前世の記憶は役立たず!ーエルフに転生したけれど、異世界が世知辛すぎるー

藤 野乃

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アルシア移住

馬のお散歩

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 そのまま転移しようとして、魔術ギルドに報告しに行かなくてはならないのを思い出した。
 明日でも良いんだけれど……。

(いやいやダメだ、今日やってしまわないと忘れる、絶対に)

 楽をするのは諦めて、歩いて魔術ギルドに向かう。
 途中のパン屋さんでタマゴサンドを見つけたので、とりあえず十個買った。
 プルナに飴をかけた真っ赤なプルナ飴が売っていたけど……考案者の故郷が推測できるわね。

「わぁ、お惣菜屋さんも数軒あるのね」

 私はタマゴサラダを入手し、気分が上がってきた。
 早く帰って晩酌しなくては。

 魔術ギルドに着いてさっそく依頼票を提出。
 ギルドカードを通して、アニスさんと契約中であることを登録して貰う。
 依頼者によってはダブルワーク不可とか、個人的に利害関係のある相手と関わっている魔術師はNGだったりする。

 事前に登録しておけば行き違いも減るというシステムらしい。
 アニスさんはそういう条件ではないので、時々単発の仕事があるかチェックしても良いかもしれないな。

 そう考えて、チラリと依頼票の壁を見ると、ちょうど転移してきたらしい魔術師が視界に入ってきた。

(……あれ、エイプリルの姿なら転移使っても良いんじゃない?)

 何ですぐ思い付かなかったんだろう。
 王都内程度の短距離なら、転移出来る事にしとこうかな。
 聞かれることは無いと思うけど。
 私は自分の思い付きにほくそ笑み、厩舎の家に転移した。

 すぐに魔法を解除して本来の姿に戻った後は、庭に出てユーニウスの様子を見る。
 魔草が食べ尽くされている。
 ユーニウスの様子を見ると元気に牧草を食んでいたので、魔草食べすぎ問題は無さそう。
 魔草の育成域を増やして、成長魔法をかける。
 これは植物限定で、時間魔法の加速の応用だ。
 生き物にやると大変な事になる。

「プルナの木からも幾つか食べたのね?」

 この食べぷりでは、セバ爺に追加料金を払わなくてはいけないかもしれない。
 それか、人を雇って自宅で世話するかだ。
 ユーニウスは覚醒してから更に食べる量が増えてるし、ちゃんと考えておかないと。

 辺境に一旦戻った時にセバ爺に相談ね。
 私はメモ帳にユーニウスの餌、セバ爺と記入して近寄って甘えてきた愛馬の顔をそっと撫でた。

「運動もさせないといけないわねぇ」

 私はユーニウスと一緒に、無人島へ転移した。

 転移にも動じないユーニウスは本当に度胸のある良い魔馬だ。
 前に飼ってたユニコーンのウニちゃんは結構神経質だったので、ユーニウスはかなり飼いやすい方なんじゃないかなと思う。
 この無人島はウニの運動場に使っていた島で、今は長年の放置で草ボウボウ状態。
 これはそのうちどうにかするとして、今は海岸を一周させれば良いかな。

 期待に満ちて、夕焼け色の瞳を煌めかせたユーニウスは走る気満々だ。
 誰もいない場所だし、鞍は無しで良い。

「裸馬に乗るのは本当に楽しいのよね」

 手綱とたてがみを掴んでユーニウスに飛び乗り、姿勢を安定させてから足でチョンチョン、とつつくとユーニウスは颯爽と砂浜を駆け出した。
 砂浜はきれいに整備された道を走るより消耗が大きいので、運動にはもってこい。
 この島は外周に障害物がないから、ぐるっと馬で一周出来るのが便利なのだ。

 ユーニウスは時々落ちている大きな流木などの漂流物を軽々と飛び越え、過去一番のスピードで疾走している。
 私はユーニウスのちょっと高い体温と、裸馬の心地よいフィット感、躍動する筋肉を楽しんだ。

 ……凄いスピード!
 振り落とされたら大事故だから念のため自分に身体強化かけておこ。
 一時間ちょっとくらいかな? と予想してたけどユーニウスのトップスピードはそれを上回り、ほぼ半分の時間で外周を走りきってしまった。
 しかも、まだまだ走りそうだ。

 結局合計三周して、ユーニウスはようやく満足したようだ。
 馬体から汗が噴き出し、体温も結構上がっている。
 冷たすぎる水は良くないけど、身体を冷やしてあげたいからいつもより低い温度の水でしっかり水浴び。
 ブラシで擦りながらしっかり余分なものを落としていくと、ユーニウスはご機嫌そうに頭を寄せてきた。
 おかげで私までビショビショになったけど、この場で着替えれば済むことだ。
 ユーニウスを乾かして自分の着替えを済ませた後、私は椅子を取り出して夕日を眺めながら王都のタマゴサンドを食べた。

 ユーニウスは好き勝手にうろうろしている。
 穏やかな波の音、潮風……夕日と馬のシルエットは、なんだか不思議と癒される。
 美しいものは本当に見ていて楽しい。

 そう言えばこの島の近くにはリヴァイアサンが棲息してたはずだけど、あの海龍は元気なのかしら。
 あ、魔王城建設はどうなってるんだろ……

 そんなことをつらつらと考えていると、周囲はすっかり暗くなっていた。
 満天の星空。
 都会は楽しいけど、空が狭い。
 周囲に明かりの無い星空は、怖いくらいにギラギラと煌めいて何度見ても飽きることがない。
 しばらく魅入られたように星を眺めていたけれど……。
 お腹を空かせたユーニウスが鼻先で優しく私を押して来たので、おうちに帰って牧草タイムね。

 家に戻ったユーニウスは自主的に馬房に入り、飼い葉桶と魔力水の水桶に交互に顔を突っ込んで、モグモグと咀嚼している。
 時々またあの島に連れていってあげよう。
 私は家に入り、一応ユーニウスがこっちにいる間はこの王都の家で寝ることに決めてベッドに入った。
 晩酌するのを失念してたけど、ちょっと疲れていたせいかすぐに眠たくなってきた。


 お昼近くに目が覚めて、庭に出てみるとユーニウスは既にプルナをかじったり、魔草を食んだりして機嫌良く庭をうろうろしていた。
 飼い葉桶に牧草を沢山いれてから、辺境の家に転移してのんびりお風呂に入った。
 郵便箱が光っている。
 ダイレクトメールばっかりだが。

 後は……また魔王組合。
 呼び出しでは無いけれど、聖女と勇者の召喚はアルシア王都の近くに決めたという凶報だ。
 魔王城建設が全く進んでないみたいので、まだ先の話らしいけどね……。
 ちょっと様子を見に行った方が良いんだろうか。
 下手に首突っ込んだら、なし崩しで手伝わされそうで嫌なんだけど。

 フレスベルグはまだ四百か五百歳の若い魔族だし、前世も思春期の子供だったっぽいのでどうにも危なっかしい。



 私は溜め息をついて、王都の家に戻った。
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