課金勇者! 節約ジャックと紅蓮《あか》い金かけ男

mogami74

文字の大きさ
17 / 23

「たしかにやけに紅蓮(あか)い!」……「さあ、みんな一斉に聞かせてちょうだい」……「なんだか乗りたい気分じゃなくなっちゃったな」

しおりを挟む
「あーあ、最近無駄づかいが足りねえなあ。なんかこう、パッと使える無駄はねえかな」
「何わけのわかんないこと言ってんの。ほら、騎士様エヴァンのお姫様のお屋敷、このあたりだよ」

 俺たちは、王都の北東、貴族の屋敷が立ち並ぶ辺りに来ていた。騎士様エヴァンにもらった紹介状で、「ぐあーーーーんとデカい丸いの」(「観覧車」って名前らしい!)に乗れるよう、口をきいてもらうためだ。高級そうな馬車が行き交う中、道端を歩いているのは俺たちだけだった。

「ここらの人たちは馬車ばっかりで、歩かないんだね」
「まあ遠くまで歩くのに適してない靴とか服の貴族様ッスからね」
「それにしたって、誰か下働きの人が買い出しに歩いてたりしても良さそうなもんだけど」
「こういうトコじゃ御用商人が注文を取って届けに来るのさ」
「ケーシー様、どうやらエヴァン様のお姫様が滞在しておられるのは、こちらのお屋敷のようです」

 ここいらの屋敷の例に漏れず、門の向こうには広い前庭が広がっている。立派なお屋敷だ。

「姫様って、お隣のロ=ミルア王国のお姫様なんでしょ。なんでこんなにでっかい屋敷に住んでるんだろ」
「元々、そのお姫様のお母様がティルト王国の貴族で、ロ=ミルア王国に嫁いだんだそうです。だからこちらでは母方のご実家に逗留されていると」
「へー」
「わかってないだろ」
「うん」

 クロが門番に騎士様エヴァンの紹介状を渡して取次を依頼すると、しばらく待たされた後、中に通された。 

⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒

 アリーテ姫は実在した!

 俺たちが応接室でくつろいでいると、突然、バーンと大音声を立てて扉が開いた。そして扉の真ん中に、小さな姫君が立っていた。年の頃は、俺よりたぶん上。でも、背の高さでいったらあんまり変わりなさそう。令嬢にふさわしいドレスを身につけているが、身の振る舞いは颯爽として、令嬢というより司令官のような雰囲気だ。背は低いけど。

 姫君は部屋をさっと見渡して、ケーシーを見つけるとその前に立ち、両手を腰に当てたまま上から下まで眺め回して満足げに言った。

「あなたが『紅蓮あかかねかけ男』ケーシーね! たしかにやけに紅蓮あかい!」
「『砂かけ婆』みたいな通り名を勝手に名付けんのやめてください……」

 げんなりした顔でケーシーがつぶやくが、姫君は気にもとめない。

「こちらが戦闘クロメイド……そしてQカザン」
「それを言うなら戦闘メイドのクロでは」
「語感が大事なのよ。『クロメイド』かっこいいと思わない?」
「すみませんわかりかねます」
「僕だけ異常に短いス……」
「語感が大事なのよ。『Qカザン』短いと思わない?」
「短いス……」

 もちろん、俺の分もあった。

「あなたが『節約ジャック』ね!」
「通り名っていうか通り魔っぽい響きだな」
「『節約ジャック』……かっこいいじゃん俺! 今度からそれで名乗ろうかな」
「本人まんざらでもない」
「よくきてくれたわね。エヴァン様から皆さんの話は聞いてるわ。それで、道中、エヴァン様はどのように凜々しかったの? さあ、みんな一斉に聞かせてちょうだい。よーいはじめ」
「どう答えればいいんスかこれ」
「うーん、姫君の話が絡まなければそこそこ凜々しいような……」

 俺が言うとケーシーが興味なさげにつぶやいた。

「適当でいいんじゃねえか?」

 アリーテ姫は俺たちの返事を待ってはいなかった。

「いいえ! いいえ! わかっています、あなたがたごときの語彙ではエヴァン様の凜々しさを言い尽くせないわね!」
「ほら。どうせ聞いてない」
騎士様エヴァンと似た者同士だね。『姫君姫君』言ってる時は何も聞いてないもんね」
「しかもさりげなく語彙力をバカにされてます……」
「さて、あなたたちの用向きは、観覧車の利用許可ということだったわね。ルミ」

 ルミと呼ばれた侍女は、くるくる巻いた書類をアリーテ姫に渡した。姫君は軽やかにそれを開くと読み上げる。

「ロ=ミルア王国アリーテの名において、汝ケーシーに以下を通達する。すなわち、ロ=ミルア王国が所有する観覧車の十二年間にわたる利用権、経営権、運用権の貸与。利益の一割を王国に納税すること。土地の所有はロ=ミルア王国に帰属し……」
「待て。ちょっと待って」

 あわててケーシーが止めた。

「何よ。土地は渡さないわよ」
「いや、ちょっと待って。エヴァンは姫様になんて書いて寄越したんだ?」
「あなたたちに、観覧車を使わせてあげて欲しい、とあったけど」
「ああ……まあ間違ってはないな……いや、俺たち、ちょっと乗せてもらうだけでいいんだ。別にその……経営権とかじゃなくて。何回か、乗ってみたいなあ、なんて」
「はあ?」

 アリーテ姫はケーシーの顔と手元の書類を交互に見比べた。

「いい歳して観覧車遊びがしたいだけ?」
「いや、俺じゃねえよ? こいつが」

 ケーシーが俺の頭をつかんでアリーテの真前に突き出す。じたばた。

「……」

 アリーテ姫は俺の顔と手元の書類を交互に見比べている。それから侍女の方に目をやった。

「ルミ?」
「は、は、は、はい、あの、その、もう姫様の署名が入ったものを複写して改ざん防止魔法かけて封緘して三度おまじないして本国に超特急便で送ってしまいました」
「めちゃくちゃ手回しいいスね……」
「あの、その、姫様がエヴァン様のご依頼だからって張り切って急かしたので」

 アリーテ姫はくるくるっと書類を丸めると、俺の手の上にぽん、と載せた。

「そういうわけだから! ま、いいじゃない。十二年は乗り放題よ」
「いいのかよ!」
「いいの! いいのよ。どうせ曰く付きの代物ですもの」
「曰く付き?」
「あら。聞きたい?」

 アリーテ姫の目がキラン!と光る。

「ななななな、何だよ? どういうこと?」
「その観覧車は、前王夫妻が作らせたものなのよ。重税を課して国民から搾り取ったお金で贅の限りを尽くし、建築中に犠牲になった若者は数知れず……そして観覧車に乗った前王夫妻は、一周する間に忽然と消えてしまったの」
「ど、どこへ?」
「誰にも分からないわ。それ以来、血塗られた観覧車は、真夜中になると回り出す……そして全部のかごの中に恨みに叫ぶ人々の手が」

 アリーテが両手を広げて恐ろしげに伸び上がったところで、侍女が口を挟む。

「あ、あ、あのう……姫様、口からデマカセはそのくらいで」
「ルミ、いいところでバラすのやめてくれる?」
「嘘なの?」
「まあ曰くはあるのよ。前王は重税に贅沢が過ぎて、退位させられ、うちのお父さんが即位したの」
「前王閣下はアリーテ様の大伯父様にあたられます。というか郊外で謹慎させられてはいますがピンピンしてお元気でおられます。その作り話を聞いたらさぞお怒りかと」
「あんな人、怒らせとけばいいのよ。どうせ幽閉されてるし。趣味の悪いおっさんよ。国を傾けたんだから無能ね。大っ嫌い。そういう人の作ったものだから、誰も乗りたがらないのよ。あなたに十二年預けとく」
「なんだか乗りたい気分じゃなくなっちゃったな……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった

黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった! 辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。 一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。 追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...