前世の記憶は役立たず!ーエルフに転生したけれど、異世界が世知辛すぎるー

藤 野乃

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アルシア移住

夜が明けて

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 小腹が減ったので、タマゴサンド食べよっと。

 タマゴは、ニワトリみたいなコケットという生き物の卵ね。

 私はお気に入りのタマゴサンドを取り出して簡単に食事を済ませ、寝転がってはみたがやはり落ち着かない。
 ここが安全が保証されてる場所ではないからってのもあるけど、明日になったら『やっぱ無しで!』って言われそうで。

 朝まで固いベッドでゴロゴロしていればいいのかな。
 部屋の近くには寄ってこないが、数人の兵士の気配はあるからきっと監視されているのだろう。
 うろうろしてトラブルを起こしたとみなされるのも嫌だし、おとなしくしてるのが一番いい。

 ──何事も無く朝になった。
 文字通り、誰も来ない。
 ここを出る時どうするのか何も言われてないし、騒ぎになるのも面倒だし……
 ちょっとした魔法で気配を消しながら古びた小さな建物を出て、顔色の悪い兵士達の間をすり抜けて。
 私は颯爽とアルシアへの入国を果たした。


 ──防犯的に当たり前なのだろうけど、ここは残念ながら王都ではない。
 かといって栄えてないわけではなく……きれいな石で整えられた街道は、早朝だというのに結構な往来があり、色々な種族が行き交っている。

 話にあった不動産屋は見つけたが、まだ開いていないようだし、私は朝市へ行ってのんびり朝食をとることにした。
 美味しそうな香りがしてくる方向に足を向けつつ、【人間】に見えるよう少しだけ姿を調整。

 認識阻害の魔道具の一種に、姿を変えるアイテムもあるのだけれど……どうしても量産型の似通った雰囲気になるので、訓練された者からは怪しまれる。

 なので、力がある者は自分の魔力で見た目を変えてしまう方が安心なのだ。

 ──ここは人間が統治する国なので人間が圧倒的に多い。
 私は道行く人間を眺めて、一番多い焦げ茶色の髪と明るい茶色の瞳に色変えをして……

 目はちょっと離れ気味に、肌は日焼けをしたように浅黒く…と数パターン決めている姿のうちの一つ【そこらにいる人間の平民】に見えるよう調整をかけた。

 魔道具とは違って私の魔法は高精度かつ繊細なので、同じ認識阻害系でも仕上がりは桁違い。
 見破られた事は一度もない。
 私は温厚で完璧なエルフなのだ、造作もないことよ。

 時空庫繋がる小振りの白いポシェットは、いわゆるマジックバックのようなものだ。
 時間停止型なので、出来たての食事もたっぷり入っているけれど。
 やはり食事は出来たてのものを、お店で食べるのが一番。
 屋台の食べ歩きも好きだし、これは完全に雰囲気と気分の問題ね。

 ウキウキした気分で朝市を見て歩く。
 雑多に積み上がった品々に未知のものは無かったけれど、あれこれ見て歩くのは楽しいものだ。

 入国前に通った様々な村や町で、ある程度王国に流通している貨幣は入手済み。
 違う大陸の硬貨や古代貨幣を両替したりもしたし珍しい素材を売却したりもした。
 長く生きていれば、こういう準備は万端だ。

 朝市の客を見込んでいるのか、多くの屋台が立ち並んでいる。
 美味しそうなパンを一つ銅貨一枚で買って、違う屋台のブルグのシチューと一緒に食べ歩いて大満足。

 アルシア王国特産のアルセンブルグ。
 ブランド名みたいなものらしい。
 牛っぽいブルグはアルシアの一部の地域で育ったものだけが、アルセンブルグ。
 ニワトリっぽいコケットは特定品種だけがアルセンコケットとして流通している…と屋台の主人から教えて貰った。

 やや割高だが認可を受けて販売しているアルセンの名を冠した食材はランクが高く、美味しいもののようだ。
 シチューはとても美味しくて気に入ったので
 店主に器を返すついでに持ち帰りで十食分注文した。
 鍋を渡していれて貰うだけだけどね。

 マジックバッグ自体は珍しいものではないので、私の小さなポシェットから鍋が出てきても誰も驚かない。
 高額な時間停止型かどうかなんてパッと見でわかるわけもないし。

 容量にもよるけど……多くの荷物が入れられるだけのマジックバッグは金貨一枚位から買えるんじゃないかな。
 大きめロールパン一個が銅貨一枚、シチューが白銅貨一枚と銅貨二枚。
 これは果たして高いのか安いのか?

 来たばかりの私には相場がピンと来ないけれど、朝食でアルセンブルグのシチューは高級な方なのかも。

 銅貨十枚が白銅貨一枚。
 白銅貨十枚が銀貨一枚。
 銀貨十枚が金貨一枚。
 その後は白金貨。
 更に世界共通貨幣の宝貨、フィアン宝貨……と続くのだが──これは滅多に見るものではない。

 違う大陸にいた頃は似たようなパンが三つでこことはデザインの違う銅貨一枚だった。
 アルシアの発行する貨幣のレートが高いのか、物価自体が高いのか……?

 そんなことを考えながら、のんびり歩き回って賑やかな雰囲気を堪能していると。
 あちらこちらで兵士の姿がちらほらし始めた。
 耳を澄まして聞いていると、エルフが消えたという緊急事態らしい。

   (それは緊急事態よねぇ、わかるー)

 一回入国管理所に戻った方がいいのかな?
 それとも、カイを探した方がいいか。

 ──まあいいわ、その前にまずはなにかデザートになりそうなものを食べてからにしよう。
 私はウキウキと、屋台へと足を向けた。


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