93 / 211
93 俺はラスボスじゃない
しおりを挟む「遅いだろうっ! どこで……。あ、お客様でしたか。申し訳ありません、まだ営業時間では……」
古びた木造建の娼館に入れば、帰宅した二人の顔を見て、直様怒鳴った脂ギッシュな中年男性。
でっぷりとした腹を揺らして、俺たちの頭のてっぺんから爪先までを、品定めをするような目で観察していた。
ルイス君とシエル君が痩せ細っているのに、店主はぶくぶくと贅肉だらけの醜い姿だ。
前世ではぽっちゃり女子が好きだった俺だが、コイツだけは無理だと拒絶反応が出る。
細くいやらしい目付きにぞわっとしながら、俺は客ではないことを告げる。
「この子たちを買い取りたい」
「ほう。お目が高いですな? まだ店には出ていない子たちですので、高くつきますが……」
「いくらだ?」
「そうですねぇ。二人は借金もあるので、二百万フランは頂かないと……」
なるほどと呟いた俺は、悩んでいるフリをしながら、他の子も見せて欲しいと告げた。
手をこすり合わせて、中に案内してくれる店主。
店内に広がる独特な甘い香りが鼻につく。
店主からいやらしい顔で俺の好みを聞かれたが、若い子が良いとだけ伝えておく。
「俺はショタが好きなわけじゃない……」
「なにをぶつぶつ言ってるんです?」
なるべく口呼吸を意識して、鼻を摘みながら小声でリュカに話しかける。
「勘違いするなよ? 俺のタイプは、心が広いお兄さんだ。甘やかしてくれる、爽やか系イケメンで、腹筋が割れていたら尚良」
本当ならぽっちゃり女子がタイプなんだが、と心の中で付け加える。
「真面目にやってください。貴方が言い出したことですよね?」
ふざけているのかとリュカに怒られて、しゅんとする。
だが、なぜかリュカとジルベルトは、それぞれ自分の腹を撫でていた。
二人も腹筋が割れている人がタイプらしい。
残念ながら、俺は二人の対象外のようだ。
帰ったらすぐに鍛えようと考えていると、奥にある広い部屋に辿り着く。
「おい、お前たち。お客様だ、並べ」
店主が声を荒げると、そろそろと集まり出した子供たちは、およそ三十名ほど。
俺たちをチラッと横目で確認して、慣れたように並び出した。
綺麗な服を着ている子は、すでに男娼として働いているのだろう。
店主が子供たちの髪や瞳、顔立ちなど、良いところをぺらぺらと説明し出す。
店でのランキング順なのか、この子はいくらで~と値段をつけている店主に、嫌悪感が募る。
ただ、店で人気のある子たちが、どこかぼんやりとしていることに気が付いた。
……これは、テレビ番組で見たことがあるぞ。
もしかしたら、薬物中毒なのかもしれない。
店主の説明が続いていたのだが、我慢出来なくなった俺は、懐から金貨を取り出した。
「全員買い取る」
「っ……え!?」
「聞こえなかったのか? 全員、気に入った」
俺の少し刺のある口調に、店主だけでなく、子供たちまでぽかんと口を開けていた。
「し、しかし……。それでは店が……」
「それなら店ごと買い取る」
「っ…………」
絶句する店主だが、ニタリと笑みが浮かぶ。
瞬時に頭の中で算盤をはじいていると思われる。
今後の価値だのくだらないことを語り出し、どんどん値段が上がっていく。
だが、高額になったところで関係ない。
俺は、店主が子供たちに薬を使って従わせている可能性に気付いている。
どうにかして証拠を掴まなければと、頭をフル回転させていると、正義感の強いジルベルトがたまらず声を上げた。
「立地も悪いし、建物もガタが来ている。子供たちを引き取った金額だって、端金だろうがっ。ぼったくりにも程がある!!」
「まあまあ、そんなに熱くなるなよ。俺はいくらだってかまわない」
怒るジルベルトの肩に手を置き、冷静になれと声をかける。
「っ、でもッ…………」
熱くなるなと言いながらも、誰よりもブチギレている俺の目を見たジルベルトが、ひゅっと息を呑んだ。
怪訝な顔をする店主に、俺は大量の金貨の入った袋を放り投げる。
「足りない分は、俺宛に請求してくれ」
「──ッ! リオン、殿下ッ!!」
俺がフードを取って黒髪を見せると、店主が顔を青褪めてすぐさま平伏したのだが、金貨の袋はしっかりと握っている。
……金が大好きすぎるだろう。
偉そうな店主が平伏した姿を初めて見たのか、子供たちが騒めきだした。
そして彼らも、店主の真似をして平伏す。
綺麗な服を着ている子たちがぽやんとしていると、他の子たちが慌てて手を引っ張り、座らせる。
もう大丈夫だ、助けに来たぞ! と目で訴えたのだが、子供たちはラスボスが登場したかのように、全力で怯えていた。
81
あなたにおすすめの小説
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新!
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
-----------------------------------------
0時,6時,12時,18時に1話ずつ更新
悪役令息の兄って需要ありますか?
焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。
その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。
これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。
婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する
135
BL
春波湯江には前世の記憶がある。といっても、日本とはまったく違う異世界の記憶。そこで湯江はその国の王子である婚約者を救世主の少女に奪われ捨てられた。
現代日本に転生した湯江は日々を謳歌して過ごしていた。しかし、ハロウィンの日、ゾンビの仮装をしていた湯江の足元に見覚えのある魔法陣が現れ、見覚えのある世界に召喚されてしまった。ゾンビの格好をした自分と、救世主の少女が隣に居て―…。
最後まで書き終わっているので、確認ができ次第更新していきます。7万字程の読み物です。
【完結】双子の兄が主人公で、困る
* ゆるゆ
BL
『きらきら男は僕のモノ』公言する、ぴんくの髪の主人公な兄のせいで、見た目はそっくりだが質実剛健、ちいさなことからコツコツとな双子の弟が、兄のとばっちりで断罪されかけたり、 悪役令息からいじわるされたり 、逆ハーレムになりかけたりとか、ほんとに困る──! 伴侶(予定)いるので。……って思ってたのに……!
本編、両親にごあいさつ編、完結しました!
おまけのお話を、時々更新しています。
本編以外はぜんぶ、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
異世界転生してBL漫画描いてたら幼馴染に迫られた
はちも
BL
異世界転生した元腐男子の伯爵家三男。
病弱設定をうまく使って、半引きこもり生活を満喫中。
趣味と実益を兼ねて、こっそりBL漫画を描いていたら──
なぜか誠実一直線な爽やか騎士の幼馴染にバレた!?
「……おまえ、俺にこうされたいのか?」
そんなわけあるかーーーっ!!
描く側だったはずの自分が、いつの間にか翻弄される立場に。
腐男子貴族のオタ活ライフ、まさかのリアル発展型BLコメディ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる