22 / 273
第2章:魔物との遭遇
女王ティファニア
しおりを挟む
「すごい…」
ジンの口から感嘆の言葉が零れ落ちる。
「そうだろそうだろ。これ全部妖精女王様が管理してるんだぜ!」
「妖精女王?」
「そう。妖精女王。この楽園、ティターニアっていうんだけど、ここを維持するための結界石は特定の血を持つ一族にしか使えないようになってるそうで、今の妖精女王はかれこれ数百年、これを維持してるんだって。」
「数百年!?それもピクシーなの?」
「いんや、エルフ」
「エルフ?こんなところにエルフがいるの?」
「おう、しかも混じりっけなしのハイエルフだぜ。ティファニア様っていって、めちゃくちゃ美人!もしおいらがエルフならソッコーでナンパしてるね」
興奮しながらピッピがそう言った。
「あ!あとこれからティファニア様に会わなきゃいけないから、今からジンも王城に行くぞ!」
「へ?俺も行くの?なんで?」
「おいおい、折角ここに入れてもらっておいて挨拶なしとはいい度胸じゃねーか。ちゃんと礼儀は見せようぜ」
確かにピッピの言う通りであった。ジンは空腹ではあったがもう少しだけ我慢することにした。さっさと謁見して何か食べたかった。
そうこう話しているうちに一際でかい木の目の前に来た。その木の幹はとても太く少なくともバジットの半分ぐらいはあった。さらに高さは数十メートルはあり、頭頂部は天井に届いているところから、まるで地下空間を支える柱のようでもあった。
ジンが視線を上げて眺めていると、
「この国の住人のほとんどがこの木の中で暮らしてんだ。あとで俺の家も見せてやるよ。ほらボサボサしてると置いてくぞ!」
と言ってどんどん進んで行ってしまったので慌ててついて行った。
木の中の光景はジンにさらなる驚きを与えた。そこには様々な種類の亜人がいたからだ。しかも獣人ではなく、人界からの侵略で数を減らしたというドワーフやエルフなど、亜人の中でも少数の種族がいた。木の中では商店や工房が並び、そこかしこからいい匂いや、槌を打ち付ける音、酒場からは騒ぎ声が聞こえる。
ピッピによるとここは商業フロアだという。ジンと同い年ぐらいの子たちが集まっている店先からは見たこともないお菓子が並べられ、別の場所では複数人が集まってコマ回しなどに興じている。
大人たちは商売をしたり、酒を飲んだり、喧嘩をしたりと賑やかだ。たいていの場合エルフとドワーフが殴り合いをしている。ピッピにそのことを聞くと、エルフとドワーフは顔をあわせると四六時中喧嘩をしているらしい。それなのに次の日にはその二人が酒を飲み交わしていたりするそうだ。仲が良いのか悪いのかわからない。
その目抜き通りを抜けて一気に最上階である10階まで上がる。各階には移送場といって上の階と下の階を吹き抜けにした場所があり、そこには木製のかごが置かれていた。これに乗ると無属性の神術が発動し、上下に運んでくれるそうだ。どんな効果の術なのかと聞くと、よくわからないと返ってきた。ピッピは羽があるので使ったことがないそうだ。
「ただなんかじゅーりょくとかいう力を使っているらしいぜ?」
「なんだじゅーりょくって?」
「さあしらね」
そうして最上階まで一気に登る。移送場から出るとまっすぐの巨大な一本道が先にある部屋まで伸びていた。長さはおよそ100メートル幅50メートルはあるそこにはまるで数千人の軍隊でも入るのではないかというスペースであった。聞くと緊急時には避難所の役割を担うのだという。
その通路を抜けて巨大な扉の前に立つ。門の前には鎧を身につけて帯剣した二人の門番がいた。片方はずんぐりむっくりとした茶色いゴワゴワの上に髭だるまのおそらく120センチ半ばのジンより少しだけ背丈が大きいドワーフで、もう一方は金色の上に尖った耳、身長はウィルと同じぐらいの、でも彼よりはだいぶ細身の男のエルフだった。
「おっす、メネディルにレギン!さっきぶり」
「ピッピか、ではそちらがお客人か。私はメネディル。妖精女王ティファニア様の守護騎士だ。それでこちらが…」
「俺はレギンだ。同じくティファニア様の守護騎士団に所属している。坊主お前の名前は?」
「ジンです」
「ジン。ジンか、よろしくなジン!」
レギンがごつい右手を差し出してきたので握手を交わす。そのあまりの力強さに手が少し赤くなった。
「にしてもその歳で武器持ったゴブリン3匹を簡単にぶっ殺したらしいじゃねえか。たいしたもんだ」
屈託のない笑顔でそう言ってくるレギンは矢継ぎ早に質問してくる。
「どこでそんなに鍛えたんだ。」「なんでエデンに来たんだ?」「森にいたのはなんでだ?」などなど話し出すと止まらなかった。次第にその話は自分が森の中でどんな魔獣に勝ったかといった脇道の話題に逸れ始めた。そしてようやくメネディルが一つ咳をして、
「レギン。そろそろそのお客人をティファニア様のご紹介したいのだが?」
片方の眉を吊り上げながらそう言った。レギンと比べたせいかどことなく冷たい感じのする声だった。
「おお!悪かった。そんじゃ早速会っていきな。その後また俺の武勇伝をたっぷり聴かせてやるよ」
「おいレギン、ジン殿を困らせるな」
「へいへいわかったよ」
それからようやく二人が扉を開けてくれた。
扉の中の部屋には、一面に高価そうな真っ赤な絨毯が敷き詰められていた。もちろんジンにはそんなことを判断する目は持ち合わせていないが。そして部屋の奥に三人の亜人がいた。
中央には豪奢な純白のドレスを着て、精密に作られ、中央に青い宝玉がはめられたたティアラを被った金色の髪の真っ白な肌の少女が、その脇には先程と同様に武装したドワーフとエルフが立っていた。しかしジンの瞳は中央にいるエルフの少女に釘付けだった。
その姿はまさに神が作った芸術だった。ジンと同い年くらいに見える少女はしかしてピッピの言によれば数百歳だという。しかし目の前の少女には老いというものが一切感じられず、口元に浮かべているその微笑はジンには見た目相応の幼さを感じさせた。呆然と彼女を眺めていたジンの袖をピッピが引っ張る。
「おい、ジン跪け!頭を下げろ!頼む下げてくれ、お願いします。ほら早く!サリオン様が睨んでるから。めっちゃ強い目線向けてきてるから、お願いしますよぉ!あの人切れるとめっちゃ怖いんだから…あ!いえなんでもないですよ、サリオン様。すいませんなにぶんこいつはまだ8歳のガキなもんで礼儀とか知らんのですよ」
ピッピと彼の間に何かあったようだった。そんな彼らの様子を見て鈴のような音色が鳴り響く。それはティファニアの笑い声だった。
「ふふ、サリオンもそれくらいにしましょう?あんまりピッピをいじめないであげてください。それにお客様の前ですよ?」
「失礼いたしました、我が君」
深々と頭をさげるサリオンに反対にいたドワーフが
「全くお前はお堅いんだよ。もうちょっち心にゆとりを持てねーのか?そんな堅物じゃ疲れんだろう」
「あいにくお前のように常にだらしない行いはエルフの美徳に反するのでな。お前こそティファニア様の御前なのだ。もう少し態度というもの考えろ」
「なんだと!?」
「なんだ?」
こちらにいるドワーフとエルフもなかなかに仲が悪そうだ。
「まあまあ二人とも。お客さんの前ですよ?じゃれるのはやめましょうね?」
笑いながらもティファニアから凄まじい気迫が感じられた。それは長年生きたものが発することができるような威厳に満ち溢れたものであり、ジンはようやく目の前の少女が遥かな時を生きてきた存在であるように感じられた。
「ごめんなさいね。ようこそ小さな人間の使徒さん。私の名前はティファニア。この国を収める妖精の女王です。それでこちらの背の高い、怖い眼のお兄さんがサリオンで、こっちの可愛らしい眼をした子がトルフィンです」
ジンを含め全員が驚く。
「え?あれ?なんで俺のこと使徒だって知ってるんだ?」
怪訝そうな顔を浮かべるジンに、
「ふふ、実は私、あなたの記憶を読み通すことができるのよ」
ティファニアは妖艶に笑う。
「ほ、ほんとうに?」
それを聞いてジンは驚いた。この人は自分のことを全てを知ってしまっているのか。自分の知られたくないことはすでに全部お見通しなのか。そう考えると目の前にいる少女がひどく怖い存在に感じられた。
「冗談ですよ?そんなに警戒しないで。あなたのことはラグナ様から聞いていたのよ。そのうちジンという小さな黒髪の人間の男の子が来るかもしれないから、その時は手助けしてあげてってね」
「そうですか、びっくりしました」
ホッとしたようにジンの口から息が吐き出される。そしてその瞬間にジンの胃袋が盛大に鐘を鳴らした。
「あらあら、お腹が空いてるのね?それじゃあ用意させましょう。ちょうどいい時間ですからね。サリオン、お願い」
「はっ、かしこまりました。我が君」
サリオンは外のドアにいるであろう門番にそのことを伝えに行った。そしてそのままどこかに行ったらしくしばらく戻ってこなかった。その間にジンはティファニアと様々なことを話すことになった。
「ジンはなんでこの森に来たの?」
「えっと、ウィル…師匠がおれ、僕の修行の一環でここに突き落としたんです」
「まあウィルが!?あの子もなかなかわんぱくなところがあるからね」
「ティファニア様はウィルのこと知ってるんですか?」
「ティファニアは呼びにくいでしょ?だからティファでいいわよ?そうね彼とマリアとはかれこれ10年来の友人ね。あの子たちがここの世界に来てから知り合いましたからね」
40歳前後のウィルとマリアを子供扱いしているあたり、目の前の少女の年齢を感じさせた。
「そう、あの子達帰って来たのね」
小さな声でティファニアが呟いていた。
「それじゃあティファ様。どうやって二人と知り合ったんですか?」
「えっ?ああ、ふふ、ティファ様か、新鮮ね。他の子たちはそう呼んでくれないのだもの。それで二人と知り合った時の話だけど、ごめんなさい。それは私が勝手に話していいようなお話じゃないの。ただ私があの子達に会った時は…そうね、あなたと似たような境遇だったわ」
ジンは押し黙る。なんとなく気づいてはいた。時折マリアが向けてくる視線に悲しみが含まれていたこと、ジンと過ごしている時のウィルが遠い眼をしていることが多々見られたこと、そしてつい先日聞いた子供の話。ジンだって馬鹿ではない。ナギたちを失い苦しんでいるジンを支えてくれる二人が一体何をフィリアに奪われたのか想像がついた。
「そうですか…」
「その様子だとまだ詳しいことは知らないのね。きっとあの子たちもまだ全部受け入れられていないんだわ」
「……」
「でも、きっといつかあなたに話してくれるから、その時はしっかりと聞いてあげてね?」
「…はい」
ジンの口から感嘆の言葉が零れ落ちる。
「そうだろそうだろ。これ全部妖精女王様が管理してるんだぜ!」
「妖精女王?」
「そう。妖精女王。この楽園、ティターニアっていうんだけど、ここを維持するための結界石は特定の血を持つ一族にしか使えないようになってるそうで、今の妖精女王はかれこれ数百年、これを維持してるんだって。」
「数百年!?それもピクシーなの?」
「いんや、エルフ」
「エルフ?こんなところにエルフがいるの?」
「おう、しかも混じりっけなしのハイエルフだぜ。ティファニア様っていって、めちゃくちゃ美人!もしおいらがエルフならソッコーでナンパしてるね」
興奮しながらピッピがそう言った。
「あ!あとこれからティファニア様に会わなきゃいけないから、今からジンも王城に行くぞ!」
「へ?俺も行くの?なんで?」
「おいおい、折角ここに入れてもらっておいて挨拶なしとはいい度胸じゃねーか。ちゃんと礼儀は見せようぜ」
確かにピッピの言う通りであった。ジンは空腹ではあったがもう少しだけ我慢することにした。さっさと謁見して何か食べたかった。
そうこう話しているうちに一際でかい木の目の前に来た。その木の幹はとても太く少なくともバジットの半分ぐらいはあった。さらに高さは数十メートルはあり、頭頂部は天井に届いているところから、まるで地下空間を支える柱のようでもあった。
ジンが視線を上げて眺めていると、
「この国の住人のほとんどがこの木の中で暮らしてんだ。あとで俺の家も見せてやるよ。ほらボサボサしてると置いてくぞ!」
と言ってどんどん進んで行ってしまったので慌ててついて行った。
木の中の光景はジンにさらなる驚きを与えた。そこには様々な種類の亜人がいたからだ。しかも獣人ではなく、人界からの侵略で数を減らしたというドワーフやエルフなど、亜人の中でも少数の種族がいた。木の中では商店や工房が並び、そこかしこからいい匂いや、槌を打ち付ける音、酒場からは騒ぎ声が聞こえる。
ピッピによるとここは商業フロアだという。ジンと同い年ぐらいの子たちが集まっている店先からは見たこともないお菓子が並べられ、別の場所では複数人が集まってコマ回しなどに興じている。
大人たちは商売をしたり、酒を飲んだり、喧嘩をしたりと賑やかだ。たいていの場合エルフとドワーフが殴り合いをしている。ピッピにそのことを聞くと、エルフとドワーフは顔をあわせると四六時中喧嘩をしているらしい。それなのに次の日にはその二人が酒を飲み交わしていたりするそうだ。仲が良いのか悪いのかわからない。
その目抜き通りを抜けて一気に最上階である10階まで上がる。各階には移送場といって上の階と下の階を吹き抜けにした場所があり、そこには木製のかごが置かれていた。これに乗ると無属性の神術が発動し、上下に運んでくれるそうだ。どんな効果の術なのかと聞くと、よくわからないと返ってきた。ピッピは羽があるので使ったことがないそうだ。
「ただなんかじゅーりょくとかいう力を使っているらしいぜ?」
「なんだじゅーりょくって?」
「さあしらね」
そうして最上階まで一気に登る。移送場から出るとまっすぐの巨大な一本道が先にある部屋まで伸びていた。長さはおよそ100メートル幅50メートルはあるそこにはまるで数千人の軍隊でも入るのではないかというスペースであった。聞くと緊急時には避難所の役割を担うのだという。
その通路を抜けて巨大な扉の前に立つ。門の前には鎧を身につけて帯剣した二人の門番がいた。片方はずんぐりむっくりとした茶色いゴワゴワの上に髭だるまのおそらく120センチ半ばのジンより少しだけ背丈が大きいドワーフで、もう一方は金色の上に尖った耳、身長はウィルと同じぐらいの、でも彼よりはだいぶ細身の男のエルフだった。
「おっす、メネディルにレギン!さっきぶり」
「ピッピか、ではそちらがお客人か。私はメネディル。妖精女王ティファニア様の守護騎士だ。それでこちらが…」
「俺はレギンだ。同じくティファニア様の守護騎士団に所属している。坊主お前の名前は?」
「ジンです」
「ジン。ジンか、よろしくなジン!」
レギンがごつい右手を差し出してきたので握手を交わす。そのあまりの力強さに手が少し赤くなった。
「にしてもその歳で武器持ったゴブリン3匹を簡単にぶっ殺したらしいじゃねえか。たいしたもんだ」
屈託のない笑顔でそう言ってくるレギンは矢継ぎ早に質問してくる。
「どこでそんなに鍛えたんだ。」「なんでエデンに来たんだ?」「森にいたのはなんでだ?」などなど話し出すと止まらなかった。次第にその話は自分が森の中でどんな魔獣に勝ったかといった脇道の話題に逸れ始めた。そしてようやくメネディルが一つ咳をして、
「レギン。そろそろそのお客人をティファニア様のご紹介したいのだが?」
片方の眉を吊り上げながらそう言った。レギンと比べたせいかどことなく冷たい感じのする声だった。
「おお!悪かった。そんじゃ早速会っていきな。その後また俺の武勇伝をたっぷり聴かせてやるよ」
「おいレギン、ジン殿を困らせるな」
「へいへいわかったよ」
それからようやく二人が扉を開けてくれた。
扉の中の部屋には、一面に高価そうな真っ赤な絨毯が敷き詰められていた。もちろんジンにはそんなことを判断する目は持ち合わせていないが。そして部屋の奥に三人の亜人がいた。
中央には豪奢な純白のドレスを着て、精密に作られ、中央に青い宝玉がはめられたたティアラを被った金色の髪の真っ白な肌の少女が、その脇には先程と同様に武装したドワーフとエルフが立っていた。しかしジンの瞳は中央にいるエルフの少女に釘付けだった。
その姿はまさに神が作った芸術だった。ジンと同い年くらいに見える少女はしかしてピッピの言によれば数百歳だという。しかし目の前の少女には老いというものが一切感じられず、口元に浮かべているその微笑はジンには見た目相応の幼さを感じさせた。呆然と彼女を眺めていたジンの袖をピッピが引っ張る。
「おい、ジン跪け!頭を下げろ!頼む下げてくれ、お願いします。ほら早く!サリオン様が睨んでるから。めっちゃ強い目線向けてきてるから、お願いしますよぉ!あの人切れるとめっちゃ怖いんだから…あ!いえなんでもないですよ、サリオン様。すいませんなにぶんこいつはまだ8歳のガキなもんで礼儀とか知らんのですよ」
ピッピと彼の間に何かあったようだった。そんな彼らの様子を見て鈴のような音色が鳴り響く。それはティファニアの笑い声だった。
「ふふ、サリオンもそれくらいにしましょう?あんまりピッピをいじめないであげてください。それにお客様の前ですよ?」
「失礼いたしました、我が君」
深々と頭をさげるサリオンに反対にいたドワーフが
「全くお前はお堅いんだよ。もうちょっち心にゆとりを持てねーのか?そんな堅物じゃ疲れんだろう」
「あいにくお前のように常にだらしない行いはエルフの美徳に反するのでな。お前こそティファニア様の御前なのだ。もう少し態度というもの考えろ」
「なんだと!?」
「なんだ?」
こちらにいるドワーフとエルフもなかなかに仲が悪そうだ。
「まあまあ二人とも。お客さんの前ですよ?じゃれるのはやめましょうね?」
笑いながらもティファニアから凄まじい気迫が感じられた。それは長年生きたものが発することができるような威厳に満ち溢れたものであり、ジンはようやく目の前の少女が遥かな時を生きてきた存在であるように感じられた。
「ごめんなさいね。ようこそ小さな人間の使徒さん。私の名前はティファニア。この国を収める妖精の女王です。それでこちらの背の高い、怖い眼のお兄さんがサリオンで、こっちの可愛らしい眼をした子がトルフィンです」
ジンを含め全員が驚く。
「え?あれ?なんで俺のこと使徒だって知ってるんだ?」
怪訝そうな顔を浮かべるジンに、
「ふふ、実は私、あなたの記憶を読み通すことができるのよ」
ティファニアは妖艶に笑う。
「ほ、ほんとうに?」
それを聞いてジンは驚いた。この人は自分のことを全てを知ってしまっているのか。自分の知られたくないことはすでに全部お見通しなのか。そう考えると目の前にいる少女がひどく怖い存在に感じられた。
「冗談ですよ?そんなに警戒しないで。あなたのことはラグナ様から聞いていたのよ。そのうちジンという小さな黒髪の人間の男の子が来るかもしれないから、その時は手助けしてあげてってね」
「そうですか、びっくりしました」
ホッとしたようにジンの口から息が吐き出される。そしてその瞬間にジンの胃袋が盛大に鐘を鳴らした。
「あらあら、お腹が空いてるのね?それじゃあ用意させましょう。ちょうどいい時間ですからね。サリオン、お願い」
「はっ、かしこまりました。我が君」
サリオンは外のドアにいるであろう門番にそのことを伝えに行った。そしてそのままどこかに行ったらしくしばらく戻ってこなかった。その間にジンはティファニアと様々なことを話すことになった。
「ジンはなんでこの森に来たの?」
「えっと、ウィル…師匠がおれ、僕の修行の一環でここに突き落としたんです」
「まあウィルが!?あの子もなかなかわんぱくなところがあるからね」
「ティファニア様はウィルのこと知ってるんですか?」
「ティファニアは呼びにくいでしょ?だからティファでいいわよ?そうね彼とマリアとはかれこれ10年来の友人ね。あの子たちがここの世界に来てから知り合いましたからね」
40歳前後のウィルとマリアを子供扱いしているあたり、目の前の少女の年齢を感じさせた。
「そう、あの子達帰って来たのね」
小さな声でティファニアが呟いていた。
「それじゃあティファ様。どうやって二人と知り合ったんですか?」
「えっ?ああ、ふふ、ティファ様か、新鮮ね。他の子たちはそう呼んでくれないのだもの。それで二人と知り合った時の話だけど、ごめんなさい。それは私が勝手に話していいようなお話じゃないの。ただ私があの子達に会った時は…そうね、あなたと似たような境遇だったわ」
ジンは押し黙る。なんとなく気づいてはいた。時折マリアが向けてくる視線に悲しみが含まれていたこと、ジンと過ごしている時のウィルが遠い眼をしていることが多々見られたこと、そしてつい先日聞いた子供の話。ジンだって馬鹿ではない。ナギたちを失い苦しんでいるジンを支えてくれる二人が一体何をフィリアに奪われたのか想像がついた。
「そうですか…」
「その様子だとまだ詳しいことは知らないのね。きっとあの子たちもまだ全部受け入れられていないんだわ」
「……」
「でも、きっといつかあなたに話してくれるから、その時はしっかりと聞いてあげてね?」
「…はい」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』
見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装…
俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。
突然の事で戸惑うクラスメート達…
だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。
「またか…」
王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。
そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。
そして俺はというと…?
『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』
「それよりも不知火君は何を得たんだ?」
イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。
俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。
その場にいた者達は、俺の加護を見ると…
「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。
『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』
王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。
まぁ、その方が気楽で良い。
そして正義は、リーダーとして皆に言った。
「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」
正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。
「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」
「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」
「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」
「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」
「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」
「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」
「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」
俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。
「その…鎧と剣は?」
「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」
「今迄って…今回が2回目では無いのか?」
「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」
俺はうんざりしながら答えた。
そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。
いずれの世界も救って来た。
そして今度の世界は…?
6月22日
HOTランキングで6位になりました!
6月23日
HOTランキングで4位になりました!
昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°.
6月24日
HOTランキングで2位になりました!
皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m
今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました
四折 柊
恋愛
子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
ゴミ捨て場領主のクラフト無双 ~最弱魔法【分解と合成】で領地を黄金郷に変えたら、俺を見下していた大貴族令嬢たちが掌を返してすり寄ってきた件~
namisan
ファンタジー
東西南北の大貴族から「毒の川」「凶暴な魔獣」「莫大な借金」を押し付けられ、王国の『ゴミ捨て場』と化したローゼンベルク領。
父と兄を謀殺され、その絶望の領地を押し付けられた無能貴族のアークは、領地の分割を企む高慢な令嬢たち(王女、公爵令嬢、姫将軍など)に嘲笑われていた。
だが、彼には現代の知識と、隠された最強チート能力があった!
触れたものを瞬時に素材に戻し、全く別のモノに作り変える神の御業――【分解と合成】。
「毒の川」を分解して『超高価な宝石と純水』へ!
「魔獣の死骸」と「瓦礫」を合成して『絶対に壊れない防壁』へ!
借金取りには新素材を高値で売りつけ、逆に敵の経済を支配していく。
圧倒的なクラフト能力で、瞬く間にゴミ捨て場を「無敵の黄金郷」へと作り変えていくアーク。
己の敗北を悟り、震え上がる悪徳貴族と高慢な令嬢たち。
さらに、アークの圧倒的な知略と底知れぬ実力は、気高い令嬢たちの本能に深く刻み込まれていく。
「どうか、私をあなたの手駒としてお使いください……っ!」
プライドを完全にへし折られた最高位の美少女たちは、いつしかアークの与える『恩恵』なしでは生きられないほど、彼に絶対の忠誠と依存を誓うようになっていく――。
最弱のゴミ捨て場から始まる、爽快クラフト内政&ざまぁファンタジー、堂々開幕!
黄金の魔導書使い -でも、騒動は来ないで欲しいー
志位斗 茂家波
ファンタジー
‥‥‥魔導書(グリモワール)。それは、不思議な儀式によって、人はその書物を手に入れ、そして体の中に取り込むのである。
そんな魔導書の中に、とんでもない力を持つものが、ある時出現し、そしてある少年の手に渡った。
‥‥うん、出来ればさ、まだまともなのが欲しかった。けれども強すぎる力故に、狙ってくる奴とかが出てきて本当に大変なんだけど!?責任者出てこぉぉぉぃ!!
これは、その魔導書を手に入れたが故に、のんびりしたいのに何かしらの騒動に巻き込まれる、ある意味哀れな最強の少年の物語である。
「小説家になろう」様でも投稿しています。作者名は同じです。基本的にストーリー重視ですが、誤字指摘などがあるなら受け付けます。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる