あなたはダンジョン出禁ですからッ! と言われた最強冒険者 おこちゃまに戻ってシェルパから出直します

サカナタシト

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出禁 第五話 奴隷の兄妹とマフラー その1

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 まさか年齢制限が出来ていたとは。
 ダンジョンに入れなければどうやって稼げばいいのか。
 途方にくれてオレが街をさまよっていると、何か妖精が語りかけてきた。
『気ヲツケ、気ヲツケー』
『知ラナイ人イルー』
 精霊使いでいつも一人でダンジョンに入っているオレは、様々に役立つ妖精と契約している。逆に言えばこういう役立つ様々な精霊、妖精達と契約しないとオレはダンジョンに入れない。そんな大した実力も無い冒険者だ。
 この子? はオレが体内に持つミストを分けてやる事で、というか勝手に取っていく事で俺に役立つことをしてくれる便利な精霊で風の精霊の一種だ。

 この世には“ミスト”と呼ばれる、無色透明の、ガスのような気体のようなよく分からないものがあるらしい。
 オレ達人間は、……いやありとあらゆる生き物は、このミストを体内に取り込み保有しているらしい。そのミストは呪文で上手いこと変換して、体外に排出する時に特徴を与えてやると、それが魔法となって発動するらしい。また契約した精霊に与える事で精霊に魔法を使わせることも出来る。
 そして、そのミストの量が多いか少ないかで、魔法の威力も変わってくるという。
 またミストにはシャインミストとダークミストという二種類があり、シャインミストを体内に取り込めば人にとって有益に働き、ダークミストを取り込むと人には害になる。
 つまり、このダークミストが濃いと魔物が生まれたり、動物が魔獣に変質してしまうらしい。
 ただこの話は『らしい』とか、『という』とか、全てあいまいな言い回しで、まだ解明されていない点も多くいずれも推測の域を出ない、まあ、はっきり言ってよく分からんというのが実情、……らしい。
 話を元に戻すと――。
 今オレの側にいる妖精たちは、オレのミストを食べながら、オレの周囲を警戒してくれている。怪しい人影とか悪意を持っている人がいるとオレに教えてくれたのだ。
 ちなみに、精霊も妖精も幻獣も人間が勝手に呼び分けているだけだ。目に見えないが何か神秘的な存在を感じられるものを精霊、見える人には見えるものを妖精、完全に実態があるものを幻獣などと呼んでいるが、元は同じような存在だったりする。
 この子たちは精霊の中でも下位に当たるので、他人はおろかオレの目にも見えることは無い。けど話が出来るのでそれなりに便利な精霊だ。
 姿が見えるものは上位に辺り、妖精というか幻獣と言っても良いかもしれない<クック>のように殆ど人間と同じに見える実体を持つものはかなり稀だ。
 で、側にいる精霊が教えてくれたところによると、悪意を持った二人の男がオレをつかず離れず後をつけるてくるらしい。
 何をたくらんでいるのか。
 オレが道端の店に入ると、そいつらも近くの路上で待機する。
 しかたない――、誘うようにオレは人気のない裏道へ入ると、
『人、増エター』『恐イー』
 人数が三人になったらしい。
 そしてオレが突き当たりの逃げ場のない道に入り込むと、男達は完全に姿を現した。一人はヒム、一人はワニ人・リザードマン、もう一人はサイ人・ボンガ。
 どこから現れたのか、ご丁寧に少し高級そうな黒塗りの馬車が出口をふさぐように停まり、もう一人御者のヒムの男も降りてきた。
 冒険者ではなさそうだが屈強な男が四人となった。
「おあつらえ向きに人気の無い所に入ってくれたぜ」
「へへへ、良かったな、お前は。お嬢様に気に入られてよ。そうじゃなかったら鉱山奴隷か、ダンジョンシェルパだぜ。一生な」
 一応オレに話しかけてるのか? そんなことオレに言ってもいいのか。
 何をするのかと思っていたら、下非た笑い方をするヒムの男が首輪のような鉄の輪を取り出した。 
 魔方陣が刻まれているのだろう、薄紫に淡く光っている。
 たぶん他人を自分に逆らえなくする従属の呪いがきざまれた、隷属の首輪だろう。
 人攫い、もしくは違法の奴隷商人といったところか。
 この国では個人の身体を資本にした、きちんとした売買契約であれば奴隷は認められている。借金のかたに自分、もしくは家族を売ることだ。もしくは犯罪を犯した罪を自らの身体で罰を受け減刑することだ。死刑になるところを犯罪奴隷として働く代わりに終身奴隷に減刑されるとかね。
 当たり前だが、他国でも自国でも人をさらって奴隷として売ることは違法だ。戦争中の敵国の住民に対してもだ。
 それでも違法の奴隷目的の人攫いは減らない。
 それでも、白昼堂々こんな街中で? と思ったがそのまさかのようだ。
 ちょっとムシャクシャしている時に、オレに何かしようだなんてバカな奴らだ。
 丁度いい、オレのストレス発散になってもらうか。
 それにオレ自身、体が小さくなってどれだけ戦えるか試してみたいしね。
 下卑た笑みを浮かべながら、堂々と隷属の首輪を持って男が近寄ってくる。もはや何をしたいのか隠す様子も無いようだ。
 しかし、そんなものはオレには役に立たない。
 オレは静かに、どこを見るとも無く妖精に命令する。
「<リフレシア>。出番だよ」
『面倒臭いなあ』
「まあまあ、そう言わないでさ」
『へいへい』
 俺の頭の中に、女性のような妖精の声が響いた。
 <リフレシア>は面倒臭がりやで、姿を見せるのも面倒だとかでオレにもほとんど姿を見せない。ただ契約した時に一度だけ姿を見せたときは、とても美人に見えた。妖精に男女の性別があるかは知らんが、ヒムのような容姿で二十代半ばくらいのスレンダーな女性の姿をしていた。
 妖精<リフレシア>の特技は魔法の指向性を変えること。つまりオレに向かった魔法の向きを変えるのだ。
 当然、元の魔法の発動者に対して跳ね返すことだって出来る。
 ヒムの男がオレに襲いかかる直前、ほんの一瞬だけオレの身体と男が持つ隷属の首輪が光った。
 オレのミストを使って<リフレシア>が呪い返しの魔法を使ったようで、ちょっとだけ体内のミストが減ったのがわかった。
 隷属の首輪は、魔方陣の刻まれた呪いの魔法の首輪だ。人を呪わば穴二つ。
 <リフレシア>が呪い返しを行えば、それは呪いの魔法をかけた者、つまり隷属の首輪の持ち主である奴隷の主人になる者に跳ね返る。
「ギャッ」
 後方の黒塗りの馬車から悲鳴が聞こえた。
 てっきり首輪を持っていた男に呪いが返ると思っていたが違ったようだ。
 馬車で悲鳴をあげた奴が奴隷狩りをしている主人のようだ。
 男の持っていた隷属の首輪は薄紫の魔法の光が消えていきタダの鉄の輪になり、ヒムの男は唖然として棒立ちになった。
 他の三人は何が起こったのかわからないのか、オレと棒立ちの男と馬車を交互に見回していた。
「リフレシア、ありがとう」
『今度はもっとヒリヒリするような現場で呼んでほしいわね』
 意外とバトルジャンキーなのかな。
「テメエ、何しやがった」
 何かしようとしたのはお前だろ。
 鉄の首輪を持っていた男が飛び掛ってきたので、オレは男の伸ばした腕をとってねじり、その身体ごとひねって仰向けに反転させて倒し、鳩尾にニードロップの一発。これで失神。
 この男はなかなか素早かったが一撃だった。
 殴りかかってきた二人目のドンガ族というサイの皮膚と角、人間の体格を持つ男は多分百五十キログロームはある巨漢だったが、それでもオレの敵ではなかった。
 相手の右ストレートを折りたたんだ左腕で外側にパリィしてから、カウンター気味にその左腕を伸ばして鳩尾に一撃をいれる。ふらつく所を右のコークスクリューのハートブレイクショットで息を詰まらせ、側頭部にハイキックをかます――つもりだったが、身体が小さいので相手の足にローキックになった。
 それなりに威力はあったが、相手の膝辺りに当った蹴りは致命傷には程遠く、巨漢のドンガ男はまだ反撃しようとしてきたので、相手の太腿を踏み台にして、逆の足でジャンプするようにアゴを蹴り上げる。
 ドンガの男にトドメを入れようとしたが、三人目の男が割って入る。
「コイツーッ」
 三人目、リザードマンの男は短剣を振り回してきたが、その腕をかいくぐって懐に飛び込み、同時にその腕を掴んで右肩に担ぎ上げながら反転し、相手の勢いも利用しながら後方に投げ飛ばす。
 リザードマンは五マイトルは飛んで行き頭から地面に落ちた。
 相手の腕を一本掴んで背負いながら投げるので、異国では“イッポンゼオイ”とか言われている、体術の一種だ。
 リザードマンはそれで動けないようなので、ドンガ男に戻って、仰け反に倒れているところを顔面に膝蹴り&タコ殴り、これでようやく意識を刈り取る。
「逃がすわけないだろ」
「ギャッ」
 逃げ出した最後の一人に、三人目が持っていた短剣の鞘を投げつける。鞘は狙い通り男の足に絡んで、ヒムの男が転倒する。すかさず後ろからドスンと背中に飛び乗り、相手が呼吸困難になったところで、最後は背後から頚動脈を締め上げて落としてやった。
 男達はダンジョン中層の魔物になれたオレの敵ではなく、ものの一分で誰も動くことは出来なくなった。
 弱すぎる。剣や攻撃魔法を使うまでも無く、体術だけで倒せた。
 あ、いや、殺してないよ。気絶してるだけだよ。
 腕やアバラの二、三本は折れて、脚は逆に曲がってるかもだけどな。
 だけど機嫌の悪い今のオレに襲い掛かってくるほうが悪い。正当防衛だしね。
 やってみればオレの圧勝だったが、それでも力が弱くなったのがよく分かった。
 筋力が弱くなり、ダッシュのスピードも殴る蹴るの力も半減以下だ。ただミストは減っていないようで精霊魔法はまるで問題は無さそうだった。これならダンジョンに入っても中層なら問題はないだろう。
 御者のいなくなった馬車の馬が所在無く道端の草を食んでいる。馬の手綱は近くの馬停棒に結ばれているので動けないようだ。
 馬車に乗り込むと、やけに若作りした衣装を身にまとった中年のおばさんが泡を吹いて倒れていた。服装は明らかに貴族の女だった。
 おばさんを見ると首の付け根に奴隷の魔方陣が浮かんでいた。隷属の呪いがこいつに返されたらしい。さっき聞こえた悲鳴はこの女のようだ。
 隷属の首輪を持っていた男が言っていた『お嬢様』って奴かな? お嬢様って歳でもなさそうだけど。まあいいか。
 そばの床に少年と少女が寄り添って座っていた。
「ぼ、僕達は何もしていない、この人が急に悲鳴をあげて……って子供? 」
 オレを見て少年は不思議そうな顔をして言い訳をした。
「大丈夫、分かってる」
 オレがやったことだから、別に疑っていない。 
 少年と少女と言っても今のオレよりは年上そうな二人――十四、五歳の男の子と、十二歳くらいの女の子――は、小奇麗だが地味な格好をしている。そしておそろいのニットの帽子とマフラーをしていた。
 栗毛色の髪も顔立ちも似ている、兄妹かな。
「君達は……」
「僕達は、ラムサーチ村から無理やり連れられてここに……」
 ラムサーチ? 知らんな。物凄く遠いのか、小さい村なのだろう。
「アタシ達を家に帰してください! 」
「シッ」
 妹の方は気が強いようで、叫ぶようにオレに言葉を投げつけるの。それを兄が庇うように押しとどめる。兄の方は、今の自分達の立場を理解しているようだ。
「もしかして、無理やり奴隷に? 」
 貴族のオバサンと貧しそうな少年達の組み合わせに違和感を覚えて聞いてみた。
「あなた達がしたんじゃないの」
「仲間じゃないのか」
 兄妹はおれを犯罪者の仲間と勘違いしているようだ。



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