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第5章:ファレス武闘祭

代表選出

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 エルマーがいなくなってから早一ヶ月。結局誰も彼を見つけることはできず、自宅にも確認を取ったが帰っていないとのことだった。長女と長男を一挙に失ったオプファー夫妻の絶望は凄まじいものだったと言う。

 だがそれでも時は流れて行く。いつのまにかジンたちの間では彼のことをあまり話さなくなっていた。まるでその話がタブーであるかのように。

 一ヶ月前の事件では何人もの生徒が犠牲になった。それが残した爪痕は大きい。特にSクラスやAクラスの生徒は将来を嘱望されていたものが多かった分、ショックも大きかった。

 森は未だに封鎖されており、国による調査が行われているが、噂によるとあまり進行していないという。ここ8年以上発生してきた連続誘拐事件の犯人との関連性があるのではないかという推測を立てる者もいたが真相は不明である。とにかく犯人は隠れるのが上手いのだ。いくら調査を続けても一向にその正体を掴むことができなかった。今回行方不明になった少年、少女を含めるとすでに百はくだらない。

 元々難解な事件であったが、今回の騒動が関係していると仮定すると評価を一新せざるを得ない。合成獣という禁忌の邪法を復活させた者が街中に潜んでいるのだ。その目的が何にせよ、碌でもないことに違いない。国としては早急に対処する必要が出てきたらしい。

 ジンがそんなことを考えながら教室の席に座っていると、やけに上機嫌なルースが戻ってきた。今にもスキップしそうなほどだ。先ほど悔しそうな顔を浮かべながら走り去って行ったはずだが何かあったのだろうか、あるいは何かやったのだろうか。嫌な予感が頭に過ぎる。

「何だよ、なんかいいことでもあったのか?」

「あ?いやぁ、べっつにー」

 ニヤニヤといやらしい笑いを浮かべる彼に、マルシェ共々疑いの目を向けていると、ベインが教室に入ってきた。いつも通りだるそうな顔浮かべ、杖をつきながら教壇までノロノロと辿り着く。

 彼が入ってきた瞬間にルースは素早く動き出し、席に戻った。そう毎日毎日罰を与えられるのは、彼も嫌なのだろう。何人かの女生徒や男子生徒はベインが入って来たことに気がつかず、未だにおしゃべりを続けている。話題はファレス武闘祭についてのようだ。それを見てルースはほくそ笑む。今日の獲物はあいつらだ。そう考えていた彼の額に水弾が直撃する。

「てめえらうるせえぞ、さっさと席つけ!」

「「「「「「はーい」」」」」」

 バチンという音の後にドサリと椅子から転げ落ちて、蹲りながら痛みに悶えているルースを横目に全員着席した。

「ふぐぅぅぅ…なんで…」

「ああ?なんか文句でもあんのか?」

 涙目を浮かべながらキッと睨みつけるルースにベインは睨み返す。見る見るうちに、ルースはその圧力に耐えきれなくなり、最終的に肩を落とした。

「…な、何でもないっす」

~~~~~~~~~~~

 1日の授業が恙無く終わると、ベインは帰りのホームルームでファレス武闘祭について説明を始めた。

「あー、お前らも掲示板で見たと思うが、再来週から武闘祭の予選が始まる。各自興味があるやつは出ろ。一応結果次第で次年度の昇級なんかも有りうるから。ただ、タリスマンはあるが危険なことに変わりはねーから、無理には勧めねえ。ま、お前らの今の実力じゃ予選突破も厳しいだろうから出ても意味ねーかも知んねえしな」

 彼の話に皆顔を顰める。出るかどうかを決める前に担任から出るなと暗に意味する発言を受けたのだ。確かに冷やかしで出場してみようかと考えている者もいたが、ベインの言葉にカチンときた生徒の一人が突然立ち上がると宣言した。

「それなら本当に先生の言う通りなのか、実際に試してみようじゃないですか!うちのクラスから代表者を何人か選んで出場させましょう!なあみんな!」

 彼の名前はレーベン・コレリック。クラスでも随一の努力家であるのだが、少々短気で、しかも融通の聞かない性格のために、団体行動に適さない人物である。だが普段は人のいい少年で有り、妙にカリスマ性もあるためか、彼の言葉に何人かの生徒の瞳に火が灯る。

「よく言ったレーベン!」

「さすがレーベン!」

「レーベンくん格好いい!」

 彼の友人たちが囃し立てる。それを見てベインは口角を上げる。元々彼の中で、何人かの生徒を出場させてみたいと考えていたのだ。だが冷やかしで出るような奴らではしょうがない。だからあえて煽ることで、レーベンの怒りを釣ったのだ。珍しく笑った彼に、生徒たちは一瞬にして黙る。

「言うじゃねえか。そんじゃあクラスから…そうだな5人選べ。そいつらは強制出場だ」

「なっ!横暴だ!」

「そうだそうだ!」

 元からやる気のなかったジンを含む一部の生徒が文句を言う。

「うるせえ、このクラスのルールは俺が決めんだよ。ガタガタ言ってるとお前ら出場させんぞ!」

 その言葉に反論していた者全員が口を閉じた。皆まさか自分が選ばれるとは思っていなかったが、下手に喋って5人のうちの一人にされてはたまらない。だがそんな中、回復したルースが手をあげる。

「何だ?」

「俺とジンはもうエントリー済ませたんすけど」

「「はぁ!?」」

 その言葉にジンは思わず立ち上がる。マルシェも目を丸くしている。道理でルースの機嫌が良かったわけだ。

「ちょっと待てよルース、何勝手に…」

「わかった、いいだろう。そんじゃあそいつら2人以外であと3人選べ」

「ちょ、先生!?」

 ジンは当然のように話を進めるベインに思わず情けない声をあげる。

「まあいいじゃねえか、折角の機会だ。記念に出とけや」

「さっきと言ってること違うじゃないっすか!」

 彼の言葉をベインは完全に無視した。もうジンが出場することは彼の中で決定事項らしい。その態度を見てジンはドサリと椅子に落ちるように座り、頭を抱えた。ルースに視線を送ると、ニヤニヤ笑いながら手を軽く振ってきたので、瞳に殺意を込めた。

~~~~~~~~~~

「それじゃあ、誰を代表にするか決めたいと思う!」

 レーベンが黒板の前に立って、丸を五つ書き、そのうちの二つの下にジンとルースの名前を書き込んだ。

「とりあえず、レーベンは決まりじゃね?」

「そうそう」

「まあ、言い出しっぺだしな」

 クラスの生徒たちの多くが口々にレーベンを推薦する。

「わかった、俺も出よう。じゃああと二人、誰か立候補したい者はいるか?」

 だがその言葉に誰も手を挙げない。当然だ、あまりにも面倒臭すぎる。冷やかしで出ようと考えていた者たちも、いざ『クラス代表』と言われた途端に億劫になった。下手に予選一回戦負けでもしようものなら、クラス中からどんな目を向けられるかわからない。

「誰もいない…か。それじゃあ誰か推薦したい者はいるか?」

 ここでもクラス全員がコソコソと周囲の様子を伺う。誰かが口火を着れば代表枠の押し着せ合いが始まるだろう。

「じゃあ委員長と副委員長はどうだ?」

「「えっ?」」

 クラスの二つの席から悲鳴のような声が上がる。

「いや無理だろ、二人とも体力無さすぎて、一回戦上がれても二回戦で即終わるだろ」

「あー、そっかそっか」

 二箇所から安堵のため息がこぼれる。

「それじゃあアルるんは?」

 ジンの横でマルシェが提案する。

「アル…誰?」

「はぁ?」

 疑問符を浮かべていた全員が一斉に声の聞こえてきた方に顔を向けるとそこには手に持っていた本を落としかけているアルトワールがいた。

「え?アルるんって、アルトワールさん?」

「ああ、そういえばアルトワールさん…アルるんがいたっけ」

 あちらこちらでアルるんとヒソヒソ話す声がした。アルは目を閉じてプルプル震えながら、

「おい今アルるんって言ったやつ前に出ろ」

「じゃあ、アルトワ…アルるんで決まりということだな」

「おい何で言い直した」

 アルの言葉を無視してレーベンが黒板に『アルるん』と書く。

「ちょっと待てお前!」

「まあまあいいじゃねえかアルるん」

「うっせぇ緑ハゲ!」

「ハ、ハゲてねぇよ!」

 ニヤニヤと笑うルースに悪態をつく。

「まあまあいいじゃん。アルるん暇でしょ?」

「いや勝手に決めてんじゃねえよ!」

「まあまあ、お願いだから、ね?」

「いやだから!」

「ね?」

 有無を言わさぬマルシェにアルは舌打ちするとドサリと席についてそっぽを向いた。

「…どうやら大丈夫みたいなんで、あと一人はどうする?」

 レーベンはクラスを見回すが誰も挙手をしない。

「それじゃあ、先生このメンツ以外で総合的な成績がいいのって誰ですか?」

「レティシアじゃね」

 彼がベインの方に目を向ける。鼻くそをほじりながらベインは気だるげに答えた。

 レティシアと呼ばれた少女、レティシア・アイレはただただ寡黙で、空気のような生徒だ。たとえ好成績を出しても誰も彼女に気がつかないほどに影の薄い存在だった。だが一斉に皆の目が彼女に向かい、緊張から顔を真っ赤にする。

「えっとレティシアさんはいいかな?」

 皆の期待の目が彼女に突き刺さる。その重圧に耐え切れずに小さく頷いた。

「よし、それじゃあ今黒板に書かれた四人は前に来てくれ」

 一人以外渋々と立ち上がって、まるで囚人のようにノロノロと歩き、前に立った。

「このクラスの代表は俺たち5人だ。何か異論のある奴はいるか?」

 レーベンの言葉に誰も口を挟まず、強く頷いている。

「よし、それじゃあファレス武闘祭、みんなで力を合わせて頑張ろう!」

「「「「「「「「「「おおおおおお!」」」」」」」」」」

 個人戦で力を合わせて頑張ろうとはどういうことなのか。

「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」」

 周囲が意気込む横で、ジン、アル、レティシアの3人は深いため息をついた。
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