俺の婚約者は、頭の中がお花畑

ぽんちゃん

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その後

30 パパは勘違い野郎 ミリー

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 ラサニエル男爵家の長男の僕には、大好きな人がいる。

 半年に一度しか会えないけど、僕の頭の中は、麗しくお優しいあの方のことでいっぱいだ。

 元々准男爵家だったのに、男爵家に爵位が上がったのも、そのお方のおかげ。

 詳しい内容はよくわからなかったけど、ママが育てた珍しい空色の花がそのお方の目に留まり、王妃様に口添えしてくれたんだって。

 元々は僕のパパの婚約者だったらしいんだけど、どう考えても釣り合わないと思う。

 主にお顔が……。

 別にパパは不細工じゃないけど、僕の大好きなあのお方は、この世の者とは思えない程美人なんだ。

 
 精一杯おめかしをする僕の横で、ママが一時間以上髪をセットしている。

 一時間前から全然変わっていないんだけど、ママもあのお方が大好きだから、二人して必死なんだ。

 この前内緒で教えてくれたんだけど、ママは昔、パパよりあのお方のことが好きだったんだって。

「二人とも! 早くしないとエレンが来るぞ?」
「パパ……」

 ハァ、と溜息をつく僕は、罰の悪そうな顔できゅっと口を引きむすんだパパを見上げた。

「また軽々しくお名前を呼んだら、お爺様に叱られますよ?」
「ぐっ……。じゃあなんて呼べば良いんだよ、一応幼馴染みなんだけど……」
「お爺様の最愛のお方?」
「ハァ……。長過ぎるだろ」

 わしゃわしゃと癖っ毛を掻き乱すパパは、お爺様にはめっぽう弱い。

 お爺様と言っても、ママ方のお爺様と比べたら……うん、それは言わないでおこう。

 

 家の前で今か今かと待っている僕とママは、豪華な馬車が見えてきた瞬間、ピンと背筋を伸ばす。

 お爺様にエスコートされて麗しいあのお方が馬車から降りて来て、お利口さんにしていないといけないのに、僕は走り出していた。

「「エレン様っ!」」

 僕を押し除けて全力ダッシュするママは、本当に大人気ないと思う。

「ふふっ、相変わらず元気だね。ミカエル」
「お会いしたかったです!」
 
 僕は先に、青みがかった銀髪が綺麗なお爺様に挨拶をする。

「お待ちしておりました」
「ミリー、また背が伸びたんじゃないのか?」

 優しく抱き上げてくれるレオンハルトお爺様は、五十手前とは思えない程男前で、お肌も艶々だ。

「レオンハルト様も、相変わらずお美しい……」
「ふっ、喜ばせるようなことを言ってくれるね? あれの息子だとは思えない」
 
 チクリとパパの悪口を言うところは、いつものことなので僕も元気に頷いた。

 そんなパパは、お爺様に気を遣いつつも、エレン様ばかり見ている。

 エレン様のことは幼馴染み以上の感情を持ち合わせていない、とか言っておきながら、未練たらたらで本当に気持ち悪いと思う。

 案の定、ママに頭を叩かれている。

 いくつになっても、頭の中がお花畑なんだと思う――。

 

 今日は普段より奮発した豪華な料理を並べて、みんなで楽しくご飯を食べる。

 エレン様が僕の誕生日を覚えていてくれて、プレゼントを貰った。

 嬉しすぎて泣きそうになってしまったけど、ぐっと堪えてお礼を述べる。

 それからママにも子育てを頑張っているからとプレゼントを渡していた。

「エレ……じゃなくて、俺には……?」
「あ。忘れてた」

 エレン様の一言に、パパはガックリと項垂れて、みんなで大爆笑する。

 これもいつものこと。
 エレン様はいつもパパの分だけ忘れるんだ。

「うそうそ、今回はちゃんと持って来たよ」

 優しく微笑む女神様に、僕が笑いかけられたわけじゃないのに、ぽっと頬が熱くなる。

 目を輝かせるパパが手を差し出すと、お爺様にパァンと叩かれる。

「エレンからお前に渡すものなど無い」
「っ…………父上。さすがに傷つきます」
 
 フンッと鼻で嗤うお爺様は、エレン様からプレゼントを奪い取って、翡翠色の宝石が綺麗なブレスレットを取り出すと、自分の腕につける。

「私の方が似合っているだろう? な、ミリー」
「はいっ!」
「さすがはエレン様の最愛のお方です。お二人が並ぶと美しすぎて……眼福の極みですっ!」

 ママもべた褒めし、お爺様はドヤ顔だ。

 この中にパパの味方は誰もいないので、パパは何も言えずに口を尖らせてガックリと肩を落としていた――。

 

 今回は二人がお泊まりしていくので、明日もエレン様に会えると思うと興奮して眠れなかった。

 夜中にトイレに行こうとすると、話し声が来てこっそりと食堂を覗く。

「似合ってるよ」
「なんで? 二つあったのか?」
「ふふっ、こうなることは予想済みだったからね?」
 
 翡翠色のブレスレットを手にギュッと握りしめたパパは、少しだけ泣きそうな声で話す。

「生活が苦しくなったら売って良いよ」
「っ……そんなこと、するわけないだろ」
「真面目になったね……安心したよ。俺の役目もこれでお終いかな?」
「っ、なにそれ。もう……見捨てるってこと?」

 すんと鼻を啜るパパに、エレン様は困ったように微笑んだ。

「先に見捨てたのはオリバーでしょ?」
「ぐっ……。あの時は、本当にすまなかった」
「いいよ、何度も聞いたしね? それに、レオと結ばれることができて、俺は幸せだよ」
「…………ああ、」
「あと、マイキーの子供もね」
 
 ひゅっと息を呑むパパ。
 マイキーって誰だろう?

「時期を見て話そうと思ってたんだけど……。マイキーの両親と子供はうちで保護していたんだ。今は侍従見習いとしてネイソンが面倒みてるよ」
「っ、なんで? なんでだよ……」
「もしかしたら、オリバーの子かもしれないだろう?」
「…………あの阿婆擦れは、他にも男がっ」
「でも、オリバーが一度は愛した人の子供なんだから、放っておけなくて」

 声を押し殺して泣き出すパパに、エレン様は優しく背中を撫でていた。

 二人の話に集中しすぎて、後ろから口を押さえられた僕は、驚いて飛び跳ねる。

「ミリー、駄目だろう?」

 静かに話すお爺様は、パパとエレン様に過去になにがあったかを話してくれた。

 パパはエレン様を捨てて、マイキーって尻軽と結婚しようとしていたらしい。

 とにかく全面的にパパが悪いお話で、それなのにどうしてエレン様があんなに優しくしてくれているのか全くわからなかった。

「エレンがどうしてオリバーに優しいかって? それはね、全部私の為だよ。エレンは私を愛しているから、私の息子であるオリバーを大切にしてくれているんだ。別にオリバーを好きだからじゃない」
「……なんだか、よくわかりませんけど、パパは勘違い野郎ってことだけはわかりました」

 クククッと軽やかに笑うお爺様は、やはりパパより賢いな、と僕を褒めた。

「私はあいつと和解したが、心の奥底では許していない。だからエレンのやることを、見て見ぬふりをしている。その方が、あいつはいつまでもエレンのありがたみを感じ続けることが出来るだろう?」
「……レオンハルト様は、策士ですね?」
「ふふっ、どこでそんな言葉覚えたんだい? まあ、そうだな。心から愛する人が自分の父親の伴侶だなんて、笑えるだろう?」

 ゾッとするような恐ろしい顔で笑うお爺様は、エレン様のことを愛しすぎているらしい。

 そんなエレン様を傷つけた相手が自分の息子であろうと、容赦はしないみたいだ。

 お爺様には絶対に勝てないと悟った僕は、エレン様のことを諦めることにした。

 だって、普通に怖いもん。



 二人とお別れした後――。

 何か辛いことがあると、パパは引き出しにこっそりと隠している翡翠色の宝石のついたブレスレットを手首につけて、お祈りをする。

 いつものことだ。

 真実を知っている僕は、悪いことをしてエレン様を傷つけたパパに、本当のことを教えてあげない。

 だって真実を知ったら、パパは気が狂ってしまいそうだから。

「パパー! ご飯だよー!」
「…………おう! 今行く!」

 なんだかんだでパパのことが大好きな僕は、今の優しいパパでいて欲しいから、内緒にするんだ。

 たまに泣き言を言って、ママに小突かれるパパを見ながら、僕はしっかり者にならないとな、と思う。

 笑顔の絶えないラサニエル男爵家は、それぞれ愛のある小さな秘密を抱えながら、三人仲良く暮らしている。



 (完)
 





















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