World End

nao

文字の大きさ
188 / 273
第7章:再会編

共鳴

しおりを挟む
 シオンがアレキウスの元につくと、彼はまさに魔人と戦っていた。一進一退の攻防ではなく、凶悪な術の数々を必死に回避し、攻撃しようと狙っている。だが次から次へと飛んでくる攻撃に攻めあぐねている様子だった。シオンは声を出してアレキウスに呼びかけようとして、口を閉ざす。ギリギリの戦いをしている彼の意識を一瞬でも自分に向けさせることは、彼の命に関わるからだ。だが、それも彼が戦っている相手を見た瞬間に頭の中から全てが飛び去った。

「お……姉ちゃん?」

 記憶の中に朧げに残っている自分の恩人の顔が、その女性を見てどんどん鮮明になっていく。

「がはっ!?」

 それと同時に突如胸が強く締め付けられて、思わずその痛みに蹲る。混乱のためか、呼吸が出来ないほど息苦しくなった。荒い息を吐きながら、その場に倒れた。

「マジかよ、クソがっ!」

 アレキウスは飛んでくる術を回避しながら、視界の端にシオンを確認する。

「助けに来た奴が真っ先に倒れんじゃねえよ!」

 悪態をついた瞬間に、アレキウスは着地に失敗する。地面から飛び出ていた石の上に片足を乗っけてしまったのだ。バランスがわずかに崩れ、微かによろめく。

「しまっ!?」

 咄嗟にダメージを抑えるために、闘気で体を包み込む。しかし、相手の実力を考えれば、焼け石に水だろう。一瞬先の自分の未来を想像して、死を覚悟した。だが、いつまで経っても相手から攻撃が飛んでこない。恐る恐る顔をレトに向けると、彼女は胸に手を当ててシオンを興味深そうに見ていた。

【ふむ。不思議な感覚だ。あの少女が現れた途端に、ナギの魂が暴れ出した】

「なんだと? 何言ってやがる?」

【まあ、暫し待て。ふむ……】

 レトは頭に右手を当てて、目を瞑る。そしてナギの記憶を読み込み始めた。アレキウスはその隙にシオンのそばに駆け寄る。

「おい、大丈夫か?」

 シオンは大量の汗をかき、胸に手を当てて苦しそうな顔を浮かべていた。だがアレキウスの言葉に微かに反応を示した。

「ちっ、動けなさそうだな」

 一目見ただけで彼女が戦える状況にないのは理解できた。しかし、だからといって、この場から逃がす事など出来ない。隙を見せれば、必ずレトが自分たちを攻撃してくるだろうと彼は考えていた。

【なるほど。なかなか面白い縁を持っているようだな。まさか生命置換の邪法を使用していたとはな】

 アレキウスの知らない事ではあるが、ナギはかつて光法術最大の禁忌である【生命置換】という術を使い、ある少女の命を救った。それが彼女の身体を蝕み、死を早める切っ掛けとなった。正確に言えば、レトが覚醒する呼水となった。そして、その時の少女こそ、シオンだった。

 ナギの魂がレトと入れ替わり、さらに傷ついた事によって、2人の魂が今まさに共鳴し合い、一つに戻り、安定しようと騒ぎ始めたのである。レトはゆっくりとシオンとアレキウスに歩み寄る。彼女からはいつの間にか攻撃的な雰囲気が消えていた。それよりも純粋な興味によって、目の前の事象に惹かれていた。

「近づくな!」

 アレキウスが炎弾を飛ばす。だがそれをレトは容易く消し去った。

「ちっ」

 先ほどから法術による攻撃は全て相克する術によって潰されるか、今のように消し去られている。そのため、接近戦でしか戦いようがないのだが、絶え間なく彼女の周りを法術が守っているので、近づくことすら出来ないのだ。

【まあ待て。攻撃するつもりはない。それよりその娘をもう少し見せよ】

 自身の中にあるナギの魂が、シオンに近づく度に激しく暴れる。それは彼女の魂と密接に絡みついているレトの魂にすら微かな痛みを感じさせるほどだった。同様にシオンも先ほど以上に苦しみだす。

「んなことさせるかよ!」

 アレキウスが剣を振り下ろす。しかし突如空中に現れた、強固な鉱石の塊がそれを食い止めた。そして彼の横から水で出来た龍が襲いかかってきた。

「くっ!?」

 その巨大な顎に挟み込まれ、アレキウスはその場から離される。その間に、レトはシオンの元まで近づき、興味深そうに蹲み込んで彼女の顔を眺め、そっと彼女の頬に手をのせた。

【かかか! 全くもって此度の体は面白い!】

~~~~~~~~~

 小さい頃、僕は死にかけた事がある。当時流行っていたオルフェンシアという病に罹ったからだ。正確に言うと、この病気に罹ると魔物になってしまうらしい。それはさておき、お父様はどうにかして僕を救おうとした。だけど、薬を手に入れても、なぜか僕には効果がなかった。だから、僕はそのまま生命力を全て失い、魔物になるはずだった。でも、そうはならなかった。お父様が解決法を見つけたからだ。

 それは忌まわしい禁呪だった。だけど、お母様を失ったばかりだったお父様には、僕まで失う事に耐えられなかった。だから、お父様はその邪法に手を染める事にした。そうして、魂を移植する術である【生命置換】が僕を救った。お姉ちゃんは僕を救うために、自分の魂の大部分を僕に捧げてくれた。

 その話を僕が知ったのは大きくなってからだった。当時の僕は、何も知らず、偶にやってくるお姉ちゃんが僕と遊んでくれる事を喜んだ。体があまり強くなかった僕は、テレサが遊びにくる時以外退屈だった。でも、お姉ちゃんはいつも僕の所に来ると、いろんな面白い話や、家族の話、新しい遊びを教えてくれた。だから僕はお姉ちゃんが来るのをいつも楽しみにしていた。

 特に気になったのはお姉ちゃんの弟の話だった。お姉ちゃんは弟の話になるとすごく優しくて嬉しそうな顔をして、僕はずるいと思った。そして、どうしてお姉ちゃんが僕のお姉ちゃんじゃないのかといつも思った。だけど突然お姉ちゃんは家に来なくなった。お父様に聞いても、何も知らないって事だった。それ以来、僕がお姉ちゃんに会う事はなかった。

~~~~~~~~~~

 誰かが頬に触れた事に気がつき、シオンが薄らと目を開けると、そこには興味深そうに自分を眺めるレトの顔があった。

「お……ねえちゃん?」

【ふむ。本来ならば術が成功すればこのような事は起こらないはず。ならば何故……ナギの魂が傷ついているからか?】

 一通り観察を終えたのか、レトはすくっと立ち上がり、背後から聞こえてくる戦闘音に目を向けた。そこには必死の形相で、水龍と対峙するアレキウスがいた。放った時より水龍が一回り以上小さくなっているため、アレキウスとの対決で体積を失ったのだろう。それを見たレトはパチンと指を鳴らす。その瞬間、生き生きとしていた水龍がただの水に戻り、バシャリとアレキウスに降り注いだ。

「うおっ!?」

 アレキウスは突然のことに反応できず、降ってきた水のせいでびしょ濡れになった。

【放置していてすまんな。しかし、此度はこれで終いだ。如何せん、ナギの魂が煩くて適わん。さっさと去ね】

「何?」

 本来ならば魔人にはあり得ない発言である。魔人は人間の敵であり、戦い始めたらこんなに簡単に相手を逃すなどあり得ない。その上彼らの基本的に喰う事、殺す事に喜びを感じる。だからこそ、このような発言をするとは、アレキウスには到底信じられなかった。

「何を考えている?」

【別に何も。ただ、今殺すのは惜しいと思っただけよ】

 その言葉は嘘偽りないように感じられた。しかし、法魔は魔人の頂点にいる四体のうちの一体だ。とてもではないが、そんな言葉を疑わないわけにはいかない。

「だからと言って、『はいそーですか』って逃げるわけにはいかないんだよ。立場上な」

 それに何よりも、彼は使徒である。だからこそ、危険な存在を放置する事は出来ない。

【ふむ。だが、そうは言っても我はもう戦う気は無い。さっさとその娘を連れて我の元から去れ。さもなくば、この周辺全てを破壊するぞ? 確か、近くに町があっただろう?】

「……わかったよ」

 頭はボリボリ掻いて暫し逡巡し、アレキウスは肩の力を抜いた。

【なに、我は暫く此処から動くつもりは無い。いつでも遊びにくるがいい。今度はしっかりと頭数を揃えてな】

「ああ、そうさせてもらうぜ」

 アレキウスはシオンを抱き上げる。しかし、レトはもはや興味が無いのか。胡座をかいて瞑想を始めた。

「じゃあな」

 恐る恐る背中をレトに向けて、洞窟の出口に向かって歩き始める。いつ襲いかかってきても反応できるように後方に集中するが、いつまで経っても攻撃は飛んでこなかった。そうして、いつの間にか出口に辿り着いていた。目の前にはスコットが引き連れてきた騎士団が隊列を整えていた。

「団長! 何があったんですか? シオンは一体?」

 スコットが駆け寄ってくる。彼にシオンを渡して、どさりと地面に腰を下ろした。

「直ちに陛下に連絡しろ」

「どのように?」

「……法魔が現れたってな」

 その場にいた者全てが息を飲む。伝説上の化け物がさらに一体現れたのだ。四魔は連鎖的に現れるという話が事実であった事が証明され、皆が恐怖した。これからさらに二体、獣魔と死魔が現れる可能性が出てきたのだ。

『しかし、奴は本当に四魔なのか?』

 だが、アレキウスはそんな彼らを他所に、1人疑念を抱いていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました

四折 柊
恋愛
 子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

ゴミ捨て場領主のクラフト無双 ~最弱魔法【分解と合成】で領地を黄金郷に変えたら、俺を見下していた大貴族令嬢たちが掌を返してすり寄ってきた件~

namisan
ファンタジー
東西南北の大貴族から「毒の川」「凶暴な魔獣」「莫大な借金」を押し付けられ、王国の『ゴミ捨て場』と化したローゼンベルク領。 父と兄を謀殺され、その絶望の領地を押し付けられた無能貴族のアークは、領地の分割を企む高慢な令嬢たち(王女、公爵令嬢、姫将軍など)に嘲笑われていた。 だが、彼には現代の知識と、隠された最強チート能力があった! 触れたものを瞬時に素材に戻し、全く別のモノに作り変える神の御業――【分解と合成】。 「毒の川」を分解して『超高価な宝石と純水』へ! 「魔獣の死骸」と「瓦礫」を合成して『絶対に壊れない防壁』へ! 借金取りには新素材を高値で売りつけ、逆に敵の経済を支配していく。 圧倒的なクラフト能力で、瞬く間にゴミ捨て場を「無敵の黄金郷」へと作り変えていくアーク。 己の敗北を悟り、震え上がる悪徳貴族と高慢な令嬢たち。 さらに、アークの圧倒的な知略と底知れぬ実力は、気高い令嬢たちの本能に深く刻み込まれていく。 「どうか、私をあなたの手駒としてお使いください……っ!」 プライドを完全にへし折られた最高位の美少女たちは、いつしかアークの与える『恩恵』なしでは生きられないほど、彼に絶対の忠誠と依存を誓うようになっていく――。 最弱のゴミ捨て場から始まる、爽快クラフト内政&ざまぁファンタジー、堂々開幕!

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

黄金の魔導書使い  -でも、騒動は来ないで欲しいー

志位斗 茂家波
ファンタジー
‥‥‥魔導書(グリモワール)。それは、不思議な儀式によって、人はその書物を手に入れ、そして体の中に取り込むのである。 そんな魔導書の中に、とんでもない力を持つものが、ある時出現し、そしてある少年の手に渡った。 ‥‥うん、出来ればさ、まだまともなのが欲しかった。けれども強すぎる力故に、狙ってくる奴とかが出てきて本当に大変なんだけど!?責任者出てこぉぉぉぃ!! これは、その魔導書を手に入れたが故に、のんびりしたいのに何かしらの騒動に巻き込まれる、ある意味哀れな最強の少年の物語である。 「小説家になろう」様でも投稿しています。作者名は同じです。基本的にストーリー重視ですが、誤字指摘などがあるなら受け付けます。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

処理中です...