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第1章:物語の始まり
新たなる誓い
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『漸く父さんが、結界を破って戻った時に見たのは、まさに地獄絵図さ。わずかに残った人々を救うために父さんはエデンに強固な結界を張った。そして完全に二つの世界を分離させようとした。人界から流れ込んできた化け物を一掃しようとした。でも失敗した。あまりにも入ってきた化け物が多すぎて対処しようがなかった』
『だから父さんもフィリアに習って人々に力を与えることにした。世界に干渉する法術と似た力、神術をね。その結果、亜人達は生きながらえた。神術は法術と同じぐらい強力だったから。それでも未だにエデンには、フィリアによって残された負の遺産であるドラゴンみたいな化け物がいっぱいいるんだ』
『今の父さんは、結界を張り続けるために、エデンの中央にある神殿から動くことができない。そんな父さんの苦肉の策が、結界維持に必要な最低限の力以外すべて受け渡し、父さんの代わりにフィリアを討つ存在を創ることだった。そうして僕が生まれた。自我を持った僕が最初にやったことは、フィリアのように地上で僕の代わりに動き回ってくれる、使徒を産み出すことだった』
『僕が今まで創った使徒は30人。そのほとんどは亜人達の中から選んで、高度な神術を扱える個体を創り上げた。そして今彼らにはこの亜人界に住む魔獣達の排除や結界を越えてこようとする輩への対応をしてもらっている』
『それでも彼らではフィリアに直接加護を受けて新たに生み出された使徒には敵わなかった。後から作られた人間という種は、彼らよりも洗練された存在だったから。より戦闘に特化した肉体、思考力、技術力。それらの面で圧倒的にこちらは劣っていた』
「…それならなんで新しい種族を創らなかったんだ?本当にお前が神様ならそれぐらいできるんじゃないのか?」
『確かにね。でも答えはNOなんだよ、残念ながらね。神様だって万能じゃないんだ。できることとできないことがある。特に生命体を自由に創るという権能は父さんからフィリアに移されてしまった。だから父さんから僕が授かった権能は空間を創造することとそれに干渉することだけ、あとは自分の力を少しばかり譲渡するだけさ。僕ができるのは、僕の使徒に力を与えることだけなんだ。彼女のように強力な個体を無から作り出すことはできない』
「でもさっき創ったって」
『そうだね。正確には創ったというより干渉したというのが正しいかな。強い個体が生まれるようにね。だから彼女のように自分が望んだタイミングで、望んだようなおもちゃを創り出すことはできないんだ』
『僕が生み出した使徒では、彼女の使徒には勝てない。だから僕は考えた。それなら、人間の中からスカウトすればいいんじゃないかってね。だから僕は、人界から優秀な能力を持ち、魔人を強く憎む、使徒ではない存在を選んで、こっちの世界にスカウトして僕の使徒にすることにした。それと単純に神術と法術が使える人間の方が強いんじゃないかと思ってね』
「なんで魔人を憎む人間を選んだんだ?それに使徒がすごい力を持ってるんだったら、なんでもっと作らないんだ?」
ラグナの話を聞いて、だんだん心が落ち着いてきたジンが疑問に思ったことを聞く。
『簡単な話だよ。魔人のせいで愛するものを失った人間は、心の支えを失って、怒りの対象を探すだろ?だから僕はそんな彼らにこの世界の真実を話すんだ。もちろん最初はみんな信じないよ。当然だよね。いままで信じてた神様が、実はすべての元凶で、恨んでいた神様こそが慈愛に満ちた神様だったなんて話はさ。でも大体の子はいま君の体が向かっている、エデンに行くことでその認識を変えるんだ。まあそれは君も見てみればわかるよ。フィリア教が説いているような魔界ではないから』
『それに使徒をなんで大量に作らないかっていう話だけどね。使徒を一から作るには莫大なエネルギーがいるんだ。だから大量には創ることができない。たとえ神様であっても僕らは万能じゃないからね。そのおかげでフィリアも簡単に使徒や魔人を創らないんだ』
「あれ?俺はいま魔界に向かっているのか?なんで?」
『おいおい、いまの話の流れを聞いてなかったのかい?なぜって、もちろん君を僕の使徒にするために決まってるじゃないか!』
「それがわからないんだ。俺は法術が使えない。体を強くすることしかできない。法術を使う奴にはどんなに頑張っても勝てるわけがない。なのにどうしてそんな俺を使徒にするんだ。メリットなんてないじゃないか!」
『まあ落ち着きなって。君を選んだのには理由があるんだ。フィリアはね、面白い劇を見逃したくなくて、潜在的に能力の強い者を創っては、その中からランダムに選別して使徒にするか、魔人にするか、魔物にするかして遊ぶんだ』
『でもある時彼女は自分のおもちゃが、法術以外の力で倒された場面を見た。そしてオルフェが、本当は僕だけど、自分の世界に介入しようとしていることを知った。さっき言ったけど、僕が与えた神術は法術とミックスし、新たな術を生み出した。僕はそれを魔術と呼んでいる。僕は彼女に届きうる刃を、術を造るために彼女の創った法術を利用した。何度も言うけど僕と父さんの力じゃ、彼女の創る個体以上の物を生み出せなかったし、そもそも彼女が生み出した法術が彼女に効くかわからなかったからね。それによって魔術は、確かに法術の系統を持っているけど、全く異なるものになった』
『でも幾許かその中に含まれているフィリアの力によって、僕の使徒は人界で魔術を使えば、すぐに彼女にその所在がバレることになった』
『彼女は、それはもう喜んだ。自分の知らない物語が観られるかもしれないってね。それで何人もの僕の使徒が、彼女の手の者に追い回されて殺された。そこで僕はまた考えた。フィリアに見つからないように行動できる使徒はどうすれば創れるだろうか。そして気づいた。そうだ、最初から神術を使える人間を人界に生み出せばいいってね。そうすれば純粋に神術だけを扱える、身体的スペックが人間と同じ「人」が創れるからね。幸いにもフィリアも【加護無し】と呼ばれる個体を作って遊んでいたからね。それを利用することにした』
「まさか…」
『そう。それが君さ。僕は何度も試行錯誤した。どうすれば、フィリアを出し抜いて君という存在を人界に生み出させるか。そこで僕は君の一族の始まりとなった、「人間」の容姿に限りなく近い者を僕の血肉から生み出して、そいつに僕自身の力の一部を与えて、密かに人界に送り出した。そして彼に人間との子供を産ませた。僕の力の一部を持ちながら、彼女に認識されない【加護無し】の子供が誕生するのを願って。それから数百年、ようやく君という【加護無し】が、フィリアの干渉を一切受けない子供が生まれたんだ。僕には人間界で自由に動き回れる駒がどうしても欲しかったからね』
「そのために俺は生まれたのか…」
『正直な所僕も君には申し訳ないと思っている。それでもこの世界をあの女から守るには君のような存在が必要だった。亜人達は人界ではあまりに目立ちすぎるし、魔術を使う者達はなにかすれば直ぐにあの女に居場所がバレる可能性があったから。その点君はたとえ術を使っても、その存在を相手は見つけることができない。たとえ関心を持たれたとしても君が、エデンに逃げ込んだだけで彼女は君を見失ってしまう。だから君はフィリアに隠れて行動することができる。不意をつける』
「それじゃあ、あんたのせいで姉ちゃんは魔人にされたんじゃないのか?」
『ああ、それは恐らく違う。君の存在はもともとフィリアに認識されていないはずだ。ただ時々使徒か魔人になる素養を持つ者の中に、さらにランダムで差別化された人間が生まれるんだ。それが光属性か闇属性を持つ法術使い。確か君のお姉さんは光属性の法術が扱えたよね?』
「うん」
『彼らは得てして、使徒や魔人になりやすい。彼女にとって人々を導く聖女が魔人になったり、闇を操り悪魔と蔑まれた子が使徒になるのは劇的で面白いことなんだ。憎しみが周囲に振りまかれて、悲劇が起こりやすいからね。だから君の姉は残念だけどフィリアに選ばれた』
「なら、姉ちゃんは最初から、そうなることが決まってたのかよ!そんなのあんまりじゃないか!」
ジンの目から涙がこぼれそうになる。そんな彼をしばらくラグナは優しく抱擁し、気分が落ち着くまで、待ち続けた。
「もう大丈夫」
『そうかい?なら今から、今後君にやってもらいたいことがあるんで、その話を聞いてもらえるかな?聞いた後で、それをやるかどうかは君が決めていい』
「ちょっと待って。姉ちゃんが魔人化したのをフィリアが見てたなら、もう俺もそいつにバレてるんじゃないか?あとそもそも俺が神術を使えるようになったところで魔術を使える人たちの方が強いんじゃないのか?それに俺が決めていいって…」
『フィリアにとって君は既に終わった物語の登場人物なんだ。飽きっぽい彼女のことだ。ちょっとしたら、君のことなんか綺麗さっぱり忘れるだろう。浮浪児の【加護無し】なんてそれこそ大量にいるからね。これが大貴族や王族なんかだと彼女にとっては面白いお話になるんだけどね。彼女は定期的にそんな欠陥品を創っては、迫害する人間の残虐さを楽しんでいる。君がこれから人界で目立とうとも彼女はそんな風に捉えられるだろう。だから君はもうフィリアの中には存在しないんだよ』
『それと君に与えるのは神術と僕の権能の一部だ。だからむしろ魔術よりも強大な力なんだよ。あとどうするか決めていいっていうのはそのままの意味さ。僕としてはやってもらいたいけど、正直言ってこれから頼むことは、生半な覚悟では成し得ないし、成功すれば僕たちは、君は、奴に挑むことができるかもしれないけど、最悪の場合、失敗すれば君は死ぬ可能性が高く、世界も今の形のまま、あるいはそれ以上にひどくなるかもしれない』
「…お前の話がどこまで本当か知らないけど、本当にその女神が全部の原因で、姉ちゃんを殺した奴なんだったら、俺が殺してやる」
『話も聞かずに決めてしまってもいいのかい?まあ話を聞いてやっぱりできないと思ったら、別に構わないから、できないって言ってくれ。こっちも代替案を考えなければいけないからさ。もちろんその場合でも君の生活の保障はさせてもらうよ。なんてったって、君は僕の子供に等しいからね』
「どうでもいいから早く教えてくれ」
『はいはい。それじゃあ君にしてほしいことだけどね、2つあるんだ。まず人界に行ってある神剣を探すこと、次に人界の使徒たちの排除。この神剣はフィリアとオルフェが彼らの造物主を封印するために作った、神を封印するための神剣。名前をマタルデオスという。彼らも僕らのような状況だったらしいんだけど。まあ、その話は置いといて、フィリアはエデンから結界で弾かれる前に、神殿に安置されていた神器を奪って逃げてしまった。だからそれを探して回収して欲しい。これがあれば彼女を封印することができる』
『おそらくフィリアのことだから、定期的に地上にいる人間に貸し与えては、戦争に使わせていると思う。それを見つけて欲しい。手がかりとしてはたぶん使徒が何か知っているかもしれないから、使徒を排除する上で、情報を集めてみて。使徒の排除は、まあ、僕の手の者達と手を組んでもよし、自分でするもよし。どうにかして減らしてくれると助かる。これを聞いてもまだ覚悟は変わらないかな?』
「封印?殺すんじゃないのか?」
『ああ。君には申し訳ないけど、彼女を殺してしまうと、人界にどのような影響があるかわからないんだ。もしかしたら人界そのものが消滅してしまうかもしれない』
「そんなこと、俺には関係ない」
『まあね。でも忘れないで欲しい。人界にはまだ君が大切に思う人間がいるということを。彼女を殺すということは、彼らを殺すということにつながるかもしれないんだ』
それを聞いてジンは、マティスたち、スラムで優しくしてくれた人々のことを思い出した。確かに彼らもジンにとってかけがえのない人たちに変わりない。
『それに、もしそれでも殺すっていうなら、残念だけど僕は君の力を解放することはできない。これでも僕は神なんでね。無辜の民を傷つけたくはないんだよ』
「…わかった。我慢する。でも絶対に封印してやる」
『いいだろう。それじゃあ君は今から目がさめる。君のそばには僕の使徒二人がいる。彼らとともにまず君は体を鍛えて欲しい。今のままだとたとえ僕の力の一部を解放したとしても、人間の、しかも小さな子供の君の体では、行使することも難しいだろう』
『だからまず君は肉体的、精神的に強くなるんだ。君の体にはすでにかけられていた封印を少しだけ解除してあげるけど、いざという時以外は使ってはいけないよ。それと知識を身につけなさい。最低でも人界の言語をしっかりと読んで書けるように。知識さえあれば君の行動の幅が広がるからね。君はまだ物の読み書きもできないんだろう?』
「うん。わかった。それが必要ならなんでもやる。やってやる!」
『いい返事だ。それじゃあ期待しているよ、ジン。さあ、目覚める時間だ』
ラグナがそう言うと、白い空間は徐々に崩壊していく。そしてその中でラグナがニンマリと笑いながら手を振っているのが見えた。
『だから父さんもフィリアに習って人々に力を与えることにした。世界に干渉する法術と似た力、神術をね。その結果、亜人達は生きながらえた。神術は法術と同じぐらい強力だったから。それでも未だにエデンには、フィリアによって残された負の遺産であるドラゴンみたいな化け物がいっぱいいるんだ』
『今の父さんは、結界を張り続けるために、エデンの中央にある神殿から動くことができない。そんな父さんの苦肉の策が、結界維持に必要な最低限の力以外すべて受け渡し、父さんの代わりにフィリアを討つ存在を創ることだった。そうして僕が生まれた。自我を持った僕が最初にやったことは、フィリアのように地上で僕の代わりに動き回ってくれる、使徒を産み出すことだった』
『僕が今まで創った使徒は30人。そのほとんどは亜人達の中から選んで、高度な神術を扱える個体を創り上げた。そして今彼らにはこの亜人界に住む魔獣達の排除や結界を越えてこようとする輩への対応をしてもらっている』
『それでも彼らではフィリアに直接加護を受けて新たに生み出された使徒には敵わなかった。後から作られた人間という種は、彼らよりも洗練された存在だったから。より戦闘に特化した肉体、思考力、技術力。それらの面で圧倒的にこちらは劣っていた』
「…それならなんで新しい種族を創らなかったんだ?本当にお前が神様ならそれぐらいできるんじゃないのか?」
『確かにね。でも答えはNOなんだよ、残念ながらね。神様だって万能じゃないんだ。できることとできないことがある。特に生命体を自由に創るという権能は父さんからフィリアに移されてしまった。だから父さんから僕が授かった権能は空間を創造することとそれに干渉することだけ、あとは自分の力を少しばかり譲渡するだけさ。僕ができるのは、僕の使徒に力を与えることだけなんだ。彼女のように強力な個体を無から作り出すことはできない』
「でもさっき創ったって」
『そうだね。正確には創ったというより干渉したというのが正しいかな。強い個体が生まれるようにね。だから彼女のように自分が望んだタイミングで、望んだようなおもちゃを創り出すことはできないんだ』
『僕が生み出した使徒では、彼女の使徒には勝てない。だから僕は考えた。それなら、人間の中からスカウトすればいいんじゃないかってね。だから僕は、人界から優秀な能力を持ち、魔人を強く憎む、使徒ではない存在を選んで、こっちの世界にスカウトして僕の使徒にすることにした。それと単純に神術と法術が使える人間の方が強いんじゃないかと思ってね』
「なんで魔人を憎む人間を選んだんだ?それに使徒がすごい力を持ってるんだったら、なんでもっと作らないんだ?」
ラグナの話を聞いて、だんだん心が落ち着いてきたジンが疑問に思ったことを聞く。
『簡単な話だよ。魔人のせいで愛するものを失った人間は、心の支えを失って、怒りの対象を探すだろ?だから僕はそんな彼らにこの世界の真実を話すんだ。もちろん最初はみんな信じないよ。当然だよね。いままで信じてた神様が、実はすべての元凶で、恨んでいた神様こそが慈愛に満ちた神様だったなんて話はさ。でも大体の子はいま君の体が向かっている、エデンに行くことでその認識を変えるんだ。まあそれは君も見てみればわかるよ。フィリア教が説いているような魔界ではないから』
『それに使徒をなんで大量に作らないかっていう話だけどね。使徒を一から作るには莫大なエネルギーがいるんだ。だから大量には創ることができない。たとえ神様であっても僕らは万能じゃないからね。そのおかげでフィリアも簡単に使徒や魔人を創らないんだ』
「あれ?俺はいま魔界に向かっているのか?なんで?」
『おいおい、いまの話の流れを聞いてなかったのかい?なぜって、もちろん君を僕の使徒にするために決まってるじゃないか!』
「それがわからないんだ。俺は法術が使えない。体を強くすることしかできない。法術を使う奴にはどんなに頑張っても勝てるわけがない。なのにどうしてそんな俺を使徒にするんだ。メリットなんてないじゃないか!」
『まあ落ち着きなって。君を選んだのには理由があるんだ。フィリアはね、面白い劇を見逃したくなくて、潜在的に能力の強い者を創っては、その中からランダムに選別して使徒にするか、魔人にするか、魔物にするかして遊ぶんだ』
『でもある時彼女は自分のおもちゃが、法術以外の力で倒された場面を見た。そしてオルフェが、本当は僕だけど、自分の世界に介入しようとしていることを知った。さっき言ったけど、僕が与えた神術は法術とミックスし、新たな術を生み出した。僕はそれを魔術と呼んでいる。僕は彼女に届きうる刃を、術を造るために彼女の創った法術を利用した。何度も言うけど僕と父さんの力じゃ、彼女の創る個体以上の物を生み出せなかったし、そもそも彼女が生み出した法術が彼女に効くかわからなかったからね。それによって魔術は、確かに法術の系統を持っているけど、全く異なるものになった』
『でも幾許かその中に含まれているフィリアの力によって、僕の使徒は人界で魔術を使えば、すぐに彼女にその所在がバレることになった』
『彼女は、それはもう喜んだ。自分の知らない物語が観られるかもしれないってね。それで何人もの僕の使徒が、彼女の手の者に追い回されて殺された。そこで僕はまた考えた。フィリアに見つからないように行動できる使徒はどうすれば創れるだろうか。そして気づいた。そうだ、最初から神術を使える人間を人界に生み出せばいいってね。そうすれば純粋に神術だけを扱える、身体的スペックが人間と同じ「人」が創れるからね。幸いにもフィリアも【加護無し】と呼ばれる個体を作って遊んでいたからね。それを利用することにした』
「まさか…」
『そう。それが君さ。僕は何度も試行錯誤した。どうすれば、フィリアを出し抜いて君という存在を人界に生み出させるか。そこで僕は君の一族の始まりとなった、「人間」の容姿に限りなく近い者を僕の血肉から生み出して、そいつに僕自身の力の一部を与えて、密かに人界に送り出した。そして彼に人間との子供を産ませた。僕の力の一部を持ちながら、彼女に認識されない【加護無し】の子供が誕生するのを願って。それから数百年、ようやく君という【加護無し】が、フィリアの干渉を一切受けない子供が生まれたんだ。僕には人間界で自由に動き回れる駒がどうしても欲しかったからね』
「そのために俺は生まれたのか…」
『正直な所僕も君には申し訳ないと思っている。それでもこの世界をあの女から守るには君のような存在が必要だった。亜人達は人界ではあまりに目立ちすぎるし、魔術を使う者達はなにかすれば直ぐにあの女に居場所がバレる可能性があったから。その点君はたとえ術を使っても、その存在を相手は見つけることができない。たとえ関心を持たれたとしても君が、エデンに逃げ込んだだけで彼女は君を見失ってしまう。だから君はフィリアに隠れて行動することができる。不意をつける』
「それじゃあ、あんたのせいで姉ちゃんは魔人にされたんじゃないのか?」
『ああ、それは恐らく違う。君の存在はもともとフィリアに認識されていないはずだ。ただ時々使徒か魔人になる素養を持つ者の中に、さらにランダムで差別化された人間が生まれるんだ。それが光属性か闇属性を持つ法術使い。確か君のお姉さんは光属性の法術が扱えたよね?』
「うん」
『彼らは得てして、使徒や魔人になりやすい。彼女にとって人々を導く聖女が魔人になったり、闇を操り悪魔と蔑まれた子が使徒になるのは劇的で面白いことなんだ。憎しみが周囲に振りまかれて、悲劇が起こりやすいからね。だから君の姉は残念だけどフィリアに選ばれた』
「なら、姉ちゃんは最初から、そうなることが決まってたのかよ!そんなのあんまりじゃないか!」
ジンの目から涙がこぼれそうになる。そんな彼をしばらくラグナは優しく抱擁し、気分が落ち着くまで、待ち続けた。
「もう大丈夫」
『そうかい?なら今から、今後君にやってもらいたいことがあるんで、その話を聞いてもらえるかな?聞いた後で、それをやるかどうかは君が決めていい』
「ちょっと待って。姉ちゃんが魔人化したのをフィリアが見てたなら、もう俺もそいつにバレてるんじゃないか?あとそもそも俺が神術を使えるようになったところで魔術を使える人たちの方が強いんじゃないのか?それに俺が決めていいって…」
『フィリアにとって君は既に終わった物語の登場人物なんだ。飽きっぽい彼女のことだ。ちょっとしたら、君のことなんか綺麗さっぱり忘れるだろう。浮浪児の【加護無し】なんてそれこそ大量にいるからね。これが大貴族や王族なんかだと彼女にとっては面白いお話になるんだけどね。彼女は定期的にそんな欠陥品を創っては、迫害する人間の残虐さを楽しんでいる。君がこれから人界で目立とうとも彼女はそんな風に捉えられるだろう。だから君はもうフィリアの中には存在しないんだよ』
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『おそらくフィリアのことだから、定期的に地上にいる人間に貸し与えては、戦争に使わせていると思う。それを見つけて欲しい。手がかりとしてはたぶん使徒が何か知っているかもしれないから、使徒を排除する上で、情報を集めてみて。使徒の排除は、まあ、僕の手の者達と手を組んでもよし、自分でするもよし。どうにかして減らしてくれると助かる。これを聞いてもまだ覚悟は変わらないかな?』
「封印?殺すんじゃないのか?」
『ああ。君には申し訳ないけど、彼女を殺してしまうと、人界にどのような影響があるかわからないんだ。もしかしたら人界そのものが消滅してしまうかもしれない』
「そんなこと、俺には関係ない」
『まあね。でも忘れないで欲しい。人界にはまだ君が大切に思う人間がいるということを。彼女を殺すということは、彼らを殺すということにつながるかもしれないんだ』
それを聞いてジンは、マティスたち、スラムで優しくしてくれた人々のことを思い出した。確かに彼らもジンにとってかけがえのない人たちに変わりない。
『それに、もしそれでも殺すっていうなら、残念だけど僕は君の力を解放することはできない。これでも僕は神なんでね。無辜の民を傷つけたくはないんだよ』
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『だからまず君は肉体的、精神的に強くなるんだ。君の体にはすでにかけられていた封印を少しだけ解除してあげるけど、いざという時以外は使ってはいけないよ。それと知識を身につけなさい。最低でも人界の言語をしっかりと読んで書けるように。知識さえあれば君の行動の幅が広がるからね。君はまだ物の読み書きもできないんだろう?』
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なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
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