8 / 24
第一の語り
07
しおりを挟む
「おい、ジャック、嘘だろ!」
少年は、その場に崩れ落ちた。
少年が部屋に戻ると、ジャックは既に絶命してしまっていたのだ。彼の部屋の窓の下敷きになって。
その惨状は、誰が見ても明らかなものだった。
「そんな…ジャック…嘘だと言ってくれよ…」
ジャックは、外に面するこの窓を突き破ろうとしたのだ。
そして、無理に力を加え続けた結果、元々建付けの悪かった窓が外れ、ジャックの真上に覆いかぶさった。
ージャックは、あの洋館に行くために、外に出ようとしたのだー
少年は今朝、ジャックを部屋から出ないようにして、学校に向かったのだった。それがいけなかったのだ。
少年は果てしない悲しみに襲われた。少年は唯一の親友を失ってしまったのだ。こんなことになるくらいなら、あの洋館に行かせた方が良かった。ジャックを、ここに閉じ込めたのがいけなかった。少年は後悔と自責の念にとらわれた。
少年はむせび泣きながら、ジャックの亡骸を庭にそっと埋めてやった。少年は静かに祈り、涙を流し続けた。
夕食を取る時間になっても、少年は自分の部屋に閉じ籠ったままだった。
何もする気になれなかったのだ。
少年は涙さえも枯れ、ただ茫然と壊れた窓の外を見ていた。
日は既に落ち、月明かりが街を照らしている。
寂れた池。古びた屋根。見えるもの全てが殺風景で、それがまた少年を悲しくさせるのだった。
しかし、活気のない街に全く相応しくない豪華な屋根が、微かに見えたのであった。
あの洋館だ。
少年は瞬時に悟った。
そうか。ジャックはこの窓からあの洋館を見ていたんだ。
あの美しい家を、この窓から見ていたのだ。
そして、突き破ろうとした。
今、こうしてジャックと同じ景色を見ている。
いや、景色などではない。
あの家を見ているのだ。
少年は居ても立っても居られない心持ちになった。
ああ、あの美しい家に行きたい。
少年の思いはそんな思考に埋め尽くされていた。
屋根だけでは物足りない。
あの家の美しいその姿を見たいのだ。
少年は慌てて家を飛び出した。
ああ、美しい。
その家の艶めかしいまでの容貌に、少年は溜息を漏らした。
モダンな屋根に、繊細に造られた外観。幾つもの窓にあたる月明りが、家の妖艶さを引き立てていた。
どうしてこの家はこんなにも美しいのだろう。ジャックが、どうしてもこの家を見たかった理由が、今になって分かったような気がした。どうして自分は今まで、こんな美しいものを見過ごしていたのだろうか。どうしてジャックの気持ちを理解してやれなかったのか。
少年は家をひたすらに眺め続けていた。見ているだけで、吸い込まれてしまいそうだ。少年は目尻から、先程とは種の違う涙を垂れ流していた。
少年がうっとりと家を眺めていると、玄関扉が開き、誰かが出てくる。
「坊や、よく来たね。さあさ、そんなところにいたら風邪を引くよ。中に入ってお茶でも飲んでおいき」
黒い服を着た老女が、少年を手招きする。
とても優しそうな住人だ。まさにこの屋敷の住人として相応しい。
少年は門を開け、誘われるがままに中へ入る。
老女は玄関を上がり、食堂の前を通り、あの居間へと少年を導く。
「さあそこのソファにお座んなさい。今からお茶とケーキを出してあげるからね」
老女は笑顔でそう言った。
少年はソファに腰かけ、部屋を見回した。
中も実に優美な造りだなあ、と少年が感嘆していると、
「さあさ、お食べ、ケーキだよ。お茶も淹れてあるからねえ」
老女はまたにっこりと顔を綻ばせた。
少年はフォークを手に取り、眼前のケーキを口に運んだ。
食べた瞬間に、喉がうっと詰まったような感覚に襲われ、ケーキを吐き出し、嘔吐いてしまう。むせるように咳が止まらなくなる。
「おや?口に合わなかったかい?」
よく見るとテーブルには、ケーキなどではなく、例の黒い塊のようなものが蠢いているのであった。
ー僕は、何をしてるんだー
少年は我に返った。
あの黒い塊を、あろうことか口にしようとしていたのだ。
そもそも、何故自分はあの洋館にいるんだ。
どうやら、ジャックが死んで、気が変になっていたらしい。
早くここから出ないと。
「じゃ、じゃあ僕は用事があるので、帰ります」
少年はこちらを見つめる”黒い影”に話しかけ、後退りした。
少年は、その場に崩れ落ちた。
少年が部屋に戻ると、ジャックは既に絶命してしまっていたのだ。彼の部屋の窓の下敷きになって。
その惨状は、誰が見ても明らかなものだった。
「そんな…ジャック…嘘だと言ってくれよ…」
ジャックは、外に面するこの窓を突き破ろうとしたのだ。
そして、無理に力を加え続けた結果、元々建付けの悪かった窓が外れ、ジャックの真上に覆いかぶさった。
ージャックは、あの洋館に行くために、外に出ようとしたのだー
少年は今朝、ジャックを部屋から出ないようにして、学校に向かったのだった。それがいけなかったのだ。
少年は果てしない悲しみに襲われた。少年は唯一の親友を失ってしまったのだ。こんなことになるくらいなら、あの洋館に行かせた方が良かった。ジャックを、ここに閉じ込めたのがいけなかった。少年は後悔と自責の念にとらわれた。
少年はむせび泣きながら、ジャックの亡骸を庭にそっと埋めてやった。少年は静かに祈り、涙を流し続けた。
夕食を取る時間になっても、少年は自分の部屋に閉じ籠ったままだった。
何もする気になれなかったのだ。
少年は涙さえも枯れ、ただ茫然と壊れた窓の外を見ていた。
日は既に落ち、月明かりが街を照らしている。
寂れた池。古びた屋根。見えるもの全てが殺風景で、それがまた少年を悲しくさせるのだった。
しかし、活気のない街に全く相応しくない豪華な屋根が、微かに見えたのであった。
あの洋館だ。
少年は瞬時に悟った。
そうか。ジャックはこの窓からあの洋館を見ていたんだ。
あの美しい家を、この窓から見ていたのだ。
そして、突き破ろうとした。
今、こうしてジャックと同じ景色を見ている。
いや、景色などではない。
あの家を見ているのだ。
少年は居ても立っても居られない心持ちになった。
ああ、あの美しい家に行きたい。
少年の思いはそんな思考に埋め尽くされていた。
屋根だけでは物足りない。
あの家の美しいその姿を見たいのだ。
少年は慌てて家を飛び出した。
ああ、美しい。
その家の艶めかしいまでの容貌に、少年は溜息を漏らした。
モダンな屋根に、繊細に造られた外観。幾つもの窓にあたる月明りが、家の妖艶さを引き立てていた。
どうしてこの家はこんなにも美しいのだろう。ジャックが、どうしてもこの家を見たかった理由が、今になって分かったような気がした。どうして自分は今まで、こんな美しいものを見過ごしていたのだろうか。どうしてジャックの気持ちを理解してやれなかったのか。
少年は家をひたすらに眺め続けていた。見ているだけで、吸い込まれてしまいそうだ。少年は目尻から、先程とは種の違う涙を垂れ流していた。
少年がうっとりと家を眺めていると、玄関扉が開き、誰かが出てくる。
「坊や、よく来たね。さあさ、そんなところにいたら風邪を引くよ。中に入ってお茶でも飲んでおいき」
黒い服を着た老女が、少年を手招きする。
とても優しそうな住人だ。まさにこの屋敷の住人として相応しい。
少年は門を開け、誘われるがままに中へ入る。
老女は玄関を上がり、食堂の前を通り、あの居間へと少年を導く。
「さあそこのソファにお座んなさい。今からお茶とケーキを出してあげるからね」
老女は笑顔でそう言った。
少年はソファに腰かけ、部屋を見回した。
中も実に優美な造りだなあ、と少年が感嘆していると、
「さあさ、お食べ、ケーキだよ。お茶も淹れてあるからねえ」
老女はまたにっこりと顔を綻ばせた。
少年はフォークを手に取り、眼前のケーキを口に運んだ。
食べた瞬間に、喉がうっと詰まったような感覚に襲われ、ケーキを吐き出し、嘔吐いてしまう。むせるように咳が止まらなくなる。
「おや?口に合わなかったかい?」
よく見るとテーブルには、ケーキなどではなく、例の黒い塊のようなものが蠢いているのであった。
ー僕は、何をしてるんだー
少年は我に返った。
あの黒い塊を、あろうことか口にしようとしていたのだ。
そもそも、何故自分はあの洋館にいるんだ。
どうやら、ジャックが死んで、気が変になっていたらしい。
早くここから出ないと。
「じゃ、じゃあ僕は用事があるので、帰ります」
少年はこちらを見つめる”黒い影”に話しかけ、後退りした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない
堀 和三盆
恋愛
一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。
信じられなかった。
母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。
そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。
日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる