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第8章:王国決戦編
交渉
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「お初にお目にかかる。俺はアカツキ皇国の天子、こっちで言やぁ皇帝か、を務めているコウラン・アカツキだ」
「こちらこそ、我々の急な願いを聞き入れてこちらに来ていただき、感謝する。私はこの国の王イース・フィリアン・キールだ。まさか皇帝自ら来ていただけるとは思いもしなかった」
豪奢な空間には2人の男が席につき、その後ろには複数の人がいた。
「まあ、娘と大切な甥っ子の頼みだからな。それに、今回の一件でおたくに貸を作るのも悪くねえ」
イースの真面目な態度とは裏腹に、コウランは乱雑な口調で、足を組んで座っている。
「あんたも、そんな堅っ苦しい話し方じゃなくていいぜ。真面目な言葉遣いってぇのはされるだけで肩が凝っちまう」
態とらしく右肩を押さえてマッサージをするかのように左手で揉む。
「ふっ、それではそうさせてもらおうか。それにしても本当に迅速な対応をしてくれて感謝する」
先日の対策会議からまだ3日しか経っていない。それにもかかわらず、イースの目の前にいる男は既に四千もの兵士を整えて、順次こちらに送り出していた。本来ならば疑うべきではあるが、その感情を少しでも表に出して相手の機嫌を損ねれば、協力が得られない。そう考えたイースはコウランの思惑を彼の表情から推察しようとするが、だてに一国の主人ではない。顔には笑みしか浮かんでいないため、非常に読み取り難かった。
「いいってことよ。そんで、面倒くせぇ話は嫌いなんで早速本題から話そうぜ」
「ああ、私もそちらの方が楽だ。グルード」
「はっ」
近くに立っていたグルードがイースに代わって現状を説明する。
「……なるほどな。確かに随分とヤベェ状況だ。そんで、俺に何をして欲しいんだ?」
今度はグルードに代わってイースが口を開いた。
「率直に言うと、兵を貸して欲しい」
「何の為に? まさか王都を守る為とか、あんたらの国の兵隊どもの代わりに魔物を退治する為とか言う訳じゃねえよな?」
「申し訳ないが後者だ。王都の守護ではなく、各地で被害を起こしている魔物の討伐に助力して欲しいのだ」
「はっきり言うねぇ。嫌いじゃないぜ、そういう奴は。だが見返りに何をしてくれる? しょぼけりゃこの話は乗らないぜ」
その問いにどう答えればいいか、イースは悩む。何せ国交がほとんどない国だ。何を求めているのか想像もつかない。
「金銭……では無理だろうな」
探りを入れてみるが、相手の表情に失望の色が現れ、すぐに訂正する。
「ああ、生憎そんなもんは腐るほどある」
「特権的な商業権は?」
「魅力的ではあるが国が遠いからいらねぇ」
「では、領土では?」
「冗談だろ? 俺の国からこんだけ離れている国に領土なんか持ってどうするってんだ?」
「まあ、そうだろうな。しかし……ううむ、そう考えるとあまりそちらに提示するものがないな」
イースは頭を悩ませる。何もアイディアが出てこない。
「はぁ、まあいい。じゃあ、2つだけ願いを聞いてもらいたい。一つ目は俺の甥とその一行の行動を邪魔しないこと。仮にどんな要望があっても、可能な限り叶えてくれ。2つ目はあんたらの宝物庫から2つ3つもらうということだ」
あまりにも拍子抜けな提案にその場にいたイースの部下は目を丸くする。だがイースとグルードだけは目を鋭く細める。
「一つ目はいいとして、二つ目は単なる金銭という訳ではないのだな」
その言葉に初めてコウランは朗らかな笑みを獰猛なものへと変えた。
「ああ、あんたが持っている国宝、あるいは伝説級の武器、防具またはアイテムをいただきたい」
「このまま国を滅ぼすか、それとも国を存続する為に象徴を手放すか……か」
イースは逡巡する。それはこの国に納められている一つの伝説級の防具が問題だったからだ。かつて、四魔を退けた勇者が装備していたとされる鎧がこの国には秘密裏に保管されていた。どこから情報を仕入れたのかは知らないが、目の前の男が確実にその事を知っている事に気がつき、イースは内心歯噛みする。鎧は将来、勇者が現れた時に渡すべき物である。それを他国の、しかも国交を閉ざしている国に奪われるという事は、自国を勇者が守護する理由がなくなるという事につながる。
勇者は慈善事業家ではない。その為、彼あるいは彼女にとって魅力的な物がなければ、自分達が守るだけの価値があるという事を示なければ、最悪の場合、四魔が襲いかかってきても優先順位の問題から守ってもらえない可能性が高い。少なくともイースならば、優先的に勇者の遺物が存在している国を守るだろう。だからこそ、勇者の鎧はこの国では勇者が現れるまで問題が起きないよう存在が秘されていた防具であり、自国を災いから守る為の切り札でもあった。しかし、現状を乗り越える為には選べる選択肢はほぼ無い。
「……全くもって、抜け目ない男だ。いいだろう、その話を受け入れよう」
短く無い時間を経て、イースは頷いた。
「よし! まあ、任せておけ、報酬分の力は貸すからよ!」
陽気な雰囲気に戻ったコウランが差し伸べてきた右手に、イースは同じく右手を差し出し、握手をした。
~~~~~~~~
「全く、とんでもない男を仲間にしてしまったようだ」
ずるずるとだらしなく柔らかい椅子に背中を埋めていくイースに、グルードが尋ねる。
「本当によろしかったのですか?」
グルードは勇者の鎧を知っている数少ない1人だった。その質問の意味をすぐに理解した為、イースは深い溜息を吐いた。
「仕方ないだろう。今この国を存続させるには力がいる。あれは今この問題において重要事項にはなり得ない。それならば一旦預ける形にして、どこかで取り返せばいい。幸いな事にあの男は使徒ではなさそうだし、その護衛もそうだろう」
「奪い返すのは良いとして、なぜそう言えるのでしょうか? 護衛が使徒では無いとなぜ断言できるのですか?」
「使徒である俺の前に使徒を連れてこないのはおかしな話だろ? それにもし使徒ならば、ここに来る途中でナディアが見抜いているはずだ」
コウランを部屋まで案内したのは使徒であるナディアだった。彼女は法術とは関係ない様々な不思議な力を持っていた。その一つが人の力を見抜くというものだったのだ。そんな彼女が特に何も言わなかったという事は護衛達の中にイースを脅かすほどの強者がいなかったという事を示している。
「なるほど。それでは今後いかがいたしましょうか?」
「騎士団長達とアカツキの将軍達とで軍の配置について考えさせる。お前には引き続き、馬鹿貴族共の牽制を任せる」
「承知いたしました」
そう言ってグルードが部屋から出ていくと、イースは愚痴をこぼす。
「全く、何で俺の時代にこんなに問題が起こるんだ」
~~~~~~~~
「……という事になった」
ミコトに抱きついて顔を殴られた為、目の当たりに青痣を作りながら、コウランがジン達に大体の説明をした。
「……勇者の鎧か」
ジンはコウランの話の中で出てきた防具から、以前ラグナからフィリアを封じる為に、神剣マタルデオスを見つけ出すように言われた事を思い出した。
勇者とは、女神から借り受けたその武器を手にして四魔を打倒したと言われる存在であり、四魔が現れ出した今、いつ現れてもおかしくはない存在だ。伝承では普通の使徒を大きく上回る能力を持ち、人界の守護者と呼ばれている。
「でも、何でそんなのが必要なの?」
素直なミコトの質問に、ニヘラと笑ってコウランが答える。
「それはね、ミコトちゃん。勇者がフィリア側である以上、限りなく力を削がなきゃいけないんだ。それにね、勇者が力を十全に発揮する為には、全ての装備が必要だとカムイ様がお残しになった書に書かれているんだ。だから妨害の為に必要な事なんだよ。さあ、分かったらパパのほっぺで頬をスリスリさせておくれ!」
コウランがミコトに飛びかかるも、彼女は咄嗟に近くに立っていたゴウテンの襟首を掴んで盾にした。
「ゴウテンバリアー!」
「ちょっ!? ミコッ……ぎゃあああああ!」
猛烈にコウランに頬擦りされて、ゴウテンの悲鳴が部屋中に響き渡った。
「こちらこそ、我々の急な願いを聞き入れてこちらに来ていただき、感謝する。私はこの国の王イース・フィリアン・キールだ。まさか皇帝自ら来ていただけるとは思いもしなかった」
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イースの真面目な態度とは裏腹に、コウランは乱雑な口調で、足を組んで座っている。
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「ふっ、それではそうさせてもらおうか。それにしても本当に迅速な対応をしてくれて感謝する」
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「いいってことよ。そんで、面倒くせぇ話は嫌いなんで早速本題から話そうぜ」
「ああ、私もそちらの方が楽だ。グルード」
「はっ」
近くに立っていたグルードがイースに代わって現状を説明する。
「……なるほどな。確かに随分とヤベェ状況だ。そんで、俺に何をして欲しいんだ?」
今度はグルードに代わってイースが口を開いた。
「率直に言うと、兵を貸して欲しい」
「何の為に? まさか王都を守る為とか、あんたらの国の兵隊どもの代わりに魔物を退治する為とか言う訳じゃねえよな?」
「申し訳ないが後者だ。王都の守護ではなく、各地で被害を起こしている魔物の討伐に助力して欲しいのだ」
「はっきり言うねぇ。嫌いじゃないぜ、そういう奴は。だが見返りに何をしてくれる? しょぼけりゃこの話は乗らないぜ」
その問いにどう答えればいいか、イースは悩む。何せ国交がほとんどない国だ。何を求めているのか想像もつかない。
「金銭……では無理だろうな」
探りを入れてみるが、相手の表情に失望の色が現れ、すぐに訂正する。
「ああ、生憎そんなもんは腐るほどある」
「特権的な商業権は?」
「魅力的ではあるが国が遠いからいらねぇ」
「では、領土では?」
「冗談だろ? 俺の国からこんだけ離れている国に領土なんか持ってどうするってんだ?」
「まあ、そうだろうな。しかし……ううむ、そう考えるとあまりそちらに提示するものがないな」
イースは頭を悩ませる。何もアイディアが出てこない。
「はぁ、まあいい。じゃあ、2つだけ願いを聞いてもらいたい。一つ目は俺の甥とその一行の行動を邪魔しないこと。仮にどんな要望があっても、可能な限り叶えてくれ。2つ目はあんたらの宝物庫から2つ3つもらうということだ」
あまりにも拍子抜けな提案にその場にいたイースの部下は目を丸くする。だがイースとグルードだけは目を鋭く細める。
「一つ目はいいとして、二つ目は単なる金銭という訳ではないのだな」
その言葉に初めてコウランは朗らかな笑みを獰猛なものへと変えた。
「ああ、あんたが持っている国宝、あるいは伝説級の武器、防具またはアイテムをいただきたい」
「このまま国を滅ぼすか、それとも国を存続する為に象徴を手放すか……か」
イースは逡巡する。それはこの国に納められている一つの伝説級の防具が問題だったからだ。かつて、四魔を退けた勇者が装備していたとされる鎧がこの国には秘密裏に保管されていた。どこから情報を仕入れたのかは知らないが、目の前の男が確実にその事を知っている事に気がつき、イースは内心歯噛みする。鎧は将来、勇者が現れた時に渡すべき物である。それを他国の、しかも国交を閉ざしている国に奪われるという事は、自国を勇者が守護する理由がなくなるという事につながる。
勇者は慈善事業家ではない。その為、彼あるいは彼女にとって魅力的な物がなければ、自分達が守るだけの価値があるという事を示なければ、最悪の場合、四魔が襲いかかってきても優先順位の問題から守ってもらえない可能性が高い。少なくともイースならば、優先的に勇者の遺物が存在している国を守るだろう。だからこそ、勇者の鎧はこの国では勇者が現れるまで問題が起きないよう存在が秘されていた防具であり、自国を災いから守る為の切り札でもあった。しかし、現状を乗り越える為には選べる選択肢はほぼ無い。
「……全くもって、抜け目ない男だ。いいだろう、その話を受け入れよう」
短く無い時間を経て、イースは頷いた。
「よし! まあ、任せておけ、報酬分の力は貸すからよ!」
陽気な雰囲気に戻ったコウランが差し伸べてきた右手に、イースは同じく右手を差し出し、握手をした。
~~~~~~~~
「全く、とんでもない男を仲間にしてしまったようだ」
ずるずるとだらしなく柔らかい椅子に背中を埋めていくイースに、グルードが尋ねる。
「本当によろしかったのですか?」
グルードは勇者の鎧を知っている数少ない1人だった。その質問の意味をすぐに理解した為、イースは深い溜息を吐いた。
「仕方ないだろう。今この国を存続させるには力がいる。あれは今この問題において重要事項にはなり得ない。それならば一旦預ける形にして、どこかで取り返せばいい。幸いな事にあの男は使徒ではなさそうだし、その護衛もそうだろう」
「奪い返すのは良いとして、なぜそう言えるのでしょうか? 護衛が使徒では無いとなぜ断言できるのですか?」
「使徒である俺の前に使徒を連れてこないのはおかしな話だろ? それにもし使徒ならば、ここに来る途中でナディアが見抜いているはずだ」
コウランを部屋まで案内したのは使徒であるナディアだった。彼女は法術とは関係ない様々な不思議な力を持っていた。その一つが人の力を見抜くというものだったのだ。そんな彼女が特に何も言わなかったという事は護衛達の中にイースを脅かすほどの強者がいなかったという事を示している。
「なるほど。それでは今後いかがいたしましょうか?」
「騎士団長達とアカツキの将軍達とで軍の配置について考えさせる。お前には引き続き、馬鹿貴族共の牽制を任せる」
「承知いたしました」
そう言ってグルードが部屋から出ていくと、イースは愚痴をこぼす。
「全く、何で俺の時代にこんなに問題が起こるんだ」
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「……という事になった」
ミコトに抱きついて顔を殴られた為、目の当たりに青痣を作りながら、コウランがジン達に大体の説明をした。
「……勇者の鎧か」
ジンはコウランの話の中で出てきた防具から、以前ラグナからフィリアを封じる為に、神剣マタルデオスを見つけ出すように言われた事を思い出した。
勇者とは、女神から借り受けたその武器を手にして四魔を打倒したと言われる存在であり、四魔が現れ出した今、いつ現れてもおかしくはない存在だ。伝承では普通の使徒を大きく上回る能力を持ち、人界の守護者と呼ばれている。
「でも、何でそんなのが必要なの?」
素直なミコトの質問に、ニヘラと笑ってコウランが答える。
「それはね、ミコトちゃん。勇者がフィリア側である以上、限りなく力を削がなきゃいけないんだ。それにね、勇者が力を十全に発揮する為には、全ての装備が必要だとカムイ様がお残しになった書に書かれているんだ。だから妨害の為に必要な事なんだよ。さあ、分かったらパパのほっぺで頬をスリスリさせておくれ!」
コウランがミコトに飛びかかるも、彼女は咄嗟に近くに立っていたゴウテンの襟首を掴んで盾にした。
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