制裁の仮面

ウスノろマウス

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制裁の仮面 中

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 突然後ろから声がした。驚いて振り向いてみると、背丈からしてボクより年上の高校生のような女性が立っていた。
 そしてさらに驚いたことに、ついさっきまでに手に持っていた黒いシルクハットがなくなっていたのだ。
 格好は白のトレンチコートに、白黒のチェック柄のネクタイ、そして同じ配色のチェック柄のミニスカートという前世はシマウマで間違いないような見た目をしていた。
 しかし一番に目を引くのは、先ほど持っていたシルクハットを目元が隠れるほど深く被っており、見えるのはニヒルな笑みを浮かべた口元だけだ。
 
「あの……すみません、どちら様ですか?」 
「紹介が遅れたね。僕の名前は――カルアって言うんだヨ。色々と訳ありでね、世界中を旅している。今は商いをやっているヨ」 
「……それでその、ボクになんの用ですか?」
 カルアという少女は、ビシッとボクに指をさして、 
「君、ヒーローみたいに強くてかっこよくなりたいんだよね? 僕にはわかるヨ」 
「――ッ!! どうして、それを」
  
 カルアはクルッとこちらに背を向けると深く被った帽子を外して、手を突っ込みゴソゴソと帽子の中を漁りはじめた。ちょっと待て、帽子の中!?
 仕組みに混乱していると一つの仮面が取り出され、ボクはそれを見てとっさに、
 
「ジャ、ジャスティスマスク……! じゃ、ない。微妙に、違う……」
 
 取り出された仮面は、全体的な見た目こそジャスティスマスクと変わらない。
 しかし目の形が円形ではなく楕円形であったり、マフラーの色も青色ではなく緑色とまるでどこかの国で作られた質の悪いパクリ商品のようだ。 
 それに普通はお面を付けたり被ったりするための紐や穴がない。なんだ、これは?
 
「名付けて、制裁の仮面!! まぁ正義と制裁ってほとんど同じようなもんだし? ちっちゃいことはゆっ〇ぃでさえ気にしてないんだから、君も気にしないように。これを付けるだけで、まるでヒーローのように戦闘力が軒並み上がり、さらに空だって飛ぶこともできる! 他にも嬉しい能力がたくさん!! どうだい? ほしいと思わないかい?」

 ………………変わらないカルアのニヒルな笑顔。思えば、この嫌味を言うためにずっとそうだったかもしれない。
 ボクをからかって楽しんでるんだ、嘲笑ってるんだ。そんな疑惑が頭から離れず、ボクは、 

「ほしく……ないし、てか? 全然ヒーローみたいになりたいとか思わないし、今どきそんな願い事、小学生でもイタイだろ」

 自分で自分の首を絞めてるようだった。最後の方は声が震えていた気がする。心の内を悟られまいと必死に震えをこらえた。
 カルアはホヘッ? と言わんばかりにぽかんと口を開けて首を傾げたあと、再びニヒルな笑みに戻って、

「まぁそう強がっちゃうのも無理はないよね~。で・も……文句なら使ったあとに言ってもらうヨ」

 そう言うとカルアはボクに向かって仮面を投げつけてきた。つい反射的にキャッチすると、まるで生き物ようにピクピクと振動しはじめる。
 次の瞬間――吸い込まれるようにしてボクの顔にくっついてきたのだ。

「ンッ! ンゥ~ッ!!」

 引き離そうにも、仮面はまるで重度のヤンデレ彼女のようにしてボクの顔から離れない。
 ついでに呼吸気管も塞がれたようで、ただ呻くことしかできないのだ。そんな現状を見たカルアが諭すように、
 
「落ち着きなヨ。さすがにちゃんと呼吸ができるように設定してあるから。はいはい深呼吸深呼吸」

 優しく背中を撫でてくれるカルア。ボクは津波に飲み込まれているときのような気分から脱し、無事成功だ。

「スゥーハァー……スゥーハァー……スゥーハァー…………」

 酸素が体全体に循環していくのを感じる。冷静になると普通に呼吸ができて、ボクは先ほどの呻いていた自分を恥じた。やはり酸素を取り込むのは心地が良い。今この瞬間はいつにも増して……ってあれ?

「なんか……体が……熱い、ような……」
 
 まるで酸素のほかに、炎の龍が体全体を巡っている感覚だ。細胞一つ一つが産声を上げるようにして意識が覚醒していく。
 両腕にはメリメリと血管が浮き上がり、呼吸が荒々しくなっていった。
 里中たちと闘う前とよく似ていた。ボクの中のなにかがブチッ とキレて、自分自身でも手がつけられなくなるあのときのように。
 脳から、心から、魂から、溢れんばかりの、

「力が……湧き上がってくる!!」
「その調子だヨ主人公君! ところでさっき話した嬉しい能力についてなんだけどね……目印マーキングって声に出して言ってごらん」
「? まーきんぐ?」

 言葉セリフを発した瞬間――ここから少し遠く、自分の家よりさらに奥側から黒い煙のようなものが天高く昇っていった。
 てっきり火事かとも思ったが、それにしては静かすぎる。訝しげに見つめていると、カルアが、
 
「これが制裁の仮面九十九の能力の一つ、君が裁きたいと思っている悪い人を、黒い煙で目印マーキングを付けられるのさ! どんなに遠く離れていても煙は必ず視えるようになっているヨ」 
「だとしたら、あの先が……!」
「そう! ちょうど二人一緒にいるからラッキーだヨ。日下部さんから黄金バッジを奪い取り、さらに主人公君を痛めつけた里中君と須崎君吐き気を催す邪悪が現在いる場所だヨ。あとは……わかるよね?」

 ニヒルな笑みが、より一層あくまのように口角がつり上がるカルア。ボクは内心ビクッとしつつ、意図を理解して軽くうなずく。

「ヒーローとしての最初の仕事……だな」

 ボクは目を閉じ、何度も何度も頭に刷り込ませるようにして、空を優雅に飛ぶ自分を想像イメージした。
 すると、一瞬体が無重力になったようにフワッと浮き上がり、そのまま引っ張られるようにして里中たちがいる方向まで勢いよく飛んでいったのだ!
 かなりの風圧を受けて、ボクは思わず目をつむった。まだ日は昇っているにも関わらず、風にさらされたボクの体は鳥肌が立つほどに寒さを感じていた。

操縦コントロール操縦コントロールダァ……!!」

 目が潰れてしまいそうだ。初めてなのか、飛行能力をうまく制御できない。何度も口に出しながら風圧に耐え続けていると――風の音が聞こえなくなった。
 風圧も感じなくなり、さっきまでの引っ張られるような感じが消えたのでボクは目を開けた。

「……ウワァ……」
 
 言葉を、失った。ボクの目の前を雲がぷかぷかと浮かんでいる。目線を下に降ろすと、本来人間が踏まないと生きていけないはずの大地がはるか先にあった。
 ボクは高いはずのビルや住宅街、公共施設などを見下ろしていた。東京タワーにある床の一部がガラスの作りになっているアレをパワーアップした感じだ。
 自分は高所恐怖症ではないので無意識にテンションが上がってしまう。気色の悪い笑みを浮かべながら、ボクはしばらく空中遊泳を楽しんでいた。
 ふとそんなことをしている場合じゃないと、理性を司るボクが頭を殴ってきた。
 少し反省したあとは体の向きを変えながら、足の裏にジェットエンジンが付いているように見立てて移動した。
 
「ここか……」 
  
 家に到着すると、ボクは耳に意識を集中する。だんだんと里中と須崎の声が、ボリュームを上げるようにして耳に入ってきた。

「たしかバッジって数十万はするってアイツ言ってたよな。本当かな?」
「おいおいまぢだぜこれ! ネットで検索してみたんだが、これ見ろよ!」
「ウオオオオ!! まぢかよこれ! ヤバいよヤバいよ!!」
「…………なあなあ、これ、メルガリで売らないか?」
「ええ!? さすがにヤバいんじゃね」
「だいたい、中学生の分際でそんな高価な物を持ち運ぶんでるのがいけなかったなんだよ。今回の件で、生徒会長は良い教訓を得たはずだ。俺たちは良いことをしたんだよ」
「そうだな、そうだよな。ハハハハハハハ!!!!」
「許さない……!」

 ためらいはなかった。ボクは里中たちがいる二階の部屋の窓ガラスに勢いよく拳を突き出した。
 バリィィィンッッッ!!!! と映画のワンシーンのように、ガラスはあっけなくして四方に飛び散る。
 里中たちはビクンッ と体を震わせたあと、こぼれ落ちそうなほどに目を見開いていた。対してボクは毅然とした態度で、
 
「――制裁時間ジャッジメントタイムだ」
 
「だ、誰だテメェ!!」
「その格好、公園でボコしたさっきの――グァッ!!」

 次の言葉セリフを言い終えるより先に、ボクは里中の首をつかんで持ち上げた。さっきとは立場が大いに逆転している。
 苦しげな表情を見るたびに、この手で悪を裁けることに対して心の底から歓喜した。

「離せやこの野郎!」

 またも傍観していた須崎が向かってくるのを、ボクはデコピンで楽々と吹っ飛ばした。
 クローゼットのドアに体を打ちつけて、グヘェ という情けない声を出して床に伏せる須崎。ボクは里中に質問した。

「バッジは、誰が持っている? あれは日下部さんのものだぞ」
「ヒッ、ヒィィィィィ!! お助け、おお助け……」
「こっちは質問をしてるんだぞ! テストで問題が出されたら答えを書く! お前たちはそんな常識でさえ持ち合わせていないのか……!!」
「……きの……須崎の、右ポケットのなか、中に――アベシッ!」

 ボクは里中を放り出すと、須崎に近づいて言われた通り右ポケットの中を漁った。
 嘘をつかれたとも思ったが、どうやらそうでもなかった。バッジを回収し自分のポケットにしまう。
 このまま帰ろうとしたそのとき、頭にピカンッ――と閃くものがあった。
 そうだ、忘れていた。今後ヒーローとして活動する以上は、どうしても必要な
 ボクは気絶した二人の頬をペチペチ叩いて目覚めさせると、部屋の中心に正座させた。変わらずボクの姿に怯え続けている、いい気味だ。

「ま、まだなにか用なんですか? も、もう勘弁してください……!」
「金なら今手持ちで二千円しかないんです。全額差し上げますから、どうか……!」
「そんなものはいらない。ただお前たちに、あることをお願いしたくてな」
「「あること?」」
「今後一切、学校はもちろんのこと、この街で悪事を働こうもんなら、この……制裁の仮面ジャッジメントマスクが制裁を与えに来ると噂を流せ。いいな? わかったら返事!!」
「「は、はい!!!!」」
「あとそれと、わかってるとは思うが、黄金バッジの件を他人に言いふらしてみろ。次は必ず……」

 今度はボクが殺気を帯びた目つきで睨みつけると、里中たちはヘッドロックのように勢いよく首を上下に振った。それを見届けて部屋をあとにした。

 ボクはまるで普段のルーティンを行うようにして、自在に空を飛べるようになっていた。そして気づかぬうちに能力を使いこなす。

捜索レーダー!」

 自分を中心とした、半径一キロメートルにいる人間の位置や姿を識別する性能だと、ボクの頭の中で直感的に理解した。
 商店街には買い物中の主婦や魚屋肉屋のおじさんたち、都市部にはスーツを着たサラリーマンなどがいる中……見つけた!
 十一時の方向、八百メートル先、紺色の三角屋根、二階の部屋のベッドで……

「泣いている……クソッ!!」

 ボクはさらに加速した際の風圧をものともせず、あっという間に家に到着した。
 さっきのように窓から入るわけにはいかず、大人しく解除キャンセルをして仮面を取り外す。
 玄関のインターホンを鳴らし、しばらくすると家の中からドタドタと忙しない足音が聞こえ、勢いよく扉が開かれる。
 そこには泣き腫らしたのか目が真っ赤で、それで驚きの表情をした彼女がいた。

「ど、どうしてここが私の家ってわかったの!? 教えてないよね?」
「理由はあとで話すよ。それよりこれ! アイツらから……取り返したよ」

 慣れない笑顔を向けながら黄金バッジを差し出す。
 驚きの表情から、さらに超驚きの表情に進化した彼女は、やがて目から頬にかけて、一筋の温かい水が伝った。慌ててボクは、

「礼は言わなくていいよ。ボクが勝手にやったことだし、とにかく日下部さんのバッジが戻ってよか――」
 
 言い終えるより早く、彼女は力強くボクを抱きしめてきた。はじめはなにをされたのかがわからなかった。だが背中に氷水を入れられたようにいきなり、
 全身に感じる女子特有の柔らかい食感、ほのかに香る甘い匂い、初めての女子という生物にゼロ距離まで接近したことで、頭は童貞反応オーバーヒートしていた。

「ちょちょちょ! 日下部さん! どうし――」
「どうして、そこまでしてくれるの……?」
 
 彼女はピクピクと小刻みに震えており嗚咽を漏らしている。行き場を失ったボクの両腕がすべきことは、抱きしめ返すことだけだった。
 一分ほどその状態を続けていると、彼女の方からゆっくりと腕がほどかれた。ボクもそれに倣って背中ある両腕を元の位置に戻す。
 どうして、と言われると、自分の本心を話さなければいけなくなってしまう。
 それはまだできないし、したくない。考えあぐねていると、まるでヒーローのように駆けつけてくれた百点満点の回答が頭に浮かんだ。それが、

「――ボクは、日下部さんのヒーローだからね」

 瞬間、彼女の顔に明かりがついたようにパッと頬が赤くなったように見えた。それを隠すようにボクからそっぽを向きながら、

「礼は言わなくていいよとか、悲しいこと言わないでよ……」  
 目元をサッと拭った彼女は、なにを思ったのか唐突に手を差し伸べ、笑顔でボクに、
「――友達になろう!」
「……え?」
 あまりにも突飛な提案に、ボクは困惑した。続けて彼女が、
「日山君ってさ、私が行く先々で結構見かけるし目も合うじゃん? もしかしたら私と友達になりたいのかなって思って。違った?」
「ええ!? あ、それは……」

 彼女の一切の悪意などなく、純粋な瞳で見つめられるのが逆に辛い。どうやら護衛任務(ストーカー行為)はすでにバレてしまっていたらしい。
 自分の中ではうまくやっていたと思っていたのに、認識と結果がズレていたことにボクはかなりショックだった。

「嫌だったらいいんだよ。友達って無理になるもんじゃないし、無理になったところでお互い辛くなっちゃうだけだからさ」

 そんなことはないと言いたいのに、バレてたショックが尾を引いて舌の使い方を忘れてしまった。急速に口の中が渇く。そんな最中、彼女がぽつりぽつりと、
 
「もう、気づいてると思うけど、私もすごく特撮番組が好きでね……幼稚園のころは男の子たちに混ざってヒーロー役や怪人役なんかやったりして、すごく楽しかったんだ」
「…………」
「中学三年になって、周りの子たちはそうゆうしていって、年齢にあった新しい趣味を見つけたりするんだけど、私だけ時間が止まったみたいにずっと好きで……その好きを誰かと共有したくて、正直になりたくて、ずっと悩んでたんだ」
 
 彼女の心の内が小説のページをめくるようにして、次々と言語に変換されていく。ボクはそれをなにも言わずに聞き届けた。

「もちろん今の生活も楽しいよ! 友達とたくさんおしゃべりしたり、生徒会長の仕事をしたりして、本当に充実した学園生活だと思う。ただどうしても胸の奥にしこりができてるような感覚が取れなくて、それが少しずつ大きくなって……苦しくてさ。私が、どうにかなっちゃう前に」

 彼女はまたもボクの手を優しく包みこんでくる。恥ずかしさと、内側からこみ上げるなにかから目をそらそうと思ったが、まっすぐで力強い瞳が逃がしてくれない。
 やがて紡ぎ出すようにしてはっきりと、

「――私のヒーローじゃなくて、私の本当の好きを理解してくれる、友達になってください」
「――ッ!!」

 心臓を矢で射抜かれた感覚がした。友達になろうと彼女に言われたのは二回目だが、一回目とは比べ物にならないほどの彼女の強い思いと意志が感じられた。
 それと同時に、今まで特撮以外どうでもいいと思っていた、もしくは目をそらしていた自分に気づく。
 好きを共有したいとか、正直になりたいとか、ボクには縁のないことだと思っていたのに、
 
 こぼれ落ちる涙が、答えを示していた――


 その日の夜、憧れの日下部さんと友達になれたことによる喜びで、いつもより満足感を感じながら眠りについていた。
 スースーと寝息を立てていたころ、ボクは知らなかった。いつの間にかは、部屋の中に……。
  
「……い……ーい、おーい、起きてヨー。しょうがないな……」

 誰かの声が聞こえる、しかし自分は眠っているのでそんなはずはない。なのでこれは夢の中だと勝手に納得した。
 ボクは脇腹から脇にかけて、ムズムズと起きていたら確実に堪えられないなにかをされているような気がした。
 これも夢? これって、これって――

「ヒヒ……ヒ、ハハッ、ハハハハハハッッッ!!! やめっ、やめっ、やめろホホホホッッッ!!!!」

 布団を蹴り上げながら身をよじらせ、何者かによるくすぐり攻撃を回避する。
 床に手をつきなから後退すると、そこには見覚えのある黒いシルクハットを被った少女がいた。

「な、ななななんでここに! いつ入ってきたんだよ!」
「まぁまぁまぁ、そんな広告の✕ボタンぐらい小さなことは置いといて、どうだった? 仮面の使い心地は、気に入ってくれたかな?」
 
 カルアはニヒルな笑顔を浮かべながら四足歩行で寄ると、ボクともう少しで唇と唇が触れてしまいそうなほど顔を近づけてくる。
 あまりにも無防備すぎて、心臓がうるさいほどに鼓動を速めていた。

「も、もちろんその……すごく良かったよ。仮面があったおかげで里中たちに勝つことができたし、バッジだって日下部さんに返すことができた。できることなら使い続けたいけど……やっぱりだめなんだろう? だってこんな能力があるもの、とても高価だろうから、お金なんて絶対……」
「――タダであげると言ったら、君はどうする?」
 え? と思わず問い返してしまった。今、なんて言ったんだ?
「だーかーらー、この仮面は君にタダであげるって言ってるんだヨ。同じことを二度も言わせないでくれ」
「タ、タダって……本当にそうなのか? あとで罰金鹿嶋くんみたいに時間が経ったら利子をつけて到底払えない金額を請――痛ててててて!!!!」

 仏の顔と同じく三度目でキレたカルアは、ボクの耳たぶをチーズのように引き伸ばしてきた。すぐに謝り、なんとか耳が裂けるチーズ状態にならずにすんだ。

「ただし、一つだけ約束してもらうヨ。ヒーローの力は必ず――自分以外のために使うこと。間違っても私欲で力を使うのはダメだヨ。守れるかい?」
 ……迷いなんてなかった。ボクは文字通り胸を張り、ポンと叩いたあと、
「守れるに決まってるじゃないか! ボクの力で日下部さんを……いや、違うな。この街にいるすべての人のために戦うよ! だから……」
 
 ――ピンッ
 
「えっ……」
 
 驚く暇もなく、まるで睡魔にでも襲われたようにあまりにも突然、意識が遠のいていった。
 カルアがなんの冗談か一発ボクの眉間に――をしただけなのに。それだけなのに、なすすべななく床に沈んでいく。その間際、
 
「――終点ピリオドまでの物語ミチスジは今……
 
「………ッ………え…………?」

 言葉セリフを理解しようとするよりも早く、ボクはドサッとカーペットに尻もちをついた。
 なにすんだよ! と怒ろうとしたが――すでにそこに、カルアの姿はなかった。
 今さら恐怖を感じたボクは、それから逃れるように布団を被って眠りについた。
 恐怖で眠れないかもと思ったが、ヒーローをやって体が疲労していたせいか朝までぐっすりだった。
 夜が更けていく。そして街は、朝の太陽を迎え入れる準備運動に入っていった――
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