World End

nao

文字の大きさ
132 / 273
第6章:ギルド編

冒険者登録

しおりを挟む
 荷物に囲まれ、ゴトゴトと揺れる居心地の悪い馬車に乗って、ボーッと空を見上げていると前から声をかけられた。

「おう坊主、おめ街に行ったら何すんだっぺ?」

 御者台に座っている老人はこの馬車の持ち主である、フレッドだ。とぼとぼと道を歩いていたジンに親切にも声をかけてくれた上に、行く方向が同じだからと馬車に乗せてくれたのだ。

「んー、ギルドで冒険者登録しようと思って」

「はー、ほれはなじだべ?」

「ほれ? なじ?」

「理由だべ」

「ああ、金掏られてね。稼がなきゃいけないんだ」

「ほお、ほれはほれはとんだごどで。ま、しゃーんめ、頑張っぺよ」

「はは、ありがとう」

 訛りが強いので先ほどから何度も話しかけてきてくるのだが、なかなか意味がわからない。ただ心配してくれているのは分かる。

 それからしばらく老人とのコミュニケーションに悪戦苦闘しているうちに、遠くの方に街、ロヴォーラを囲う外壁が見えてきた。

~~~~~~~~~~~

「したっけがんばっぺよ坊主」

「ありがとう爺さん」

 街の中に入るとフレッドと別れて、彼から場所を教わったギルドを目指す。街の活気は学校のあったオリジンほどではないがなかなかだ。道の両側にある店先には様々な食べ物や品物が販売されている。空腹の彼を襲う肉の焼けるいい匂いや、道ゆく人々が持つ食べ物に目を向ける。

 金を落とした時に備えて隠し持っていた虎の子の硬貨の入った袋を覗き込み、諦めた。ギルドに登録する際に登録料がかかるのだそうだ。フレッドはそれがいくらか分からないそうなので無駄遣いはできない。仕方なく目を逸らすと、ギルドへと足を早めた。

 すると前方にようやくギルドの看板が見えてきた。女神フィリアを模した女性が剣を持った絵が彫られた木製の看板が入り口にぶら下がっている。ギルドの大きなスイングドアを押し開けると中には見るからに屈強な男たちや装備を整えた女性たちがいた。ある者は最奥にあるカウンターの先にいる職員と話していたり、ある者は収集物をおそらく換金所らしき場所で渡していたり、ある者はいくつも並べられた長テーブルについて酒や料理を口に入れている。どうやらギルドは食事場としての役割も兼ねているようだ。

 それらを無視してまっすぐカウンターを目指す。5人の職員が冒険者達の応対をしていた。そのうちの4人はそれぞれ雰囲気の違ったなかなか美人な女性で、なぜか一人だけどう見ても冒険者にしか見えない厳つい男性がいた。案の定ほとんどの男冒険者は4人の女性職員に群がっており、男のところに並んでいるのは数名だ。

 ジンは迷わず男の職員の列に並ぶ。さっさと登録を終わらせたかったからだ。金を稼ぐために可能な限り早くクエストを始めたい。

「次!」

 すぐにジンの番になり、男の前に立つと彼はねめつける様にジンを見てきた。ジンも素早くネームプレートに目を落とすと、目の前の男はどうやらエミリオという名前の様だ。

「要件は?」

 ぶっきらぼうな言葉に面食らいつつも、ジンは目的を伝えた。

「ふん、登録か。ちょっと待て」

 そう言うと男はカウンターの下に手を伸ばしてゴソゴソと何かを探した。そして見つけたそれをバンッとカウンターの上に叩きつけた。

「これに必要事項を書け」

「あ、ああ」

 その言葉に従って用紙に目を落とし、必要事項を埋めていく。その間に男はさらにカウンターの下から手の平大のカードを取り出した。

「これにサインしろ」

「わかった」

それが終わると『初めてのギルド』と書かれた本を手渡してきた。

「これで登録は終わりだ。お前は最低ランクのFからスタートだ。受けられるクエストの難易度は単独なら一つ上まで、チームならそのチームが受けられるランクのものまでだ。あとはその本を読め」

 そこまで言うとエミリオは口を閉じた。どうやらこれ以上話すつもりは無い様だ。

「あの、一つだけ聞きたいんだけど、狩った動物の買取ってここでもできるの?」

 ジンの質問にエミリオは面倒臭そうにギルドの一箇所を指差した。先ほどジンが換金所だと推測したところだ。どうやら正解だったらしい。

「……ありがとう」

「ふん、次!」

~~~~~~~~~~~

 換金所でここまで来るのに狩った小動物の毛皮や希少部位と金銭を交換してようやく人心地つき、最も安い定食を購入し、その場で受け取り、席につこうとして、突如出てきた足に引っかかって盛大に転んだ。

「あああああああああああ!!」

 ジンの悲鳴の様な、泣きそうな声が響いた。

「ははは、前に気をつけなルーキー、なっ!?」

何事かと周囲がジンの方に目を向けると、彼は足を出した男に掴みかかっていた。

「この野郎! 俺の飯を、俺の飯をおおおお!」

 あまりの剣幕にふざけて足を出した男とその仲間たちの方が目を丸くしている。なにせ2メートル近くあるその大男が持ち上げ始めたのだ。とんでもない膂力である。

「お、おい悪かったって。じょ、冗談だって!」

「おい離せ、離せよ!」

 大男の仲間たちが慌てて駆け寄ってジンを止めようとすると、今度は恐ろしいことに片手で大男を掴んで睨みつけたまま、近づいてきた男達を片手で迎撃し始めた。その都度ガクガクと大男を掴んだ手が動き大男は苦しさに顔を歪める。

「い、いい加減にしろよ! そいつ死んじまうよ!」

「はっ!」

 その言葉にようやくジンは現実に戻った。そしてパッと大男の胸ぐらから手を放した。ドスンと音を立てて男は尻餅をついた。

 その成り行きを周囲の人間は驚嘆の顔を浮かべて観察して、やがて自分のやっていたことへと目を戻していった。どうやらこの程度の小競り合いは荒くれ者の集まるギルドでは日常茶飯事らしい。

「おい、大丈夫か、おい! ダメだ気絶してやがる……」

 男の仲間の一人が大男の様子を確認して首を振った。

「てめえ、よくもタウルを!」

 怒りの籠った目でジンを睨みつける彼に対してジンは手を差し出す。

「んっ」

「な、なんだよその手は?」

 先ほどのジンの力を見て若干恐れているのか、目に灯る怒りの感情にわずかに怯えをのぞかせる。

「飯代」

「はあ?」

「お前の仲間のせいで俺は飯が食べられなかった。だから飯代を寄越せ」

 今にも殴り掛かるのではないかというほどの凄みを見せつけるジンに、その男は今度は完全に怯んだ。

「あ、ああ悪かった」

 そう言ってジンに、彼が食べようとしていた定食の代金を渡した。しかしジンはなぜか手を引っ込めない。

「んっ」

「な、なんだよ渡したじゃねえか!」

「足りない」

「はあ!? お前が頼んだのは一番安いやつだろ?それで十分じゃねえか!」

「違う。俺が頼んだのは一番高いやつだ」

 一番高い定食と最安値の定食では、銀貨数枚分もの開きがある。床に散らばっている食べ物の種類からしてどう見ても、彼が頼んだのは一番安い定食であった。

「嘘言ってんじゃねえよ!」

「俺が頼んだのは一番高いやつだ」

「いや、だから……」

「俺が頼んだのは一番高いやつだ」

 ジンの目からどんどん光が消えていく。その代わりに殺意が瞳の奥で湧き上がり始めている様に男には感じられた。

「お、おい。いいから渡しとけって」

「わ、わかったよ。これでいいんだろ!」

 そう言うと男は硬貨をしまっていた袋から、さらに数枚取り出してジンに手渡した。

「毎度!」

 ジンは先ほどの雰囲気をガラリと変えて、男たちに笑いかけると再度、今度は一番高い定食を買いに向かった。

「若ぇくせにやべぇやつだな……」

「ああ、ああいうのは絶対に関わっちゃいけないタイプだ」

 今だ気絶している仲間の大男を床に放置して、ジンに目を向けて小声で囁き合った。

~~~~~~~~~~

「あいつ、なかなかいいかも」
 そんな彼らの様子を興味深そうに見つめる、目深にフードをかぶって顔を隠した人物がいた。高く、少し幼さが残った声からしておそらくはまだ10代半ばの少女であろう。

 フードを被ったその少女の目の前には、どう見ても成人男性10人分はあろうかと言うほどの大量の料理が並んでいた。少女はそれらをあっという間に食べ終えると、立ち上がってジンの方へと歩き出した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

処理中です...