前世の記憶は役立たず!ーエルフに転生したけれど、異世界が世知辛すぎるー

藤 野乃

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アルシア移住

王都のフェンリル部屋

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「もう王族様の話はお腹いっぱいよ、覚えきれない」

 店を出て噴水の周囲のベンチに座りながら、もう結構!、と手を振るとフランツが笑い出した。

「みんなそう言うよ、俺はあれだよ……爺さんが墓守りだったから。実家は雑貨屋だけどさ」

 フランツはそこで急にびっくりした顔になった。

「あっ! そうだった、さっきアニスから聞いてお願いがあって話し掛けたんだった……」

「え、アニスさん? じゃあ付与魔法の事かしら」

「うん、実家ってか職場のね。ああ、学校の同級生だったんだよ。で、ちょっと販路拡大したくてさー、小物になんか変わった付与があったら売りやすいかなーって」

「変わった付与ねぇ……」

「なんかこう、ありきたりな付与じゃなくてさぁ。爆発するハンカチとかさー」

「需要があるかどうかよ、売れないでしょ」

「なにか! なにかこう、今までに無い感じのが良いんだよねー」

「違反じゃない仕事なら受けるけど、アイデアが固まったら魔術ギルドで指名依頼してよ」

 フランツはわかった!と言って来た時と同じくらい唐突に去っていった。

(フレスベルグと気が合いそうな男ね……)

 裏社会のアンバード一家さんと、どういう関わりがあるんだろう。
 どちらにせよ不思議な人物だ。

 王族の噂話で思い出したけど、ニーヴのお部屋を改造する約束だったわ。
 私は地図を広げ、印をつけてあった団長の屋敷と現在地を見比べて確認後、一旦厩舎のある方の家に転移した。
 噴水から歩くより、こっちから行く方が近いからね。

 きちんと見える服に着替え、エルフ姿に戻り庭に出るとユーニウスがすり寄って来た。
 角砂糖を一個あげて、耳もカイカイしてやったら催促が止まらなくなってしばらく構うことになっちゃったけれど。
 これも飼い主の義務よね。


 団長のお屋敷は、王城のすぐ傍の特等地だ。
 貴族区はどこでも道が広いので馬も馬車も通れる仕様。
 お屋敷までそこそこ遠いのでユーニウスで行くことにしたけれど。
 スピードは出せないから、歩くよりは早いかな?ってくらいだ。
 でも、二十分もあれば着くと思う。

 お出かけの気配に喜んだユーニウスがソワソワしだしたので、さっさと出発。
 途中何回か身分証明書を見せろって止められたけど、トラブルにはならなかった。
 紋章ありの国民証は本当に強い。

 団長の屋敷の前にいた門番に、紋章を見せつけて団長が、いや王子殿下はいらっしゃるか聞いたら執事が出てきた。
 名前を聞いたらジョンさんだった。残念。

「アルフォンス様は御不在でございますが……殿下からお話は伺っておりますので、今からでも大丈夫でございます」

 なら、今済ませてしまいたい。
 その旨を伝えると、ユーニウスを預かってくれてニーヴのお部屋に案内された。

(辺境のお屋敷よりかなり広いわねぇ)

 あちらと同じように融合魔核をセットしたが、冷え冷えにはならない。
 涼しくはなったけど、他のフェンリルより爆毛のニーヴにはまだ暑いかも。
 私は、殿下は月に何日こちらに来てるのかを尋ねてみた。

「多少の差異はございますが、月に十日ほどは」

 そうなると魔核が無駄よね。
 付けちゃった分は良いとして。
 お部屋自体はかなり涼しくなったから、これはこれで良いとして……

 床に氷属性のアイテムでも置いておく?
 部屋全体が冷えてなくても、ニーヴが冷えれば良い訳だし。
 ペロティの巣の近くにあった氷岩に固定魔法を掛けてニーヴにちょうど良い囲いを作って……と。

 魔界のダンジョン、永久氷窟に棲むアイスネヘナグ……氷属の巨大なワニみたいなヤツの革を被せて犬テントならぬ犬小屋完成。
 中にはアイスベアの毛皮を敷いておく。
 手を入れてみるとしっかり冷たい。

 魔物素材にも等級があって、個体によって品質は様々。
 今回は、どっちの素材も属性値が最高クラスの強いものだ。

「絶対素手では触らないこと。動かしたい時は氷に強い魔術師を呼ぶように」

 そばにいたメイドに注意事項を伝えて、お屋敷からそそくさと退出した。

 執事長自らユーニウスを引いて来てくれた。
 お礼を言って帰ろうとしたら、無類の馬好きらしい執事長から馬用ビスケットです、とお土産をいただいた。
 お留守番している間に随分可愛がってもらったようだ。
 ありがとう、セバスチャンじゃない執事長。

「三日後に殿下が戻ってらっしゃいますが、御予定いかがですか」

「あら。じゃあ空いてる時間があるなら」

「十四刻から二時間であれば。それ以降ですと、かなり先になります」

 王族は忙しいのよね。
 私は最初に提示された日時に予定を入れてもらった。
 丁度十九日だから帰りはアニスさんの店に行ってお仕事済ませれば効率良いかな。

「しかし素晴らしい魔馬ですなぁ……」

 執事長がユーニウスをガン見している。

「たてがみの色もなんとも優雅、そしてこの筋肉!! 額の白星も左右対称で実に良い。それにこの瞳の美しさときたら。マンダリンガーネットのようで……私……魔馬は何頭か知っておりますが、灰銀の魔馬は初めて見させていただきました。更ににこの蹄……相当な魔力! しかも愛らし過ぎる……」

 メロメロのベタ褒めじゃん? いいのよ、もっと褒めてやって。
 ユーニウスはちゃんとわかってるから。

「ありがとうございます、ユーニウスも嬉しいみたい」

 名残惜しがる執事長に挨拶をして、ポクポクと貴族区を抜けて帰宅。
 ユーニウスを放してから、お土産のビスケットを鑑定してみた。

 ▶魔馬用ビスケット(特上)
 押し麦、牧草、プルナ、蜂蜜、魔草。
 ジョン・ペイジが丁寧に焼き上げた物。

 手作りかーい!
 凄いな執事長。
 ビスケットにつられて、ユーニウスが私の腕を鼻先で押してきた。
 一個あげると美味しいらしく、おかわり要求。
 もう一個あげて、サッとマジックバッグにしまった。
 ユーニウスは物凄く詰まらなさそうな顔をして、魔草を食べに行った。

 なにか忘れてるような気がするけど、さっぱり思い出せない。
 メモしなかったからか。
 やっぱりメモしないとダメね。

 ──結構前にカルミラ達と話した時に思った事なんだけど。
 寿命が長ければ長い程、些細な事を覚えないのよね。
 ずーっと記憶に残ってると、パンクしちゃうからなのか。

(自分が大事だと思ったことは忘れないんだけど……多分)
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