陰謀のブルースカイ

住原かなえ

文字の大きさ
上 下
5 / 39

上 05

しおりを挟む
森に入ると、妙な静けさを感じた。隙間風のような冷たさを含んだ風が、その不気味さを膨らませていた。
ザワザワと木々が会話をしている様にも伺える。

流石に無人島か、と思いかけた時、薫の足元になにかのネジが転がっていた。

ネジ?

薫は、素手で掴み合げて、じっくりと眺める。
これは、至って普通のネジだ。
ヘリコプターから落ちたのだろうか。いや、それにしては土を被っている。これは、この島で作られたかどうかは定かではないが、使われていた事は間違いないだろう。
だとすれば、誰が?
薫は思索を巡らせる。

やはりこの島には都市伝説にあるような事が行われているのだろうか。人がいるならば、それはそれで救いになる。
薫は歩調を早めた。

数分歩いた所で、影になって見えない木々の奥から、怪しげな音が耳に飛び込んできた。薫の防衛本能が全身に働き、さっと身構える。

何かが、来る。

人か。
いや…それとも…


そこに姿を表したのは、蛇だった。しかし、なんだ蛇か、と胸を撫で下ろしたのは束の間だった。

蛇が、体をくねらせながら滑り台を逆さに登るように宙に浮き始めたのだ。

ひゃっ!

思わずひょうきんな声が出て、尻もちをつく。

薫は虚脱していた。蛇が宙を奇妙に這っている。これはまさにファンタジーだ。CGだとか、その類の。


しかし残念ながら、夢ではないし、幻想でもない。これはリアルだ。
大学で少し生物学を齧っていた薫は、それが間違い無く蛇であることはすぐにでも分かった。

唖然として見つめているだけの私の横をすうっと蛇が通り抜けていく。

これはもしや大発見なのでは!
持ち帰って…

と、薫の頭をあらぬ考えが通過するが、そもそもこの島から脱出する事すらままならない状況であることを痛感しただけであった。確か、マダガスカル島は、何年も前に大陸から切り離されたせいで、独自の生態系が生まれた、ということだが、これはその現象の現れなのだろうか。それにしては吐出しすぎではないか。それとも、そもそもまともな場所ではないのだから、それぐらいあって当然だとでもいうのだろうか。

薫は足を早める。

走っていると、妙に焦げたような匂いとともに、辺りが暑い事に違和感を覚える。薫は構えの姿勢を取る。

大きな物音と共に眼前が閃光に覆われ、爆発音がする。薫は後退りする。
恐る恐る、頭を上げると、そこには、悪魔の舌のような炎が、木を包み込んでいた。

木の下には、ウサギらしき動物が魂がまさに抜けた状態で、焦げていた。すると、そこに刹那にして鳥が現れ、食事にいそしんでいた。

まさか…

この鳥が、火を吐いたとでも。

アニメでありがちな演出。しかし、状況はその全てを物語っていた。

ここで薫は、自分が窮地に立たされている事に気がつく。この鳥が、火を吐くのだとすれば…

自分自身も焼け焦がされてしまうことを意味するのではないか!?
薫がそう踏んだ瞬間、鳥がこちらを一瞥した。


薫は気付けば、鎖を引きちぎった雄犬の如く走り出していた。ここで焼き殺される訳にはと薫は身震いする。

だが、背後にその気配はなかった。
満腹で食する気にはならなかったのだろうか。

それにしても、恐ろしい捕食者だ。骨の髄まで焦がされてもおかしくない。こんなものが本土に来れば…
事件は容易に想定できる。

とにかく、なにか脱出する手がかりを探さないと。悠長に助けを待っていると、自分もあの兎のように餌になるのがオチだろう。

薫は、ひたすらに走った。
しおりを挟む

処理中です...