見せると、エミリオは愛おしそうにその手を握った。

「今日も、エミリオ様のお顔を見るたびに、わたくしなんだか恥ずかしくて、胸がキュンっと苦しいのです。これって何なんでしょうか?」

 ミリアムの言葉にエミリオは愛しさが募り、思わず肩を抱き寄せた。ミリアムが絡み合う視線を逸らせずにいると、エミリオは蕩けるような笑顔を向ける。

「私も同じ気持ちだ。いつも君の事を考えてしまうし、笑顔を見ると抱き締めたくなる。君が好きなんだ」
「好き、この気持ちが“好き”なんですのね…」

『好き』という言葉をゆっくり噛みしめると、ミリアムは遠慮がちに微笑んでエミリオに告げる。

「わたくし、エミリオ様の事をお慕いしていたようです。婚約のお話、謹んでお受けいたしますわ」

 その瞬間、エミリオは歓喜に震え、そのままミリアムを自身の胸の中に閉じ込めた。
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