World End

nao

文字の大きさ
221 / 273
第8章:王国決戦編

勇者2

しおりを挟む
「ジン様は……」

 ハンゾーがジンの方に顔を向ける。

「ああ、兄さん。死んでしまうなんて」

 その言葉に弾かれたようにハンゾーは顔を元に戻す。そこには半裸の少女がヘルトの首を抱えて座り込んでいた。口を開いたままの顔に唇を近づけ、貪るようにキスをする。その狂気に、ハンゾーは気圧される。周囲にいた人間が一斉に少女に目を向けた。

「お主は一体……っ!?」

 ハンゾーの質問に少女が顔を上げて、目を合わせた瞬間、ハンゾーは背筋が凍るような感覚に包まれ、思わず距離をとった。

「あなたが兄さんを殺したんですか?」

 突然現れた少女を、ハンゾーはヘルト以上に警戒する。白磁のような肌を血に染めた彼女を、ウェネー、エリミス、アリーネが呆然と見つめる。ウェネーが呟く。

「ね、ねえ、あれあの子よね?」

「ああ、た、多分」

 そうエリミスが同意した。いつもの彼女の様子とは異なっており、自分でそう言いつつも、エリミスは確信を持てなかった。

「ど、どこから出てきたの?」

 アリーネの質問を受けて、セルトがゆっくりと彼女達の方に顔を向ける。

「せっかく兄さんの娯楽と肉壁の為に雇ってあげたのに。役立たず」

 いつの間にか立ち上がっていたセルトの手には神剣マタルデオスが握られていた。

「なぜそれを持てる!?」

 ハンゾーが叫ぶ。ジン達を除く、その場にいた全員が驚愕する。マタルデオスは神に選ばれた者しか持つ事が出来ないはずだった。それなのに彼女の手に収まったそれから溢れ出す力の波動は、ヘルトが持っていた時よりも強まっている。

「死んじゃえ、バーカ」

 次の瞬間、エリミスの首が斬り落とされた。50メートル近く離れていた距離が一瞬で詰められていた。まるで最初からその場所にいたかのように、気がつけば彼女はエリミスの後ろにいたのだ。その動きを、誰も影さえ捉える事が出来なかった。

「は?」「え?」

 彼女の横に立っていたウェネーとアリーネが驚く。彼女達にエリミスの首から吹き出した血が飛び散った。

「ひ!?」「い、いや!」

 すぐに状況を悟った二人は逃げようとして、足が動かず倒れる。

「な、なんで!」

 ウェネーが足に目を向けると、その先からは血だけが流れており、少し先に切り離された足が転がっていた。

「いやあああああ! わ、私の足が! 足があああああ!」

 アリーネも自分の状況に気がつき悲鳴を上げる。

「ふふふ、兄さんを見殺しにした人達を見逃すわけないじゃないですかぁ」

 いつものおどおどした雰囲気と全く異なるセルトに、二人は痛みすら忘れて息を呑む。その蠱惑的な笑みに背筋が凍りついた。

「ああ、でもアリーネさんには一応感謝してるんですよ? いつも兄さんと私が愛し合えるようにお手伝いをしてくれたから」

「じゃ、じゃあ!」

 ヘルトがセルトを犯す時、常に傷ついたセルトを治療してきたのがアリーネだ。その言葉に助かるのではないかと一瞬期待して、アリーネが顔を輝かせた。

「でも、だーめ」

 その瞬間にアリーネの頭に深々とマタルデオスが突き刺さる。体をビクンと震わせて、そのままアリーネは絶命した。

「兄さんが愛してくれた証を、いくら兄さんの命令だからって、毎回毎回綺麗に消しちゃうんだもん。許せるわけないじゃない」

 残念そうな声で話しながら、セルトは自分の体を抱きしめる。

「あ、あんた、あいつを、ヘルトを恨んでたんじゃないの?」

 唾を飲み込みながらウェネーが尋ねる。少しでも時間を稼いで、必死に生き残る術を探す。

「恨む? なんで?」

 不思議そうにセルトが聞き返した。

「だ、だって、婚約者を目の前で殺されたんでしょ! そ、それに毎日あんなに殴られて、犯されて……」

「うん? それの何が問題なの?」

「え? だ、だって……」

「婚約者はただ兄さんが私に興味を持ってくれるかなって思って、適当に見繕っただけだし。殴られたり、犯されたりって言うけど、あれは兄さんなりの愛情表現なんだよ? むしろ愛されている証なのに、なんで恨む理由になるの?」

 心底ウェネーの疑問を理解出来ないと言うように、セルトは怪訝そうな顔を浮かべた。

「で、でも、ヘルトにどうして人を殺すのかって、聞いてたじゃない! それに複製体の事だってあんなに嫌がってたのに!」

「ああ、あれは兄さんがそんな風に振る舞って欲しいだろうと思ったから、そう演技していただけだよ。私はこれでも尽くすタイプだから、兄さんが望むことはなんでもしてあげたかっただけ。それに複製体? 何言っているの? 当たり前じゃない。兄さんと私は二人で一人。本当にあの人を愛していいのも、あの人に愛されていいのも私だけ。いくら私から作り出されたものだからって、私の顔で兄さんに愛されるだなんて許せるわけがないじゃない」

「く、狂ってる……」

「そう? 私はただ愛した人が双子の兄さんだっただけだよ。それよりも、これ以上聞きたい事は無い? それなら……」

「ま、待って、待ってよ! なんで私を! あの爺さんが殺したのに、なんで私を殺すのよ!」

 半狂乱になってウェネーが叫ぶ。

「もちろん殺すけど、だってあなた、兄さんの事、ヘルトって名前で呼んだよね。それに、兄さんと寝たよね? あ、別にその事についてはあまり怒ってないよ。英雄色を好むっていうし、兄さんが望むことはなんでも叶えてあげたかったから。でもやっぱり名前で呼ぶ事だけは許せなかったかな」

「い、いや!」

 必死になって腕で地面を這いながら逃げようとする。草や石のせいで、腕が傷だらけになり、血が流れてそこら中に飛び散る。

「バイバイ」

 マタルデオスを斜めに振り上げると、セルトはウェネーの首を切り飛ばした。それから、ハンゾーとゴウテンの方に顔を向けると、セルトはニコリと笑う。

「次はあなた達だよ」

~~~~~~~~~~

『ひゃあ、妹ちゃんの方がよっぽど狂ってるね』

 そう呟くと、フィリアが嬉しそうに笑う。

『ええ、ええ、そうでしょう? 彼女には私も期待しているの』

『でも、一体どういうカラクリなのかな? マタルデオスって、おばさんの許可がないと使えないはずじゃないの?』

『ああ、それはね、あの子も言っていたけど、あの子達は元々一つだったの。だから、肉体も魂もあの子達は同一だったって事。ヘルトが死んだ事で、欠けていた魂と力がセルトに流れ込んだのよ』

『ああ、なるほどなるほど、ナギとシオンの天然版みたいなものか。まあ確かにヘルトは今までの勇者と比べると雑魚だったしね』

『そういう事』

『しっかし、狂いすぎてない? あの子、まともに四魔とか使徒とかジン君とかと戦えるの?』

『それは私の腕の見せ所ね』

 そう言うと、フィリアはその芸術品のように美しい顔を綻ばせた。

『へぇ、期待してるよ』

~~~~~~~~~

 研究所には人々を押し込めた檻が多くあった。中にはこの先の事を想像して恐怖する人々や、実験台にされて死にかけの人々が一緒くたにされていた。

 そして、それは突然起こった。

「な、なんだこれは!?」

 一人の男の前で、死にかけの老人が光に包まれ、次の瞬間、体から光の球体が浮かんできた。それと同時に、老人から生気が失われた。同じ現象が同時にさまざまな部屋に置かれていた人々の入った檻で起こった。

「これは一体?」

 その騒ぎを聞きつけて、外で始まった戦いの様子を見に行くのを止めて、ディマンが様子を見にきた。すると彼は光の玉が壁をすり抜けてどこかに飛んでいくのを見つけた。すぐに彼はその方向に誰がいるのか理解した。

「まさか、始まったのか!」

 ディマンは慌てて彼女がいる部屋へと向かう。案の定、扉を開けると、彼女の周囲には無数の光の玉が浮かび、次々に彼女の体に取り込まれていった。

「おお、おお、美しい! ひひ、ひはは、ひははは、ひははははははははははは!」

 その光景を見て、ディマンは狂ったように笑う。虚な瞳を宙に向けて、ナギの記憶を追体験し続けるシオンは、自分の身に今まさに起ころうとしている事に気がつかないままだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました

四折 柊
恋愛
 子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

ゴミ捨て場領主のクラフト無双 ~最弱魔法【分解と合成】で領地を黄金郷に変えたら、俺を見下していた大貴族令嬢たちが掌を返してすり寄ってきた件~

namisan
ファンタジー
東西南北の大貴族から「毒の川」「凶暴な魔獣」「莫大な借金」を押し付けられ、王国の『ゴミ捨て場』と化したローゼンベルク領。 父と兄を謀殺され、その絶望の領地を押し付けられた無能貴族のアークは、領地の分割を企む高慢な令嬢たち(王女、公爵令嬢、姫将軍など)に嘲笑われていた。 だが、彼には現代の知識と、隠された最強チート能力があった! 触れたものを瞬時に素材に戻し、全く別のモノに作り変える神の御業――【分解と合成】。 「毒の川」を分解して『超高価な宝石と純水』へ! 「魔獣の死骸」と「瓦礫」を合成して『絶対に壊れない防壁』へ! 借金取りには新素材を高値で売りつけ、逆に敵の経済を支配していく。 圧倒的なクラフト能力で、瞬く間にゴミ捨て場を「無敵の黄金郷」へと作り変えていくアーク。 己の敗北を悟り、震え上がる悪徳貴族と高慢な令嬢たち。 さらに、アークの圧倒的な知略と底知れぬ実力は、気高い令嬢たちの本能に深く刻み込まれていく。 「どうか、私をあなたの手駒としてお使いください……っ!」 プライドを完全にへし折られた最高位の美少女たちは、いつしかアークの与える『恩恵』なしでは生きられないほど、彼に絶対の忠誠と依存を誓うようになっていく――。 最弱のゴミ捨て場から始まる、爽快クラフト内政&ざまぁファンタジー、堂々開幕!

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

黄金の魔導書使い  -でも、騒動は来ないで欲しいー

志位斗 茂家波
ファンタジー
‥‥‥魔導書(グリモワール)。それは、不思議な儀式によって、人はその書物を手に入れ、そして体の中に取り込むのである。 そんな魔導書の中に、とんでもない力を持つものが、ある時出現し、そしてある少年の手に渡った。 ‥‥うん、出来ればさ、まだまともなのが欲しかった。けれども強すぎる力故に、狙ってくる奴とかが出てきて本当に大変なんだけど!?責任者出てこぉぉぉぃ!! これは、その魔導書を手に入れたが故に、のんびりしたいのに何かしらの騒動に巻き込まれる、ある意味哀れな最強の少年の物語である。 「小説家になろう」様でも投稿しています。作者名は同じです。基本的にストーリー重視ですが、誤字指摘などがあるなら受け付けます。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

処理中です...