嫌われ王子様の成長 〜改心後、暴君の過去が役に立つこともある〜

ぽんちゃん

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60 慕う人の兄から リュカ

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 昨日の惨めな自分を思い出したが、黒髪の天使を抱きしめ、胸が温かくなった。
 




 「はぁ……」

 遠い昔、服が気に入らないと何度も交換させられた日々を思い出しながら深い溜息が出る。

 あの頃は、私のやることなす事全てが気に入らないと、我儘ばかり言うリオン殿下に散々振り回されていた。

 それなのに、今は着替えを手伝えば「自分で出来るのに。でもわざわざありがとう」と、可愛い笑顔を向けてくれる。
 その顔でリュカと名前を呼ばれる度に、胸が高鳴ってしまう。

 紅茶を飲むときは、以前は誰が淹れても一緒。と言っていたのに、今は「リュカの淹れてくれる紅茶が一番美味しい」といつも褒めてくださる。
 それに、一緒に飲もうとお誘いまでして下さる。

 でも、今朝は着替えも髪結もお手伝いをさせてもらえなかった私は、もうリオン殿下にとって必要のない存在なのだろうか……。



 「珍しいですね、先輩がミスするなんて。僕、初めて見たかも」

 憂鬱な気分になっていると、セオドル殿下の今現在お気に入りの侍従に声を掛けられる。
 セオドル殿下の侍従は入れ替わりが激しいので、声をかけてくれた彼の名前は覚えてもいない。
 どうせすぐに異動になるのだから、覚える必要もない。

 そんな彼を一瞥して去ったからか、厄介な人に捕まってしまった。

 「聞いたよ? 早朝に泣き腫らした顔で、徘徊していたんだって?」

 ジルベルト様の仕事部屋を早々に準備し終え、リオン殿下の元へ行こうかと迷っていると、面白がるセオドル殿下に彼の自室に連行されてしまった。

 「何かの間違いでしょう」
 「本当にそうか? 俺の影の情報が間違っているなら、アイツら全員首にしないとな?」
 
 その言葉に、ぐっと奥歯を噛み締めた。

 「別にリュカを馬鹿にしているわけじゃない。ただ、何かあったんだろう? リオンと」

 何でも話してよ、と美しい所作で紅茶を飲むセオドル殿下。
 彼は自分一人で楽しみたいだけであって、他言することはないだろうが、自身の惨めな話をする気にはなれなかった。
 
 「てっきり、リオンと良い感じなのかと思ってたけど、まだ恋人じゃないのか?」
 「……そのような関係ではございません」
 「ふぅん。じゃあ俺は、リオンとジルベルトがうまくいくように応援して良いってことだね?」
 「はい。私もリオン殿下に、そのようにお伝えしました」
 
 ふぅ、と息を吐いたセオドル殿下は、困ったように眉を下げる。

 「素直じゃないねぇ~? リオンのことが好きなくせに。あんな可愛いリオンと裸の付き合いをしたら、誰だって好きになるに決まってる」
 「別に、そういうことをしたから好きになったわけでは……」
 「ふふん、やっぱり好きなんだ」

 したり顔のセオドル殿下を、不敬だと分かっていても睨みつけてしまう。
 私がリオン殿下をお慕いしていることはバレても構わないが、体の関係で好きになっただなんて思われたくなかった。

 「暇そうにしてたけど、リオンの傍にいなくて良いのか? リオンの侍従はリュカしかいないだろう」
 「着替えも髪結も、拒絶されております」
 「ははは、リオンも相当怒ってるな」
 「はい……。せっかくセオドル殿下に、生涯リオン殿下の侍従としてお役目を頂いたというのに、ご期待に添えず申し訳ございません」
 
 淡々と頭を下げると、セオドル殿下はなんとも言えない表情で私を見つめていた。

 「それで、なんで喧嘩したんだ? もしかして、リオンにジルベルトと婚約しろとでも言ったか?」

 図星を指されてピクッと頬が引きつると、あっちゃ~と可愛らしい声をあげる。

 「最近のリオンは良い子ちゃんになったけど、俺はこれでもリオンの兄だ。リオンの気持ちはなんとなくだがわかる。リオンが信頼して甘えられるのは、俺たち家族以外ではリュカだけだ」
 「……私も、そうであって欲しいと願っていましたが、違ったようです」
 「それはない。リオンがリュカを見る目を見ていればわかる。たまに熱っぽく見てるしな?」

 ふっ、と優しげに笑うセオドル殿下は絵画のように美しい。
 リオン殿下には全く似ていないのだが、この方がモテる理由がなんとなく分かった。

 「リオンはジルベルトに対して、過去の償いをしたいのだろう。今はそれ以上の感情を持っていないはずだ。だからめげずにアタックしろ」
 「アタックと言われましても……」
 「最悪、体を使え」
 「私はセオドル殿下とは違うのです」
 
 相変わらずお堅いなぁ、とくつくつと笑われてじっとりとした目を向けてしまう。

 セオドル殿下に解放されてから、一人考えてみたが、体を使って落とせるほどの腕があるなら、リオン殿下は既に私のことを好きになっているだろう。

 でもそんなことはない。
 今は、私に触られるのも嫌がっている様子なのだから。

 とにかく、リオン殿下とジルベルト様が仲睦まじくなる前に少しでも爪痕を残したい。
 リオン殿下が今まで通り、ジルベルト様と関わりを持たないで欲しい。
 そう思っていたのに、これからジルベルト様に会いに行くとリオン殿下に声をかけられてしまった。

 なんで昨日、ジルベルト様を助けた方が良いなんて、心にもないことを言ってしまったのだろうか。
 リオン殿下が、ジルベルト様を好きにならないで欲しい。
 そう心の奥で願いながら、彼と共にリンネス邸に向かった。









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