ハリーと犬吉

木ノ下 朝陽

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ハリーと犬吉

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ハリーと犬吉は、いとこどうし。
はりねずみとしばいぬだけれど、なぜかいとこどうし。
犬吉がおにいさんで、ハリーがとしした。
まん丸おめめが、おたがいにチャームポイント。

なかよしのはずなのに、なぜかけんかのしどおし。
やんちゃなハリーを、犬吉はおっかけどおし。

ハリーがあぶないことをしやしないか、
ハリーがあぶないめにあいやしないか、
きまじめな犬吉はしんぱいのしどおし。

けっきょく、すばしっこいハリーを犬吉はおっかけどおし。

ハリーは、つかまえようとするといそいで丸まるから、
犬吉のにくきゅうはきずだらけ。
だから、そのたびにけんかになるのだけれど、
やっぱり犬吉はハリーをしんぱいしておっかけどおし。


すこしおおきくなって、やんちゃをあまりしなくなったころ、ハリーはきがついた。

「犬兄ぃは、ぼくをつかまえるたびに、『いたい、いたい』ってなった。
 でもぼくは、犬兄ぃにつかまえられても、ぜんぜんいたくなかった。
 犬兄ぃは、やさしい」



ハリーがそのことにきがついてしばらくたったころ、
ひさしぶりにあった犬吉は、
しじゅうためいきついて、うわのそら。

「犬兄ぃ、どうしたの。ぐあいわるい?」
「ハリー、ちがう。ぼくはしつれんした」
「…シツレン?」
「ぼくのだいすきなおんなのこが、とおくにいっちゃった」
「おてがみ、かけないの?」
「かけるけど、なんてかいたらいいのか、わからない」
「『だいすきです』ってかけばいいよ」
「そんなの、はずかしくてかけないよ」
「犬兄ぃは、そのこにおてがみかくの、はずかしいの?」
「はずかしいよ」
「だったら、『おともだちになってください』って」
「それも、はずかしいよ」
「犬兄ぃは、はずかしいのと、そのこにもうにどとあえないのと、どっちがイヤ?」
「…はずかしいのもイヤだけど、もうにどとあのこにあえないのは、もっとイヤだな」
「だったら、おてがみかきなよ。そっちのほうが、ぜったいにいいよ」
「そうだな…。ハリー、ありがとう」
「どういたしまして、犬兄ぃ」
ふたりは、うまれてはじめて、おたがいに、なんだかくすぐったいようなこころもちで、かおをみあわせてわらった。

それから犬吉は、すこしだけげんきになったみたいだった。



それからもうすこしたって、
犬吉のけっこんしきがあった。

ハリーは、ハリーのおよめさんとしゅっせきした。

犬吉のおよめさんは、犬吉がてがみをかいたおんなのこだった。
「いちどだけだったけど、いじわるしてごめんなさいってかいた」
「犬吉ぃ、いじわるしたの?」
「した。あと、よかったらともだちになってください、って」
「それから、『ともだち』から『およめさん』になってくれたの?」
「なってくれた。…ありがとう、ハリー」
「どういたしまして、犬兄ぃ」

ふたりは、ひさしぶりに、おたがいにくすぐったいようなこころもちで、かおをみあわせてわらった。



ハリーと犬吉は、いとこどうし。
はりねずみとしばいぬだけれども、いとこどうし。
まん丸おめめは、いまでもおたがいにチャームポイント。
もうけんかはしない。ずっとなかよしどうし。
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