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115 神の使い
しおりを挟む雨宿りをしていた古い教会で、一人懺悔をしていた俺は、神父の格好をした美丈夫に目を奪われていた。
気配がなくて驚いたが、いつのまにかそばにいた二十代の男性。
銀色の髪がすごく綺麗だ。
長い前髪の隙間から、アメジストのような瞳が見える。
神の使いはこれほどまでに美しいのかと、俺は息を呑んだ。
「あのっ、神父様ですか?」
「はい……」
「また明日も、来ても良いですか?」
「ええ、お好きな時に──」
その言葉を聞いて頭を下げた俺は、これ以上会話をすることが出来なくて、教会を後にする。
外に出ると雨は上がっており、今夜の宿を探しに行ってくれていたエレンが待っていた。
濡れた赤髪を乾かして、着替えも済ませて来たようだ。
早く宿に行こうと手を引かれて、ぼんやりとしていた俺は、なんとか足を動かした。
「エレン……。見たか?」
「なにをです? それより、三時間もなにを祈っていたんですか?」
「俺はな、今、神の使いと会話をしたんだ」
「……頭、大丈夫ですか? イカれちゃった?」
「そうかもしれない」
「え。怒らないんだ……」
かなり失礼なことを言ったのにと、驚いているエレンを横目に、俺は神父様のご尊顔を思い出す。
「明日も教会に行くぞ」
「俺は別にどこでも良いですけど……。遠くに行きたいって言ってませんでした?」
「神の裁きを受ける」
「……本格的にイカれてしまわれた」
絶対にそばを離れないと宣言するエレンは、俺をおつむが弱い小さな子供だと思っているようだ。
明日会えばわかるとだけ告げた俺は、エレンが用意してくれた宿に向かう。
今にも風で飛んでいきそうなボロい宿だったが、教会から近いので都合が良い。
そう思っていたのだが、どこも満室で他に宿が取れなかったと、エレンに頭を下げられる。
「俺はどこでも良いぞ? それで、エレンはどうするんだ?」
「野宿でもします」
宿の近くで一晩中立ち続けていそうな雰囲気に、俺は店主に二人部屋に変更してもらう。
多めにチップを払えばすぐに用意してくれた。
寝台が二つ置かれている質素な部屋に案内され、俺は左側の寝台に腰を下ろした。
曇った窓の外に視線を向ければ、雨上がりの虹が見えた。
心が洗われる気がするのは、神の使いに出会ったからだろうか。
廃れた教会だったが、神聖な場所に違いない。
早く教会に行きたいと願っていると、部屋の真ん中で立ち尽くすエレンに話しかけられる。
「本当にこの部屋で良かったんですか? しかも、俺と一緒なのに……」
「それのなにが不満なんだ?」
なぜか黙ってしまったエレンは、罰の悪そうな顔で短い髪を掻いていた。
もしかしたら、俺が古宿を嫌がって、王宮に帰ると駄々を捏ねるのを待っていたのかもしれない。
それに、他の宿も全て満室だったなんて、今思えばおかしい気もする。
思い通りにはいかないぜと、ほくそ笑んだ。
着替えも湯浴みも慣れたように済ませていくと、エレンはぽかんと口を開けている。
紅茶も自分で淹れて、ついでにエレンにも飲ませてやった。
リュカほどの腕前ではないが、リュカを毎日見ていたから、やろうと思えば出来るのだ。
恐る恐る紅茶を口に含んだエレンは、おいしいと呟いた。
「貴方様は、一体……誰ですか?」
「ん? リオン・クロフォード? 通称、傍若無人の我儘王子様?」
「…………顔だけ王子様ですよ。やっぱり別人か? でも、髪色が……」
なにやらぶつぶつと独り言を話すエレンは、髪をかき乱して、浴室に消えた。
ちなみに、紅茶は全て飲み干してくれていた。
明日も神父様に会えるだろうかと期待しながら、さっさと就寝する。
◆
早起きした俺の隣の寝台では、シャツを乱しただらしない格好の美青年。
寝台に腰掛け、目を伏せている。
座ったまま眠っている俺のイケメン護衛が、見事な胸筋を曝け出していた。
腕を組んでいるからか、盛り上がる胸筋に俺の目は釘付けだ。
細身だが、しっかりと鍛えられている。
ごくりと生唾を飲むと、イケメンの瞼がすっと持ち上がる。
「おはようございます。よく眠れたようで」
「っ……あ、うん。快適でした」
「…………」
なぜか無言のエレンから熱視線を送られるのだが、俺は慌てて顔を逸らす。
……やばいやばいやばい。
胸筋をガン見していたのがバレている?!
硬いのか柔らかいのかが知りたくて、ちょっとだけ揉んでみたいとは思ったけどっ?
卑猥な意味でじゃないからな?!
心の中で言い訳をしていると、顔を洗ってくると告げたエレンが立ち上がった。
その背を見送り、なにも言われなかったことに、ほっと息を吐いた。
「寝起き姿が可愛すぎるだろっ!!」
どこからか聞こえてきた叫び声は、隣の部屋だろうか?
ボロ宿だから、声が丸聞こえだ。
俺たちの会話も他の者に聞かれないよう、声を抑えて話す必要があるな。
気を付けようと思いながら着替えを済ませ、朝から湯浴みをしたらしいエレンと共に、教会に向かった。
そこで待っていたのは、美しい神父様ではなく、額に大きなバツ印のような傷のある、大男だった。
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