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10 拒絶
しおりを挟む婚約者の父親に対して、決して叶うことのない一方的な想いを寄せてから五年の月日が流れていた。
十五歳になった俺は、自分で言うのもなんだが、父のエドワードに似たおかげで、絶世の美青年に成長していた。
すでに婚約者がいるため、令息達からあからさまなアピールはされなかったけれど、たまにおじさま達からねっとりとした視線を向けられるようになっていた。
レオンハルト様からの熱い視線なら嬉しいのに。
彼に恋愛対象として見てもらえないことはわかっていたけど、諦めの悪い俺は、自分磨きに余念がない。
レオンハルト様のタイプがわからないけど、とにかく身綺麗にして、柔軟体操は毎日した。
……抱かれる気満々だ。
恋人でもないのに体を解す俺は、片思いを拗らせすぎて、方向性を見失っている。
「お義父様っ!」
「エレン、よく来たね」
いつものようにレオンハルト様の胸に飛び込むと、軽々と受け止めてくれた。
少しだけ出来た目尻の皺が色っぽい。
恋のフィルターを抜きにしてもやはりお美しい。
三十五歳のレオンハルト様は、まだ二十代前半と言われても普通に頷ける。
ふわりと香る森のような彼の匂いを堪能していると、肩を押されてやんわりと距離を取られた。
「エレンの好きな焼き菓子を用意したから、一緒に食べようか」
「……はい」
先にソファーに腰掛けたレオンハルト様が、隣をぽんぽんと叩いた。
いつもは膝の上に抱き上げてくれていたのに、横に座ってと合図をされて戸惑った。
だが、一秒でも近くに居たい俺は、言われた通りすぐに隣に腰掛けた。
美味しい焼き菓子を食べながら、お話をして楽しい時を過ごすけど、いつものようなスキンシップをしてくれない。
レオンハルト様は笑っているけど、なんだかいつもと様子が違う気がする。
もしかして、ついに恋人が出来たのだろうか?
だから俺に触れてこないのかもしれない。
俺の体つきも充分大人に近づいている。
律儀な彼だから、相手の為を思っての行動なのかもしれない。
それは容易に想像できた。
そう気づいた途端に、悲しみで胸が張り裂けそうになる。
でももう小さな子供ではないのだから、膝の上に乗ることは諦めた。
それでも彼が俺の話を聞いてくれるだけで、充分幸せだった。
同じ空間にいれるだけで満足しないと。
そうじゃないと、俺は彼の傍にはいられないのだから……。
ガックリとしながらオリバーに会いにいくと、今日も勉強をサボって下町に遊びに行ったらしい。
十年経っても相変わらず自由な男だ。
本当にレオンハルト様の子供なのか、と疑いたくなる。
馬鹿なのは仕方ないけど、何の努力もしないオリバーが嫌いだ。
努力をして、それでも出来ないなら俺もフォローしようと思えるのだけど。
いかんせん、あいつは努力をすることを嫌い、笑って誤魔化す。
腹が立つけど、空色の瞳が大好きな彼を思い出させるから、俺はオリバーに強く言うことが出来なかった。
「あれ? エレン来てたの?」
「あっ、ジークお義兄様!」
父親譲りの綺麗な銀髪に深い海のような青色の瞳の彼は、オリバーの兄のジークハルト様。
長髪のレオンハルト様と違い、髪は肩口で整えられており、端正な顔立ちで、銀の貴公子の美貌は受け継がれている。
「あいつ。また勉強サボって、遊びに行ったみたいだな。全く、誰に似たんだか」
肩を竦ませる一つ歳上のジークハルト様は、歳が近いこともあって、よく俺にかまってくれる。
特にオリバーに放置されたときは、必ず会いに来てくれるのだ。
そういうさりげない優しさは、レオンハルト様譲りだと思う。
「彼の良いところは瞳の色だけですね。本当に残念です」
「ふはっ、お前まだ父上のことが好きなの?」
「っ……!! べ、別に、好きとか、そういうのでは……。家族愛、ですよ?」
「うわっ、わかりやすく焦ってる~!」
「っ、揶揄わないでくださいっ!」
「ごめんごめん! 普段冷静なエレンがあたふたするところが可愛くて、つい揶揄いたくなるんだよね?」
笑いながらわしゃわしゃと頭を撫でられて、俺はつんっとそっぽを向いた。
「俺の婚約者になる?」
「はい?」
「オリバーより、俺の方が父上に似てるだろ?」
「確かにそうですけど。俺が好きなのは、外見じゃなくて……。優しくて包容力のあるところとか、ちょっとほっとけないところとか、内面的なものであって……」
「うんうん、恋だね?」
「はっ!?」
「父上にフラれたらいつでも言いに来てね?」
「……余計なお世話ですっ」
さっきレオンハルト様にやんわりと拒絶されたことを思い出して、俺は目頭が熱くなった。
泣きそうになるのを堪えて俯いていると、ふざけていたジークハルト様がそっと抱きしめてくれる。
何も言わずに頭をぽんぽんと撫でてくれた。
こういうことを簡単にやってのけるところは、レオンハルト様にそっくりだと思う俺は、暫く甘やかしてもらっていた。
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