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雑踏の中、あの人を探して。
しおりを挟む渋谷のスクランブル交差点では、一日に25万人、休日なんかでは最大で50万人が通行するという。
青信号一回で、約3000人だそうだ。
私の知り合いを全員かき集めても、青信号一回分の人数にも及ばないだろう。
私はスクランブル交差点が見下ろせるカフェで、キャラメルフラペチーノを飲んでいた。
いつもは友達と来るんだけど、今日は一人。
一人で来たかっただけ。
窓際のカウンター席で、ただじっと交差点を見下ろす。
縦横無尽に渡って行く人たちを見ながら、3000人もいるのか、と思ったけど、それよりもすれすれの距離でぶつからずにすれ違っていく日本人はすごいなと感心した。
外国人が忍者だと言うのも無理はない。
歩きスマホしていてもあの人混みの中をすいすい避けるのだから、そのスキルの高さは異常だ。
信号が赤に変わり、人々はまばらに駆け足で渡り終えていく。
それをギリギリまで待って、今度は車が交差点を走り抜ける。
その間に、交差点を挟むようにして人々が溜まって。
青になると、いろんな方向からいろんな方向へと、一斉に流れ出す。
横断歩道の白線などお構いなし。毎日渋谷を通る人間にとって、あんな白線、あってもないのと同じだ。
何度も何度も同じ光景をじっと眺める。
上から眺める私には、交差点を渡る人たちの顔は見えない。
知り合いが通ったかどうかなんて、分かるはずがない。
普通に考えて、分かるはずがないのだ。
だけど私には、自信があった。何の根拠もない自信だ。
この3000人の中にあの人がいれば、私には分かると確信していた。
実際、先月、今日と同じくらいの時間に、友達とこの席に座っていた時。私はあの人混みの中で、あの人を見つけた。
顔を見たわけじゃない。正直丸三年は会っていないし、背も伸びて髪型も少し変わっていたようだけど、絶対にあの人だと思った。
私はたぶん、心の奥底で後悔していたんだと思う。
三年前の卒業式の日に声をかけなかったことを。
だから先月、あの人だって、思った瞬間に、追いかけたくなったのだ。
一人だったら間違いなく追いかけていた。
でも友達といたから、追いかけられなかった。
これは言い訳かもしれない。追いかけるにしても、心の準備も、確かに出来ていなかった。
そして、忘れていたと思っていたのに、突然ぶり返してきた奇妙なわだかまりだけが、一ヶ月心の中に残った。
それが今、私をここに座らせる。
変な自信と、期待感を持たせて。
少しだけ残ったキャラメルフラペチーノは、もう溶けている。
一口で飲み終えて、ゴミ箱に捨てられる状態だ。
いつあの人を見つけても大丈夫なように。
すれ違いも平行線ももう懲り懲りだった。
あの人が夢に出てきた朝はため息が出た。
渋谷に来るたび探してしまって、いないと勝手に肩を落としていた。
そんな日が続くのは嫌だと思った。
このままでは、奇妙なわだかまりは何年経っても消えないのだと、分かっていた。
だから私は一人、ずっと待っている。
私とあの人の運命が、もう一度交差する瞬間を。
今度こそ、あの人と正面からぶつかるために。
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