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8.めっちゃラブソングじゃん
しおりを挟む『大好きな先輩へ
手紙を書きました。……』
放課後の部室に夕日が差し込む。少し雑に置かれた楽器と機材。テーブルに放置された空きのペットボトルには光が注がれ、綺麗な輝きを放っている。
夕暮れの部室に一人。私はシワができてしまうぐらいギュッと手紙を握った。
「あれ、星野?ひとりでなにしてるの?」
扉が開く音と同時に人の声がした。私はすぐに振り向き、手紙を後ろに隠した。
「せ、先輩!お疲れ様です。」
「おつかれさま~。もう皆んな帰ったよね?俺、鍵締めに来たんだ。」
「そうなんですね。」
「てか、今何か隠したよね?ね~何隠したの~?」
先輩が私の後ろに回ろうとする。私は手紙をセーターの中に入れた。
「内緒です!内緒!私帰りますね!お疲れ様です!」
私はスクバを拾い上げ、逃げるように部室を飛び出した。廊下を走っているとき、「気をつけて帰れよー!」と先輩の声が聞こえた。
手紙ぐしゃぐしゃにしちゃったもん。見せられないよこんなの。
昨日の夜、頑張って書いた手紙は今日も渡せなかった。机の引き出しに、気持ちのやり場を失った手紙がどんどん増えていく。
勇気がないんだ。あともう半年しか時間は残されていない。私よ素直になって。
1年生のとき、どの部活に入ろうか迷っていた私に声をかけたのが先輩だった。部活はない日だったのに、先輩は私を部室に入れてくれた。
そこで私に弾き語りをしてくれた。その時からだろう。
私は先輩に近づきたい一心で、軽音楽部に入部し、先輩と同じギターパートについた。
少しでも先輩に近い存在になりたかった。
「え、今なんて言った?」
「ほっしー知らないの?相川先輩転校するんだよ。」
「え、え、いつ?いつ行っちゃうの?」
「えーあんま覚えてないなあ。あと1週間とか?」
バンド練が終わった後知らされた衝撃的事実。私は何も知らなかった。
半年だった時間はいっきに1週間へと変わり、私は一歩進まないといけない状況になってしまった。
ミーティングで先輩から報告があったり、先輩のお別れ会をしたり、時はあっという間に過ぎていった。
今日こそ渡す。絶対に渡す。寝ずに書いた手紙を届けたい。
私は掃除が終わると走って部室に向かった。先輩は今日で学校最後だから、部室に寄ってるはず。
私は期待と緊張で高鳴る胸を落ち着かせ、部室の扉を開けた。
そこには、先輩のバンドメンバーがいた。先輩の姿はなかった。
「星野どうしたー?今日はお前のバンドは練習入ってないだろ。間違えたのか?」
「いえ…違います。」
「あっそ。俺たち今日間違えてスタジオ練入れちゃったんだよね。俺たち出てくから、部室使っていいぞ。」
「ちゃんと鍵締めといてねー。」
ぞろぞろと人が部室から出ていき、私は一人になった。
手紙はビリビリに破ってゴミ箱に捨てた。
先輩は来ない。部室に一人きりという状況が私にそう思わせたのだ。
涙が出てきた。こんな顔で校内を歩くことはできないので、私は落ち着くまで部室にいることにした。
目を覚ますと暗い部室にいた。日は落ちていて、電気も何もつけていなかったからだ。まさか部室で寝てしまうなんて思ってもいなかった。
「やばい。校門閉まるかも。」
私はテーブルに置いてある鍵に手を伸ばした。
「あれ、なんだろこれ。」
テーブルに1枚のCDが置いてあった。CDには“星野 夏”と私の名前が書いてあった。
これは先輩の字だ。
先輩部室に来たんだ。私が寝ているときに…
私はハッとして、すぐにゴミ箱の中を確認した。私が破いて捨てた手紙が入っていない。
お風呂からあがると、すぐにCDプレイヤーを準備した。CDをセットした手が震える。
先輩はきっと私の手紙読んだ。私の気持ちを知ってしまった先輩がくれた最後のプレゼントだ。
ベッドの上で胡座をかきながら、イヤフォンをした。そして、曲を流す。
流れてきたのは知らない曲だった。それもそのはず、これはきっと先輩のオリジナルソングだ。
先輩の声とアコーギターの音だけが私の耳に流れていく。たった2つの音だけなのに、この歌の世界が私を包み込む。
涙が止まらない。私は手で顔を覆った。
「めっちゃラブソングじゃん…」
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