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第8章:王国決戦編

理を司る者

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 巨大な爆発音とともに、イースの前方にあった木々が数キロメートル先まで吹き飛び更地になる。その状況を作り出した彼は、突き出していた右手を降ろし、煙が収まるのも待たずにすぐさま法魔がいた場所へと走る。案の定、法魔は自身の周囲にバリアーを張り、事なきを得ていた。

「しっ!」

 上段から振り下ろされる剣を、法魔は張っていたバリアーで受け止める。しかし、それはまるで壁などないかのように容易くバリアーを破壊した。法魔の目が見開かれる。だが剣先が触れる前に法魔は『転移』し、攻撃を回避する。

 一瞬法魔を見失うも、イースはすぐに背後に顔を向けながら後方に走り出す。そこには『転移』したばかりの法魔がいた。

「はあ!」

 横薙ぎの一閃を法魔は、今度は土法術によって作り出した『金剛壁』によって防ごうとする。しかしそれもイースの前に容易く切り裂かれた。

「逃がさんよ!」

 後退したレトに向かって光球を空中に作り出し、放つ。だがそれはレトが再度張ったバリアーに防がれた。

【その剣、特殊な封術具か。この波動、龍麟か】

 剣から漂う力はレトもよく知るものだった。ただ、レトの法術を簡単に破壊出来るほどの龍麟など一つしかない。

【龍魔から造ったものか】

「ご名答。今から数百年前に現れた龍魔の魔核から造り出した剣らしい」

 柄頭の紫色の魔核が怪しく光る。キール神聖王国にはかつて勇者を輩出した国だった。その勇者に倒された龍魔の魔核を用いて様々な武具が造られた。その内のいくつかは勇者の仲間たちが所属していた国に保管してある。この王国にはドラグセイフという龍魔の骨と魔核から造り出した剣が国宝として管理されていた。

【成程、確かにそれなら我の術を破壊する事も出来よう。ただし……】

 レトの言葉を最後まで聞かずにイースが彼女を一刀両断しようと剣を振り下ろす。レトはニヤリと笑いながら右手を剣に差し出す。イースは一瞬不審に思いつつもそのまま切り裂こうとした。しかし、剣は彼女に届く前に見えない何かによって勢いを失っていき、そっと彼女の右手に収まった。軽く摘んでいるように見えるのに、イースが引っ張っても万力のような力で全く剣が動かなくなる。

「何!?」

【確かに龍麟は我にとっての天敵だ。しかしそれも生きていればこそよ】

 確かに魔核によって、剣は龍麟を纏っている。だがレトの言うように、魔核から造られた封術具は言ってみれば死体から生み出したものである。生きている時ほどの力は無い。ジンが持つ、レヴィから直接与えられた龍麟の方が質としては数倍も上である。レトが少し本気を出せば、その力を抑えられるほどの強力な剣ではなかった。

 レトはパッと剣から手を離す。すぐさまイースは距離を取る。レトがそんな彼を見て嘲笑う。

【それに、別に龍麟を持っていたからといって、その剣では我を殺せはしない】

「どういう意味だ?」

 レトは楽しそうに笑い、一言呟く。

【『劣』】

 その途端、ドラグセイフの魔核にヒビが入る。それは徐々に広がっていき、パリンという音とともに魔核が砕けた。

「なっ!?」

 更に剣が柄頭からどんどん錆び始める。それを認識した瞬間に砂のように崩れ出した。しかもそれが剣を握っていた右手に達した途端、手も乾いた土のようにヒビが入り、すぐに崩れ始めた。浸食は止まらずどんどん体に向かってヒビが伸びていく。すでに肘の近くまでヒビが入っていた。

「くっ!」

 すぐさまイースは自分の腕を切断することを決断する。ただし触れることの無いように水法術を用いて腕を切り落とし、そのまま術を用いて止血をする。切り落とされた腕はあっという間に風化し、砂となった。そして吹いてきた風に運ばれ空へと舞い上がっていった。

 切断した腕を押さえながらイースは顔を歪める。

「何をした!」

 歴史書に記された法魔の力は火、水、土、風、光、闇の6属性の法術を扱う、全ての法術を統べるものだとイースは認識していた。しかし、今の力はどの属性にも当てはまらない。つまり、全くの未知の力だということだ。

【なに、少し時間を先に進めただけよ】

「時間……だと? あり得ない、そんな力を法術が持つわけがない!」

 そうは言いつつも、イースはレトの発言が嘘ではないことを心のどこかで理解していた。

【ふむ、どうやら勘違いがあるようだな。まあ、歴史の中で誤った事実が伝わるなど往々にしてあるものだ】

「どういう意味だ?」

【法魔の『法』とは森羅万象全てに存在する理を指す。つまり単なる法術を指すわけではない】
 
 その言葉を聞いてイースは思い出す。

 曰く、法魔とは全ての魔人の中で唯一全属性の法術を使い、世界の理にすら干渉したという。

 それを聞いた時はあくまでも世界の理とは法術で干渉できる範囲のものだとイースは解釈していた。しかし、事象の時を進めるなど、法術で干渉できるレベルを遥かに超えている。もはやイース達人間からすれば神の領域に等しい。

【この世全ての法を司る。それゆえの『法』魔よ】

「……成程な。どうやら想像以上の化け物のようだ。他の四魔達はお前のように埒外の存在なのか?」

 イースはうんざりしたような顔を浮かべながら尋ねる。

【ふむ。どれも一長一短があり、比べるのは難しい所だな。それぞれがそれぞれにとっての天敵になりうるからな。例えば我が扱うのは術である以上龍麟に弱い。龍魔と闘えば負けるだろう。その龍魔も不死に近い死魔を滅ぼすには力不足だ。その死魔も獣を操る獣魔には物量によって敗北するだろう。なにせ不死者の軍団を作っても、それの支配権を獣魔は奪えるからな。そんな獣魔も理に従って生きる以上我には敵わない】

「なんだかジャンケンみたいだな」

【かかかかか! 確かにお主の言う通りだ。まあ、だからと言って我らを倒せる存在など勇者以外にはおらぬだろうがな】

「お前達みたいな化け物を殺せるほどの存在だと言うのか、勇者とは」

【ああ、あれは神の力そのものだ。流石に造物主の力を持つ者には勝てぬ】

「なら、俺の役目は決まったな」

【うむ?】

「お前をここに留めて勇者の到着を待つ!」

 イースはそう言うと残った左手をレトに向けた。そして光法術『極光砲』を放つ。あらゆる法術の中で最速にして最強の貫通力を持つという術だ。相手が光を認識した時点で、既に術はその者を穿っている。イースのそれは、彼が持つ強大な力も相まって威力も速度も規格外だ。

 しかしそれも届けばの話だ。いつの間にかレトは両手の指の先端を合わせて体の前に構えていた。

【『空』】

 彼女を中心に見えない、しかし確かにそこにある空間が広がる。ひどくゆっくり動いているように見えるのに、それは『極光砲』が届く前に展開が完了していた。その空間に達した『極光砲』は歪み、彼女にぶつかる事無く、その横をすり抜けていく。

【残念だったな】

「舐めるなよ!」

 イースは全身に蒼い気を纏う。闘気の最終形『蒼気』。ただし、イースが学び、身につけたそれはハンゾー達のように完全にコントロールしている訳ではない不完全なものである。多大な生命力を使うので禁止されている。しかし法術がまともに通じないのであれば、体術で闘う以外に方法はない。それに少しでも時間を稼げば勇者が来るはずである。そうなればこの現状は巻き返せるはずだ。少し前に勇者ヘルトとセルトにあった事を知らないイースは一縷の望みに賭けて『蒼気』を使う事を決断したのだった。

『全く、王国最強の使徒と言われているのにこの体たらくとはな。だが、俺の命に代えてもこの国は守ってみせる』

 内心で自嘲しながらも改めてイースは誓う。そんな彼の覚悟をレトは嘲笑う。

【本当に美味そうだ】

 唇をペロリと舐める彼女の表情は捕食者のそれだった。
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