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第三の語り
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しおりを挟む4月6日
今日は玲奈がおかしな影を窓に見たと言って朝から騒いでいた。何でも、窓の下から上に這い上がる影を見たというのだ。正行も不思議そうにしていたが、最後は夢でも見ていたのだろうという話にまとまった。
昼、台所で料理をしていると、またあの音が聞こえた。真上から聞こえたような気がしたので、丁度台所の上にあたる玲奈の部屋を覗いたが、特に異変はなかった。
そういえば、俊介は与えたお絵かきセットを気に入っているらしい。表情も幾らかは明るくなり、居間で絵を夢中で描いていた。こちらも少し安心した。
4月8日
玲奈はどうやら新しい遊びを見つけたらしい。お部屋にお友達がいるの、と言うから見に行くと、彼女は壁を指差した。壁の中に空想の友達がいるのだ。名前はメグちゃんというらしい。子供らしい発想に、私は微笑ましくなった。
あっ。またあの音がした。少し見に行ってみよう。
正行が眩しいと言うので、可能な限り早めに電気を消していて、暗闇を探すのは怖いけれど、行くしかない。
4月9日
やはり音の方向は玲奈の部屋である気がしたので、見に行ったが、特に異常はなかった。部屋に入った時、玲奈はまだ寝ておらず、壁のお友達とお話をしていた。
壁のお友達の設定は広がりつつあるようだ。壁の向こう側には大きな牧場のようなもの(玲奈の言葉からそうイメージを拾った)があり、その中にメグちゃんがいるのだそうだ。ただし、玲奈の部屋と牧場の間には柵があり、そこを超えてはいけないのでこちらの世界には来れないのだという。
俊介の方は相変わらず絵に夢中だ。見せて、と言ってみたのだが、首を振るだけだった。
そういえば今日の夕方、誰もいないはずの食堂から妙な気配を感じた。気のせいだったのだろうか。
4月10日
暫く書かない日が続いてしまった。
今日は玲奈はまた外に出かけて行った。壁のお友達に、家のお友達。玲奈は忙しい忙しいと嘆いていた。
そういえば、俊介は妙な絵を描いていた。珍しく絵を見せてくれたと思ったら、何やら妙な絵だったのだ。大きな草原が書かれていて、そこに女の子が座っているのだ。そして、その女の子は座りながら、泣くような動作を見せていた。
私はなんだかこの絵を不気味に感じてしまった。俊介の絵はこれまでに見たこともあったのだが、今回の絵は嫌に写実的だったのだ。生々しい、と表す方が良いのかもしれない。牧場で女の子が泣いている、それだけの絵なのに、どこか気持ち悪さを覚えたのは事実だった。
小学生の絵にしては、というのもある。大抵の子供の絵というのは、線を書き殴った塊のような絵が一般的だ。かといって俊介の絵はいわゆる、上手いというものでもないのだ。
我が子の絵にこんなことを言うのは親として問題があるのかもしれないが、見ていて気持ちの良いものではなかった。
4月11日
今日は子供たち二人とも、学校への登校日だった。
帰りに玲奈は、由美ちゃんという女の子を家に連れてきた。遊びに来てくれたのだ。由美ちゃんはこの広い洋館を見てはしゃいでいた。こんな家に住めるなんてすごいね、と心底羨ましそうに言うものだから、私は何だか申し訳なくなってしまった。
由美ちゃんと玲奈は楽しく遊んでいたようだが、帰る時にあたって、様子が変だった。私が訊いても大丈夫、と答えたが、明らかに顔が青ざめていたのが分かった。
喧嘩でもしたのか、と思ったが、玲奈からはそんな様子は感じ取れなかった。玲奈によると、部屋に入ったあたりから、妙にソワソワし始めたのだという。
何もなければ良いのだが。
4月12日
最近、例のあの音に加えて、家で変なことが多い。
朝は正行が、自分の浴室で得体の知れない年代物の腕時計を見つけた。見たところ男物のようだったが、一体誰の物なのだろうか。前にここに住んでいた人?いや、でも前にここに住んでいた人なんて…
他にも、夜中に何重にもなっている影を廊下で見たらしい。
そして、学校から帰ってきた俊介が、二階の窓に誰かがいるのが見えたと言い出した。勿論正行は会社で、玲奈もその時間は一階でテレビを見ていた。然し、俊介曰く、二階の窓に影がこちらを覗くように見ていたのだという。
私が見間違いだよと言うと、俊介はあっさり、そうだったのかもしれない、と引っ込んでしまった。
少し、気味が悪い。
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