前世の記憶は役立たず!ーエルフに転生したけれど、異世界が世知辛すぎるー

藤 野乃

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アルシア移住

エイプリル

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「エイプリルよ。あなたとサシで話したいわ」

 ボスは値踏みをするように、エイプリルを眺めた。

「アンタみたいなやんちゃな女が王都をうろうろしてれば、必ずアタシの耳に入るわ。だから来たばかりという話は信じてあげる。短期間でアタシに辿りつけたこともね」

 ボスはキレイな足を組み直した。

(男性の足って実は中々良い形してるのよね、筋肉のせいかな……?)

「だけどね、アンタを信用する筋合いはないわ」

「そう? なら、話を聞いてもらうだけ、の代金としてこれはどう?」

 私はボスの瞳と同じパープルサファイアを取り出した。
 石ならいっぱい持ってるのよ。

「サファイアよ。価値の高いパープルサファイア。あなたの瞳の色ね」

 ボスの眉がピクリ動いた。

「みせてちょうだい。もちろん鑑定させて貰うわよ──驚いた、本物じゃないの! 話を聞くだけでこのサファイアを出すって言うの?」

 ボスはしばらく考え、護衛らしきマッチョとフランツを退出させた。

「アマンダよ」

 差し出された手はしっとりと保湿されてしっかり手入れはされているようだがごつく、やっぱりオッサンだった。

「で、話って何かしら」

「経歴のキレイな正規の身分証が欲しいの」

 沈黙が訪れた。
 アマンダは煙管を弄び、思索に耽っているようだ。

「そうねぇ……結論からいうと、あるっちゃあるわよ。本物がね」

「譲渡の条件は?」

「白金貨五十枚。高いと思うかも知れないけど、身分証の偽造と譲渡は死罪って知ってるかしら?かなり危ない橋をわたることになるから、金額は譲れないわね」

 払える金額で良かった。
 後はどういう身分証が出てくるかよね。

「正規品なら買わせていただくわ」

「年頃が同じ女で、犯罪歴無しねぇ……」

 アマンダは思案する様子で、首を傾げた。

「見てわかってるでしょうけど、ここは娼館よ。
 幾つか……そうね、もっと安価な娼館も持ってるわ」

「ええ」

「娼館にいる子達って大体首輪がつけられてるのよ、経歴にね。──ほら、親に売られて来た子もいれば、慰謝料や罰金を払いきれなくて奴隷になるくらいならって娼館に来る子も多いわけ」

 私は黙って頷いた。

「そういう子は必ず契約書があるから、アシがついちゃうわね……アンタの条件には合わない」

 アマンダはそう言って、にっこりと微笑んだ。

「たまにね、そうじゃない子もいるのよ。自分の意思で来る子がね。大体ワケアリなんだけど」

 アマンダは一枚の国民証を投げて寄越した。
 ラナ、二十三歳とある。

「この子ね、ちょっとオイタが過ぎてね。少し前に処分した子なの。ああ、店に出てた子じゃないわ。店に出すには合わなくてね」

 ため息をつき、煙管を弄びながらアマンダは話を続けた。

「ほとんどこの部屋から出ることなく事務仕事させてたのよ。人間関係もないし、身寄りもない。おまけに魔臓無し」

 アマンダは妖艶な笑みを浮かべた。

「どういうことかわかるかしら? 魔臓がなければ国民証に魔力を通せないから未完成なの。つまり、アンタが魔力を通せば完成って訳。運の良いことに裏に魔力無しって記載もないのよ」

「魔臓無し──」

「単なるミスの記載漏れよ。だから、この国民証は特に高額ってわけ。アンタの目的には合ってるんじゃない」

「宝貨でいいかしら」

「もちろんよ」

 私は言い値でラナの国民証を買い、更に大きなアメシストと金貨二枚をアマンダの手のひらに落とした。

「アメシストはあなたに。金貨は護衛とフランツにあげて。いい? 私はここに来なかったし、この街には来たばかりで知り合いは一人もいないの」

 アマンダは頷いた。

「アタシ今日は頭が痛くてね。ずっと部屋から出られてなくって。もちろんここにお客さんなんて来なかったわ」

 私はニッコリ微笑み返し、そのまま転移して辺境の自宅に戻った。
 髪がタバコ臭いし、ゆっくりお風呂に入らなくては。

 お湯に浸かりながら、ラナの国民証に魔力を通した。
 まあ、基本は提示するだけだから、普通に生活する分には怪しまれる事はないし。

 ラナという名前は好きじゃないからエイプリルって名乗ってる設定にしよう。
 住居時々宿屋に泊まっておいて、普段から宿屋を渡り歩いてるって事にする?
 それともどこか借りる……?
 資金源はどうしようか。

 エイプリルは付与術師って事にして納品系の内職でも探すか……。
 付与魔法はちょっと珍しいし、エイプリルを印象付けるには良い考えかもしれない。

「ふぅ」

 私は転移で戻った辺境の家のお風呂から上がって、髪を乾かしつつ予定を組み立て始めた。
 エイプリルとして仕事をしつつ、十日くらい経ったら一旦ユーニウスをセバ爺の所に連れていって事情を説明して預かってもらう。

 当面はこれでいいかな?

 タマゴサンドを食べながら、ゆっくりストレッチ。
 あちこち動き回ると、本来万事がスローペースなエルフには堪えるのよ。
 気疲れってやつね。

 あー、こっちで寝たいけどユーニウスが心配だな、やっぱり王都に行こう。
 私は王都の家に渋々転移することにした。
 ユーニウスは暢気に藁の上で寝ていたので、そっとしておいて、部屋の片隅に置いてある小さいベッドで就寝することにした。


 翌日、朝にユーニウスのお世話をした後に噴水広場まで歩いていって、雑踏の中でちょっとずつエイプリルにチェンジ。
 毎回これだとちょっと面倒だけど、仕方ない。

 ──この王都には独自の魔術ギルドがある。
 エイプリルはここに付与術師として登録しに行くという訳だ。
 付与はちょっと特殊な魔法なので、単発でも稼げる仕事が多いはず。

 噴水広場に面した魔術ギルドに入ると、受け付けのお姉さんが微笑んだ。
 冒険者ギルドとは全然雰囲気が違って、こっちは図書館とか美術館のように静かだ。
 渡された紙に名前と年齢、使える魔法と備考欄に通称がエイプリルなのでそちらを使いたい、と書きこみ受け付けに持っていくと、国民証の提示を求められた。
 ちょっと緊張したけれど、問題なく国民証は使えるようだ。

「ラ……エイプリルさん、通称の方を利用したいとありますが、そちらでお作りした場合でも、ギルドカードの裏にどうしてもラナという名前は記載されてしまいます。規則なので…」

「それで大丈夫です」

「ではこのギルドカードに魔力を通して……はい、完了です。付与の仕事は沢山ありますよ、お仕事は右の壁に貼り出されてます」

 右の壁。
 ここは昔ながらの紙の依頼票をピンで留める方式のようだ。
 数人の魔術師が、依頼票を眺めている。
 私もゆっくり吟味させて貰おう。

 雑貨屋……宝飾店……彫金師。
 結構募集はあるみたい。
 そこそこ大きい店はダメ、しがらみが出来るのはよろしくない。
 もし受けるなら、個人の依頼がいい。
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