【本編完結】おかわりはいかが?〜偉大なる魔女たちの優雅なお茶会〜

上木 柚

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第三章

婚約そしてお忍び

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 ◇


 カシャーン

「あなた、落としましたわよ?」

 フェルディナンドは持っていたカトラリーを落とした。給仕のメイドがササッとそれを拾い、新しいものと交換する。


 帰宅後、ミリアムはエミリオから婚約の話があったことや、明日には王家から打診がくることなどを家族に話しておくべきだと考えた。
 今日はレオナルドも早く帰宅していたので、家族全員で夕食を摂ることになったので、ちょうど良い機会だと思い、食後のドルチェのタイミングで切り出したのだ。

「ミ、ミリィ…。お父様の聞き間違えかな?その、エミリオ第一王子殿下と恋仲みたいに聞こえたんだが?おまけに婚約がどうとか…はっ!幻聴か…!?」
「あなた、幻聴でも何でもありませんよ。現実逃避はお止めになってくださいな」

 タチアナは現実を受け止めきれないフェルディナンドを諌めると、ミリアムにその女神もかくやと言われる微笑みを向ける。

「ミリィ。貴女がそう決めたのなら、お母様は止めません。ですが、エミリオ第一王子殿下の婚約をお受けするという事がどういう事か、きちんとわかっているのよね?」

 国内有数の大貴族であるカパローニ侯爵家の令嬢が第一王子と婚約するということ。
 それはすなわち、カパローニ侯爵家が第一王子の後ろ盾となると言うことだ。
 第一王子と第二王子との間に起きていた王位継承争いを終結させ(実際には既に決着はついているが)第一王子を次期国王として立太子させることを意味する。

 つまるところ、ミリアムは王太子妃に、ゆくゆくは王妃となり国王となったエミリオと国を支えていくこととなるのだ。
 当然、婚約を受けた時点から王妃教育や今までとは比べられない量の社交も始まる。
 生活はガラリと変わり、近付いてくる人間も増える。

 ミリアムはゴクリと唾を飲み込むと、今までにない強い眼差しで愛する家族を見つめる。

「はい。覚悟は出来ています。わたくしは王太子妃として、そしてゆくゆくは王妃として、エミリオ様と、そしてこの国を支えていきます」

 いつの間にこんなにしっかりしたのだろうか。つい最近まで、家族の陰に隠れるように、いつも一歩引いた所で控え目に微笑んでいた末の娘。
 そんな彼女を家族はとても心配し、その小さな野花の様な可憐で健気な美しさをいつでも愛おしく思っていた。
 それが、今はその美しさの中に自信という凛とした大きな一輪が花開き、小さく可憐だった美しさが、まるで花束の様に纏まってさらに美しくなったのだ。
 その姿に兄と姉は頷き、母は微笑み、父は…号泣した。

「ミリィ…私の天使…。レオ、私は隠居して領地に籠ろうと思う。家督を継いでくれ」
「いずれは継ぎますが、今はまだダメです」

 フェルディナンドはショックの余りに隠居を口にしたが、レオナルドにすぐ様断られた。

 そして翌日、正式に王城より使者が訪れ、王家より第一王子エミリオとカパローニ侯爵家次女ミリアムの婚約が打診され、カパローニ侯爵家はこれを了承した。

 三月後には婚約式とお披露目を行い、一年後に成婚する運びとなった。


 ◇


 ミリアムとエミリオは手を取り合い歩いていた。

 ミリアムは装飾が控え目で上質な素材で出来た水玉模様のワンピースに、胡桃色の髪は緩く一本の三つ編みを碧いリボンで纏めて、白地に碧い花の装飾が付いた帽子を被っている。エミリオはグレーのトラウザーズに白いシャツ、黒いベスト、トラウザーズと同色のジャケットを羽織り、薄茶色のタイを締め、黒い帽子を被っている。

 ちょっと裕福な商家の子息、令嬢スタイルで、先日約束した街でのお忍びデートに繰り出していた。

「連れて行きたい所というのはどこなんでしょうか、エミリオ様」
「着くまで内緒だよ、ミリィ。だめだよ、今日はお忍びなんだから、エミルと呼んでくれ。様はいらないよ」

 エミリオはミリアムの肩を抱き寄せると、「さあ、どうぞ」と愛称で呼ぶ事を促す。

「…エ、エミル」

(うわぁぁぁぁぁぁぁ!可愛い可愛い!なんって暴力的な!)

 エミリオは胸を掻きむしりながら天を仰いだ。
 そのおかしな行動にミリアムはギョッとしつつ、エミリオの腕にそっと手をのせる。

「あ、あの、街はとても人通りが多いのですね。はぐれてしまわないように、この様に腕につかまっていても構いませんか?」

 ミリアムが不安そうにエミリオを見上げると、感極まったエミリオはミリアムを抱き上げた。

「いくらでも掴まってくれ!何なら抱き上げて行ってもいいくらいだ!」
「それは流石に恥ずかしいので、降ろして下さいませ!」

 婚約が決まってからというもの、ぐいぐいと来るエミリオのスキンシップにミリアムは嬉しさと恥ずかしさが押し寄せて、困惑していた。

「エミル!手を、手を握るくらいで良いのですわ!人前ですから!」

 その言葉にエミリオは口を尖らせ、しぶしぶミリアムを下に降ろす。
 ちなみに遠くはなれた所から、王都民に変装した護衛が何人も取り囲んでいるのだが、エミリオの過剰なスキンシップに全員生暖かい視線を送っている。
 そんなやり取りをしながら、のんびりと街を歩いて、一行は一軒の店の前に到着した。

「さあここだ。着いたよ」

 ミリアムは看板を見上げて破顔した。

「まあ!ここは“プロドッティ・ダ・フォルノ”!」

 口元に手をあてて、嬉しそうに笑うミリアムを見てエミリオは思わずニヤける。

「手紙でいつか行ってみたいと言っていただろう?」
「覚えていてくださったのですね!嬉しいです!」

 そう言ってエミリオの腕に思わず抱きついたミリアムに「連れてきて良かった!今なら空も飛べそうだ!」と浮かれるエミリオだった。
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