前世の記憶は役立たず!ーエルフに転生したけれど、異世界が世知辛すぎるー

藤 野乃

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アルシア移住

死にかけエルフ

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 ……痛い……………

 一瞬何が起こったかわからなかったが、私は地面に転がっているようだった。

 あちこち痛いし、目は開くものの身動きがとれない。

(間違いなく内臓何個かやっちゃってるなぁ、痛すぎて死にそう)

 しかもいろんな骨が折れてるっぽい。

 何故かうまく行かない治癒魔法。
 苦労しつつ、あちこちの不具合を治そうと試みたがキズの治りも悪い。

 うん、転移も出来ない………時空庫も使えない。
 自分の手のひらにチョロっとだけ出せた魔力水を飲み、腐葉土の上に転がったまま考えた。

 何で私が森の土の上に転がっているのかを、だ。

 上にチラリと視線を向けると、木の枝が折れている……上から落ちてきた?
 …島…………島の上から、墜落?
 木に引っ掛かりながら落ちたんだろうか?

 ボーッとしてるうちに、多少魔力が戻ってきたらしく時空庫にアクセス出来た。
 起き上がる気力はないが、不味いポーション類を飲んでもう一度治癒魔法。
 今度はうまくいった、ヤバそうな内臓だけはどうにか。

 どうやらさっきまでは魔力枯渇状態だっただけのようだ……頑張れ私の細胞!

 更に時間が経ち、骨折やら裂傷を休憩しつつ治したので、ようやく起き上がる事が出来た。


(完全なる魔力枯渇って初めてかも?)
 転移も時空庫も、魔法全てが使用不可って相当ゼロに近い枯渇よね?
 でも、あんな上空から落ちて生きてるって凄いよね、エルフの生命力。



 相変わらず、転移は出来ない。
 時空庫も大きいものは取り出せない。
 もうちょっと回復には時間がかかりそう。
 自分の髪を摘まんで観察してみたら、いつもチラチラ光ってる魔力由来の光が消えている。

 魔道具のカレンダー付き懐中時計を取り出して眺めると、五時間くらい気絶していたようだ。
 ……とりあえずニンゲンと何か約束していなくて良かった。
 アニスの店に行く用事は三日後だ。
 長命種族同士だと、すっぽかしてもさほど大問題にはならないけれど。
 アニスにそれをやるのは非常に良くない。
 ニンゲンにはニンゲン社会のルールがある。
 約束は守らなきゃだし、事情あって守れなくてもちゃんと連絡しておかないと気まずくなる。
 これ、エルフの豆知識よ。

 気温が冷え込む季節ではなかったし、私はこのまま静養することにした。
 周囲にいるのは鹿やリス、鳥などの動物。
 魔物がいない島で良かった。

 ──自分の能力が数字で見られない世界。
 前世の日本だってそうだった。
 人が人を評価する数値はあったけど。
 こっちもあっちも、周囲と比べて自分の能力がどの辺なのか?と判断する世界だ。

 何事もある程度の指針はあって、これが出来ればいい、出来なければダメ。
 得意な分野には秀でているけれど、他はちょっと……とか。

 ある意味、どちらの世界も変わらない。
 他人の頭の中身なんてこっちの世界でもわからないし、自分の居ないところで何が起きてるかを仔細に把握する事も出来ない。
 ただ、こっちの世界には魔法があるから期待が大きくなっちゃうのよね。

 自分の魔力が満タンで千って数値が見えてれば、回復具合もわかりやすいんだけれど。
 魔法だって転移に三百使うってわかってれば、そこまで回復した時点で安全な場所に転移できる。

(だけど残念ながら、この世界の魔法は数値化されていない……)

 つまり私は自分の魔力がどこまで回復したのか、判断する明確な手段がないのだ。

 大好きだった小説のように、自身の能力が目で見てわかる何かがあると便利なのになぁ。


 私は終始うつらうつらしつつ時折痛みで目を覚まして、新たに出てきた不具合を治しながら丸一日同じ場所で過ごした。
 毛先を確認すると、まだ光は戻っていない。
 今まで何も気にせず使っていた魔法だけれど、今は通常の状態ではない、と言うことで……もう少し静養すべきか。

 食欲が戻ってきたので、アルセンコケットのタマゴサンドをひたすら食べる。

(無限に食べられそう、さすがアルセンコケット)

 水分は滋養強壮と魔力回復促進のポーション。
 自分で作っといて文句を言うのもおかしいけれど、ポーションはホントに美味しくない。

 美味しいポーションを作れたら、大富豪になれるのでは……?
 この日は結局どうでもいいような事を考えながら、同じように食っちゃ寝を繰り返して過ごした。

 丸二日静養した私は元気になり、髪もキラキラ光りだした。
 というわけで、私は辺境の家へ転移してみた。

 特に不安定な事もなく、いつも通り転移が出来たので完全回復ってことでいいだろう。

(まずは風呂よ、風呂)

 階段を登って、風呂場へ。
 途中にあった姿見で全身を確認したら、服はビリビリだし血塗れ。
 でも外傷はもう無いし、すっかり元通りだ。
 予想では上空から墜落コースだったと思うから、普通なら即死だったんじゃないかな。
 さすがエルフだわ。

 きれいに汚れを落とし、ゆっくりお風呂に浸かってリラックスタイムだ。
 明日はアニスの店に行かなくてはならない。
 十日に一度って楽でいいと思ってたけど、意外と忙しないわね……。

 勇者降臨までに王都にエイプリルの地盤を作っておきたいので、ここは努力して実績を作っていかなければならない。

 なんでかって、フレスベルグがアホの子だからだ。
 絶対私を巻き込んでくる。
 ユーニウスを賭けてもいい。
【私】は巻き込まれたくない。
 エイプリルを上手いこと動かして、どうにかアホの子をやり過ごしたい所存。
 召喚者に似て、勇者がアホの子じゃない事を祈ろう。

 勇者。
 かの有名なヨッシーオは私が召喚したけど、なんだか理屈っぽい男だった。
 そのわりにハニトラに頻繁に引っ掛かってさ。

 聖女も私が召喚したけど、私は目茶苦茶怒り狂ってたなぁ。
 新婚さんなのに呼び出しちゃってゴメンだったけど、ちゃんと帰したからいいよね?

 ネモが魔王をやった時、呼び出したのは正統派のイケメン勇者だったけれど、聖女は幼女だった。
 この時は魔王組合で審議会が開かれた。
 魔界の娯楽イベントである魔王と勇者戦に、子供を使うのはちょっと……って。
 なので幼女は帰され、再召喚でどっかの世界から天使が出てきたけど、その天使と大揉めして帰して。
 結局、魔族から代理回復役を募集して乗りきった記憶がある。

 ……法則性が全く読めないのが、召喚の落とし穴よね。
 施行回数が少なすぎて、傾向と対策を練れないのが難点だ。

 ──余談だけど、魔力と魔方陣さえあれば素人でも召喚魔法は使える。
 数百人の魔術師が必要になるけれどね。
 で、魔王組合は召喚が成立した瞬間に呼ばれた者を帰すことが出来るけど、素人さんには無理だと思う。
 呼ばれた瞬間の時間軸や座標を固定できる召喚魔法は、人間数百人分じゃ立ち上げられないから。

 フレスベルグも魔脈が完成すれば、発動に他者を頼らずとも自力で賄えるはずだ。

(そうあってほしい……!)
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