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17 天使との触れ合い ユーリ
しおりを挟むそして、何度かヴィヴィアンに会いに行くのだが、結局何も話せない俺は、ヴィヴィアンの体調を見て、切り上げる様子を判断する係になっていた。
もちろん友人二人からは大ブーイングだが、そんなことよりヴィヴィアンの身体の方が大切だから、しれっと無視をする。
その様子にナポレオンが、今度は二人で会いに行こうとこっそり提案し始める。
「っ、無理だ。喋れない」
「可愛すぎて?」
「っ…………」
「ぷふ、大丈夫。俺が喋るから、ユーリは紅茶でも飲んでて」
「いや、さすがに一時間紅茶を飲み続けるのはどうかと思う」
「じゃあ喋ればいいじゃんっ! 他の二人はいないし、気を遣うことないって! ヴィーも、ユーリと喋りたそうにしてるし」
その言葉に、嫌がっていた俺はピクリと反応してしまい、ナポレオンの口角がグッと持ち上がる。
「最悪、本でも読んであげて。ヴィーは読書が好きだからね?」
パチリとウィンクするナポレオンに、天使は読書が好きなんだな、と頭にインプットしてゆっくりと頷いた。
そして後日。
ナポレオンと二人で天使に会いに行った。
陛下に呼ばれたと嘘をついて、こっそりと親指を立てて部屋を退出して行った男に、ようやくハメられたことに気づいた。
そんな俺は、序盤から紅茶を飲み過ぎて腹一杯になっている。
そして内心舌打ちし、天使の様子を伺った。
アメジストの大きな瞳がきょろきょろと動いている。きっと気まずいのだろう。
そして、俺は早々に「読書」という名の切り札を出す。
普段は剣術の戦略を練りに練る俺だが、ヴィヴィアンに関しては戦略のセの字もない。
弟に読むように本を朗読すると、「上手だね」とヴィヴィアンの方から話しかけてくれた。
「まぁ、弟にいつも読んでやってるからな」
やっと会話が出来て嬉しくなった俺は、つい弟にやるように頭を撫でてしまう。
そして、すぐに後悔した。
ヴィヴィアンの体が怖がるように、ビクッと震えたんだ。
ただ俺の面が怖いからじゃない、きっと性的な悪戯をされたことで人に触れられるのが怖いんだ。
あれだけみんなに触るのは禁止だと口を酸っぱくして言っていたのに、自らやらかしてしまった。
今すぐ死にたくなった俺に、天使が鈴のなるような声でくすりと笑う。
「そんな顔もするんだ」
天使の微笑みを間近で見てしまった俺は、すぐに顔を背けた。
だって、本当に可愛すぎたんだ。
もう口許がデレッデレすぎて、人には見せられないような顔をしている。
「可愛いね、ユーリ」
初めて名前を呼ばれて興奮してしまう。
だが、天使の方がよっぽど可愛いし、グレンジャー家の者として、可愛いとは聞き捨てならない。
デレデレの顔をなんとか平常に戻した俺に、ユーリはいつも怒った顔してる。と告げられて、驚いて目が丸くなる。
本心では、ヴィヴィアンが可愛すぎるとしか思っていないんだが、天使には俺がそんな風に見えていたのかと申し訳ない気持ちになる。
「ヴィヴィアンじゃなくて、ヴィーで良いよ」
そして、天使からのいきなりの提案に、俺は目を瞬かせまくる不審者に成り下がる。
他の友人はヴィヴィアンと呼んでいるけど、一番会話をしていない俺が、天使を愛称で呼んでも良いのだろうか?
嬉しさが爆発した俺は、もう下手なことは考えずにさっそく「ヴィー」と呼ばせてもらった。
すると、顔を赤らめて急に胸を押さえて苦しそうにするヴィヴィアンに、俺は慌ててベッドに寝かせて、熱がないかを確認する。
そこでようやく、またやっちまったことに気づいたが、今度は普通に触っても何の反応もなかった。
むしろ、ヴィヴィアンは俺の手が冷たくて気持ちいい、と口許を綻ばせていた。
ナポレオンには普通に髪を撫でられたりしているし、もしかしたら俺に気を許してくれたのかもしれない。……すごく自分に都合が良い気がするが。
だが、俺の予想は的外れではなかった。
ヴィヴィアンが俺の手に触れ、ぷにぷにの頬に当てて、気持ち良さそうな顔をする。
「また熱くなったら……ユーリの手、貸して?」
「ヴィーの為なら、いつでも貸してあげるよ」
いつもはぶっきらぼうな話し方で、ここまで優しい話し方なんてしたことがなかったけど、天使の花が咲き誇るような美しい笑みに見惚れた俺は、これからもヴィヴィアンにだけは優しく話しかけようと心に誓ったのだった。
そして幸せな気持ちで部屋を出ると、ニヤニヤするナポレオンが待っていた。
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