愛?愛!愛。

ぴぽ子

文字の大きさ
8 / 22

8.めっちゃラブソングじゃん

しおりを挟む


 『大好きな先輩へ
      手紙を書きました。……』


 放課後の部室に夕日が差し込む。少し雑に置かれた楽器と機材。テーブルに放置された空きのペットボトルには光が注がれ、綺麗な輝きを放っている。

 夕暮れの部室に一人。私はシワができてしまうぐらいギュッと手紙を握った。

 「あれ、星野?ひとりでなにしてるの?」

 扉が開く音と同時に人の声がした。私はすぐに振り向き、手紙を後ろに隠した。

 「せ、先輩!お疲れ様です。」

 「おつかれさま~。もう皆んな帰ったよね?俺、鍵締めに来たんだ。」

 「そうなんですね。」

 「てか、今何か隠したよね?ね~何隠したの~?」

 先輩が私の後ろに回ろうとする。私は手紙をセーターの中に入れた。

 「内緒です!内緒!私帰りますね!お疲れ様です!」

 私はスクバを拾い上げ、逃げるように部室を飛び出した。廊下を走っているとき、「気をつけて帰れよー!」と先輩の声が聞こえた。


 手紙ぐしゃぐしゃにしちゃったもん。見せられないよこんなの。

 昨日の夜、頑張って書いた手紙は今日も渡せなかった。机の引き出しに、気持ちのやり場を失った手紙がどんどん増えていく。
 勇気がないんだ。あともう半年しか時間は残されていない。私よ素直になって。


 1年生のとき、どの部活に入ろうか迷っていた私に声をかけたのが先輩だった。部活はない日だったのに、先輩は私を部室に入れてくれた。
 そこで私に弾き語りをしてくれた。その時からだろう。
 私は先輩に近づきたい一心で、軽音楽部に入部し、先輩と同じギターパートについた。
 少しでも先輩に近い存在になりたかった。



 「え、今なんて言った?」

 「ほっしー知らないの?相川先輩転校するんだよ。」

 「え、え、いつ?いつ行っちゃうの?」

 「えーあんま覚えてないなあ。あと1週間とか?」

 バンド練が終わった後知らされた衝撃的事実。私は何も知らなかった。
 半年だった時間はいっきに1週間へと変わり、私は一歩進まないといけない状況になってしまった。



 ミーティングで先輩から報告があったり、先輩のお別れ会をしたり、時はあっという間に過ぎていった。



 今日こそ渡す。絶対に渡す。寝ずに書いた手紙を届けたい。
 私は掃除が終わると走って部室に向かった。先輩は今日で学校最後だから、部室に寄ってるはず。

 私は期待と緊張で高鳴る胸を落ち着かせ、部室の扉を開けた。
 そこには、先輩のバンドメンバーがいた。先輩の姿はなかった。

 「星野どうしたー?今日はお前のバンドは練習入ってないだろ。間違えたのか?」

 「いえ…違います。」

 「あっそ。俺たち今日間違えてスタジオ練入れちゃったんだよね。俺たち出てくから、部室使っていいぞ。」

 「ちゃんと鍵締めといてねー。」

 ぞろぞろと人が部室から出ていき、私は一人になった。

 手紙はビリビリに破ってゴミ箱に捨てた。

 先輩は来ない。部室に一人きりという状況が私にそう思わせたのだ。
 涙が出てきた。こんな顔で校内を歩くことはできないので、私は落ち着くまで部室にいることにした。



 目を覚ますと暗い部室にいた。日は落ちていて、電気も何もつけていなかったからだ。まさか部室で寝てしまうなんて思ってもいなかった。

 「やばい。校門閉まるかも。」

 私はテーブルに置いてある鍵に手を伸ばした。

 「あれ、なんだろこれ。」

 テーブルに1枚のCDが置いてあった。CDには“星野 夏”と私の名前が書いてあった。
 これは先輩の字だ。

 先輩部室に来たんだ。私が寝ているときに…

 私はハッとして、すぐにゴミ箱の中を確認した。私が破いて捨てた手紙が入っていない。



 お風呂からあがると、すぐにCDプレイヤーを準備した。CDをセットした手が震える。
 先輩はきっと私の手紙読んだ。私の気持ちを知ってしまった先輩がくれた最後のプレゼントだ。

 ベッドの上で胡座あぐらをかきながら、イヤフォンをした。そして、曲を流す。


 流れてきたのは知らない曲だった。それもそのはず、これはきっと先輩のオリジナルソングだ。
 先輩の声とアコーギターの音だけが私の耳に流れていく。たった2つの音だけなのに、この歌の世界が私を包み込む。

 涙が止まらない。私は手で顔を覆った。

 「めっちゃラブソングじゃん…」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

籠の鳥〜見えない鎖に囚われて✿❦二人の愛から…逃れられない。

クラゲ散歩
恋愛
私。ユリアナ=オリーブ(17)は、自然豊かなオータム国にあるグローパー学院に在籍している。 3年生になって一ヶ月が経ったある日。学院長に呼ばれた。技術と魔術の発展しているフォール国にある。姉妹校のカイト学院に。同じクラスで3年生の男子3名と女子3名(私を含め)。計6名で、半年の交換留学をする事になった。 ユリアナは、気楽な気持ちで留学をしたのだが…まさか学院で…あの二人に会うなんて。これは…仕組まれていたの?幼い頃の記憶。 「早く。早く。逃げなきゃ。誰か〜私を…ここから…。」

マッチ率100%の二人だが、君は彼女で私は彼だった

naomikoryo
恋愛
【♪♪♪第19回恋愛小説大賞 参加作品♪♪♪ 本編開始しました!!】【♪♪ 毎日、朝5時・昼12時・夕17時 更新予定 ♪♪ 応援、投票よろしくお願いします(^^) ♪♪】 出会いサイトで“理想の異性”を演じた二人。 マッチ率100%の会話は、マッチアプリだけで一か月続いていく。 会ったことも、声を聞いたこともないのに、心だけが先に近づいてしまった。 ――でも、君は彼女で、私は彼だった。 嘘から始まったのに、気持ちだけは嘘じゃなかった。 百貨店の喧騒と休憩室の静けさの中で、すれ違いはやがて現実になる。 “会う”じゃなく、“見つける”恋の行方を、あなたも覗いてみませんか。

あなたの片想いを聞いてしまった夜

柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」 公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。 政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。 しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。 「好きな人がいる。……片想いなんだ」 名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

うわさの行方

下沢翠花(しもざわすいか)
恋愛
まだ十歳で結婚したセシリア。 すぐに戦場へ行ってしまった夫のニールスは優しい人だった。 戦場から帰るまでは。 三年ぶりにあったニールスは、なぜかセシリアを遠ざける。 ニールスの素っ気ない態度に傷つき疲弊していくセシリアは謂れのない酷い噂に追い詰められて行く。

処理中です...