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第四章
ジルからの接触
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◇
時間は少し遡り、王城の翡翠宮にあるエミリオの執務室では部屋の主であるエミリオが苛立たしげにウロウロしていた。
「ミリアムの居場所はまだ分からないのか!?ああ、こんな事なら紅玉宮の護衛をもっと増やしておくべきだった!」
――――【真・救国神教】の潜伏先と言われていた郊外の邸から空間転移で帰還し、真っ先にミリアムとロビンのいる紅玉宮に向かった。
ベアトリーチェの邸のある中庭を囲むように建てられたいくつかの宮のうち、賓客をもてなす為に建てられた紅玉宮は、王族が居住する金剛宮に次いで厳重な警備が敷かれていた。
しかし、それが今回油断を招く結果となった。
エミリオは紅玉宮に着くと、すぐに異変に気付いた。
ミリアムを案内させた客室付近に配していた護衛が皆何故か別の場所にいる。
すぐ確認すると、エミリオの名で位置変更の指示が入ったと言うが、無論そんな指示は出していない。
客室付近の護衛全員に別の場所への配置替えの指示が入った結果、厳重な警備体制の紅玉宮において、全く護衛のいない箇所が意図的に作り出されてしまっていたのだ。
そして急ぎ部屋に向かうと、そこに居るはずの、笑顔で帰りを迎えてくれるはずの愛しい人は忽然と姿を消していた。――――
―――コンコンコン
扉がノックされると同時に開けられる。許可の返事を待たずに、第一王子たるエミリオの執務室に入ってくるのはレオナルド以外にはいない。
「そっちはどうだった!?空間転移は使えそうか!?」
ベアトリーチェがいつもの空間転移による遠隔地からの強制召喚を試みていたので、一縷の望みをかけて尋ねるが、レオナルドは沈んだ表情で首を横に振った。
「残念ながら対策されていて、手が出せないらしい。加えて面倒な事が起こった」
「なんだ?」
「イヴァン王子も拐われた」
レオナルドの言葉にエミリオは絶句した。
「まさか…」
「おそらく既成事実を作るつもりだろう。噂が広まれば例え何もなかったとしてもお前の婚約者に据えるのが難しくなる。しかし、噂の当人同士なら新たに婚約しても、まあ、許容範囲内だ。後はお前を始末出来れば王位継承権自体は剥奪されていないから、王位もカパローニの娘も手に入る。腹黒い公爵閣下の考えそうなことだ」
「…クソッ!」
―――ガタガタッ
窓の方から物音がし、そちらを見てみると窓に何か紙が挟まっている。
「なんだ?」
不思議に思いレオナルドがその紙を確認する。
途端に訝しげな表情になる。
「レオ?何が書いてあるんだ?」
「これは…見てみろ」
渡された紙を見ると、サンタンジェロ公爵領のうち、王都から半刻程の距離にある別邸の住所と闇夜に紛れて囚われた者を敷地外に連れ出す旨、そして最後に―――“G”と書かれていた。
「信用できるのか?Gって…?」
その時、カパローニ家の侍従から、アレッシアがカパローニの密偵を手配した旨の報告が入る。
レオナルドはこれ幸いと、その手紙に書かれた場所の偵察を密偵に指示し、数刻後、どうやら本当にそこに囚われていそうだと、出入りする赤いローブの人間や周囲の状況から判断した報告を受け取った。
◇
「Gは…間違いなくジルベルト・ダッラ・ディ・フェリーネだな」
エレオノーラはエミリオの執務室に届いた手紙を確認しながら、手紙に僅かに残る魔力の残滓を探る。微かに感じるのは己に宿る白銀の竜の力と同じ力だ。
そして思い出す。先日初めて邂逅した白銀の髪に金色の瞳の青年を。
エミリオとミリアムが襲撃されたあの日、その男は確かに現場近くの屋根の上にいた。
しかし、それは加勢するためではない様子だった。哀れみと軽蔑がない混ぜになった様な複雑な表情を浮かべ、白くなるほどに握り込まれた手からは、その強さで傷つけてしまったのか、血が滴っていた。
エレオノーラの接近に気付くと、予備動作もなく魔法で風の刃を飛ばしてきた。
普通の人間が放ったものであれば避けることなど容易いエレオノーラも、想定外のその速さに一瞬遅れを取り、腕を負傷してしまった。
しかし、それだけでその男、ジルベルト・ダッラ・ディ・フェリーネは空間転移で姿をくらましてしまった。
その際被っていたフードが取れ、一瞬だけ白銀の髪と金色の瞳が見えた。
「あの男には、何か事情がありそうだ。カパローニの密偵からもこの邸に囚われていそうだと言う情報があるのであれば、我々もそこに向かってみよう。もちろん、また他に移動する可能性も視野に入れて、別口で捜索は続ける」
エミリオの提案に一同は頷くと、早速件の邸に向かうべく準備を開始した。
時間は少し遡り、王城の翡翠宮にあるエミリオの執務室では部屋の主であるエミリオが苛立たしげにウロウロしていた。
「ミリアムの居場所はまだ分からないのか!?ああ、こんな事なら紅玉宮の護衛をもっと増やしておくべきだった!」
――――【真・救国神教】の潜伏先と言われていた郊外の邸から空間転移で帰還し、真っ先にミリアムとロビンのいる紅玉宮に向かった。
ベアトリーチェの邸のある中庭を囲むように建てられたいくつかの宮のうち、賓客をもてなす為に建てられた紅玉宮は、王族が居住する金剛宮に次いで厳重な警備が敷かれていた。
しかし、それが今回油断を招く結果となった。
エミリオは紅玉宮に着くと、すぐに異変に気付いた。
ミリアムを案内させた客室付近に配していた護衛が皆何故か別の場所にいる。
すぐ確認すると、エミリオの名で位置変更の指示が入ったと言うが、無論そんな指示は出していない。
客室付近の護衛全員に別の場所への配置替えの指示が入った結果、厳重な警備体制の紅玉宮において、全く護衛のいない箇所が意図的に作り出されてしまっていたのだ。
そして急ぎ部屋に向かうと、そこに居るはずの、笑顔で帰りを迎えてくれるはずの愛しい人は忽然と姿を消していた。――――
―――コンコンコン
扉がノックされると同時に開けられる。許可の返事を待たずに、第一王子たるエミリオの執務室に入ってくるのはレオナルド以外にはいない。
「そっちはどうだった!?空間転移は使えそうか!?」
ベアトリーチェがいつもの空間転移による遠隔地からの強制召喚を試みていたので、一縷の望みをかけて尋ねるが、レオナルドは沈んだ表情で首を横に振った。
「残念ながら対策されていて、手が出せないらしい。加えて面倒な事が起こった」
「なんだ?」
「イヴァン王子も拐われた」
レオナルドの言葉にエミリオは絶句した。
「まさか…」
「おそらく既成事実を作るつもりだろう。噂が広まれば例え何もなかったとしてもお前の婚約者に据えるのが難しくなる。しかし、噂の当人同士なら新たに婚約しても、まあ、許容範囲内だ。後はお前を始末出来れば王位継承権自体は剥奪されていないから、王位もカパローニの娘も手に入る。腹黒い公爵閣下の考えそうなことだ」
「…クソッ!」
―――ガタガタッ
窓の方から物音がし、そちらを見てみると窓に何か紙が挟まっている。
「なんだ?」
不思議に思いレオナルドがその紙を確認する。
途端に訝しげな表情になる。
「レオ?何が書いてあるんだ?」
「これは…見てみろ」
渡された紙を見ると、サンタンジェロ公爵領のうち、王都から半刻程の距離にある別邸の住所と闇夜に紛れて囚われた者を敷地外に連れ出す旨、そして最後に―――“G”と書かれていた。
「信用できるのか?Gって…?」
その時、カパローニ家の侍従から、アレッシアがカパローニの密偵を手配した旨の報告が入る。
レオナルドはこれ幸いと、その手紙に書かれた場所の偵察を密偵に指示し、数刻後、どうやら本当にそこに囚われていそうだと、出入りする赤いローブの人間や周囲の状況から判断した報告を受け取った。
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「Gは…間違いなくジルベルト・ダッラ・ディ・フェリーネだな」
エレオノーラはエミリオの執務室に届いた手紙を確認しながら、手紙に僅かに残る魔力の残滓を探る。微かに感じるのは己に宿る白銀の竜の力と同じ力だ。
そして思い出す。先日初めて邂逅した白銀の髪に金色の瞳の青年を。
エミリオとミリアムが襲撃されたあの日、その男は確かに現場近くの屋根の上にいた。
しかし、それは加勢するためではない様子だった。哀れみと軽蔑がない混ぜになった様な複雑な表情を浮かべ、白くなるほどに握り込まれた手からは、その強さで傷つけてしまったのか、血が滴っていた。
エレオノーラの接近に気付くと、予備動作もなく魔法で風の刃を飛ばしてきた。
普通の人間が放ったものであれば避けることなど容易いエレオノーラも、想定外のその速さに一瞬遅れを取り、腕を負傷してしまった。
しかし、それだけでその男、ジルベルト・ダッラ・ディ・フェリーネは空間転移で姿をくらましてしまった。
その際被っていたフードが取れ、一瞬だけ白銀の髪と金色の瞳が見えた。
「あの男には、何か事情がありそうだ。カパローニの密偵からもこの邸に囚われていそうだと言う情報があるのであれば、我々もそこに向かってみよう。もちろん、また他に移動する可能性も視野に入れて、別口で捜索は続ける」
エミリオの提案に一同は頷くと、早速件の邸に向かうべく準備を開始した。
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