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その後 反省した者
27 必然 オリバー
しおりを挟むエレンが父との子を身篭り、幸せそうな姿を自分の目で確認した俺は、エレンへの想いを断ち切り、ラサニエル准男爵家に婿入りしていた。
あれから五年。
地方にあるラサニエル准男爵家での生活は、クリストフ侯爵家で暮らしていた頃よりも格段と貧しい生活だが、自然に囲まれてとても過ごしやすい。
俺とエレンの関係を知らない、夜会で出会った、ラクダ……ではなく、キャメル色の髪の青年ーーミカエルに包み隠さず真実を話した。
憔悴する俺を慰めてくれた優しいミカエル。
『エレン様の為にも、私を幸せにしてくださいませんか?』
俺は一も二もなく頷いていた。
『今度こそ、大切にするよ。こんな情けない俺を見捨てないでくれて本当にありがとう、ミカエル』
ミカエルとの間に子が産まれ、生活が困窮することもあるのだが、今更父に泣きつくことが出来ない俺は、金策はミカエル任せになっていた。
半年に一度、月初めに大口の取り引きをしに行くミカエルは、毎度この日は上機嫌で、とにかく身綺麗にしている。
「ミリーのこと、よろしくね?」
「あ、ああ……」
どこへ行くにも常に一緒にいる、二歳の我が子を俺に預けるミカエル。
エレンに捨てられたわけではないのだが、ミカエルにも捨てられるのではないかと不安が過ぎる。
それは、自分がエレンを裏切って、他の尻軽を追いかけていたからこそ、こうして自分も不安になるのかもしれない――。
重要な書類を片手に、元気に手を振るミカエルを見送った俺は、ミリーを義母に預けて馬に乗って、こっそりと後を追う。
「なんて情けない男なんだ、俺は……」
ミカエルのことはとにかく大切にしているし、もう浮気なんて絶対にしない。
それに、もしミカエルが浮気していたとしても、俺はミカエルを見限らないつもりだ。
親友のエレンがそうしてくれたように――。
暫くして着いた先は、ミカエルの職場である、花園だった。
花を育てることが趣味だったミカエルは、珍しい空色の花を栽培している。
その花の色は、俺の瞳と同じ色だから、ミカエルも大層気に入っている。
そして停まっている馬車を見て、ドクドクと激しく心臓が音を立てる。
まさか……まさか……まさか……。
早足で園内に向かうと、ミカエルに抱きつかれた翡翠色の瞳の美人が、優しく微笑んでいた。
「エレン様っ!」
「ふふ、ミカエル。久しぶり」
「お会いしたかったです!」
これでもかとエレンに甘えるミカエルは、蕩けるような笑顔を見せて、自慢の空色の花を一緒に愛でていた。
「オリバーは元気?」
「はい。ミリーの面倒もよく見てくれますし、今度こそ婚約者を幸せにすると、とても大切にしてくれています」
「そっか、良かった……。今度はミリーにも会いたいな?」
「えっ、嫌です」
「なんで?!」
「エレン様を独り占めしたいからに決まってるじゃないですかっ!」
くすくすと笑い合う二人は、甘い雰囲気ではなく、古くからの友人同士のように見える。
それから書類を渡して白い袋を貰い、中を確認したミカエルは、ギョッとした顔をする。
「こ、こんなに、頂けませんっ! 毎度毎度、多すぎるんですよっ!」
「ふふ、ミリーの為に使って?」
「ううぅぅ……」
「それに、オリバーを婿入りさせてくれたお礼も兼ねて」
「それ、毎回仰られてますよね?」
「……バレた?」
はあ、と溜息を吐いたミカエルは、エレンに貰った大きめの袋を抱きしめる。
「きっかけはエレン様でしたけど、話してみると趣味も合うし、オリバーと出会わせてくれたことに感謝しているくらいなんですよ?」
「そう言ってくれて嬉しい。また、オリバーとは長年一緒にいたから、何が好きでどんな性格なのかはだいたい把握してたからね?」
空色の花を見つめるエレンは、柔らかく微笑む。
口許を押さえて、嗚咽を堪える俺は、ミカエルと出会ったことが偶然じゃなかったことに気づいてしまった――。
「そろそろ帰らないと」
「えぇ~」
「ごめんね? レオがうるさいんだ」
「きゃあ♡ ラブラブですね?」
「ふふ、どうかな? レオも、早くオリバーと仲直りしたら良いのに……。そしたら、もっと長く居られるんだけど」
「オリバーに言っておきます!」
「いや、いいよ。オリバーが、自ら動くのを待ってあげて?」
「むぅぅ……」
「いつか、レオと一緒に三人に会いに行く日が来ることを、楽しみにしてるから――」
そう告げたエレンは、昔から美人だったけど更に美しくなっているし、少し色っぽくなっていた。
父に愛されているのだろう。
何年経っても、俺の尻拭いをし続けるエレンは、俺の中で最も特別な存在。
ミカエルとミリーと同様に――。
二人が帰る前に、大急ぎでその場を離れた俺は、家に帰って五年ぶりに父に手紙を書く。
今までの謝罪文と、ミリーを会わせたいこと。
そして、もう二度と自分の伴侶を裏切ることはせず、生涯大切にすることを――。
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