とても強い王様の話

木ノ下 朝陽

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とても強い王様の話

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昔むかし、ある大きな国に、とても強い王様がおりました。


とても強い王様は、何でも持っていました。

様々な宝石で彩られた王冠も、
大きくて立派なお城も、
広大な領地も、
働きのあるご家来衆も、
大勢の使用人も、
幾人もの綺麗な女の人達も。



でも王様は、それでは物足りませんでした。

自分はとても強い力を持っているのだから、
それに見合った、もっと沢山のものを手に入れるのが当たり前だ、
…と、王様はそう考えました。



とても強い王様は、
そのとても強い力で、他の国のものも、
自分が手に入れられるだけ、何でも手に入れました。


王様の元々持っていたものよりも、ずっと小さいけれども、ずっと見事な細工の施された王冠も
ずっと美しいお城も
ずっと豊かな領地も。
ずっと大勢の綺麗な女の人達も。



でも、
とても強い王様の、そのとても強い力で手に入れた、大勢の綺麗な女の人達も、
それに、元々王様のお城にいた、幾人もの綺麗な女の人達も、
誰も、王様のことを好きではありませんでした。

何故ならば、
王様は、とても意地の悪い、とても残酷な人だったからです。



綺麗な女の人達は、
王様とは、一緒にごはんを食べたがりませんでした。


王様は、
お料理番が、毎日丹精込めて作る美味しいお料理を
「不味い、まずい」
と文句を言いながら、しかめっ面で食べるのです。

それどころか、
同じテーブルでごはんを食べている女の人が、
そのお料理を美味しそうに食べているのを見ただけで、
たちまち不機嫌になって、癇癪を起こし、
テーブルの上をめちゃめちゃにして、そのままお部屋に閉じこもり、
その女の人が自分に謝りに来るまで、絶対にお部屋の外には出ず、
また、国を治めるお仕事も、一切しなくなります。


その間、
ご家来衆が、王様抜きでお仕事を進めれば、
後で、皆の眼の前で散々に叱り付けた上で、
ご家来衆の一番のまとめ役を、お城でのお仕事から外します。

王様のお世話をする召使いにも、
テーブルの上のお料理にするのと同じように当たり散らします。

なので、女の人が謝りに行かないと、
その女の人は、その間、お城じゅうは元より、国じゅうの皆から嫌われ、憎まれ、恨まれます。


「それなら、最初から一緒にごはんを食べない方がずっとまし」と
いつの頃からか、女の人達は、誰も王様と一緒にごはんを食べなくなりました。



王様は、自分の毎日のごはんを、ずっと上等のご馳走にしました。
そしてその分、女の人達の毎日のごはんを、反対にずっと粗末にしました。


女の人達は、余計に王様とごはんを一緒に食べるのを避けるようになりました。

それどころか、
皆、それぞれに口実を付けて、
それぞれお暇を取り、
それぞれのお里に下がりました。




幾つもの美しい冠と、
幾つものお城と、
前よりもずっと広くなった領地と、
前よりも数は減りましたけれど、働きのあるご家来と、大勢の使用人とを抱えて、
王様は、一人ぼっちになりました。




ある時、

王様の、亡くなった旧い友人の息子で、
新しく別の国の王様の位についたばかりの、若い王様が、
若い王妃様と、幼い王女様とを連れて、
新しく王様の位についた、そのご挨拶にと、
とても強い王様のお城にやってきました。


とても強い王様は、
若く美しい王妃様と、幼く愛らしい王女様とを、
一目見た途端に、欲しくて欲しくてたまらなくなり、
若い王様に、若い王妃様と幼い王女様とを譲ってくれるように頼みました。

若い王様は、とても強い王様の頼みというのを聞いて大変に驚き、断りました。



とても強い王様は、家来に命じて若い王様を牢屋に閉じ込めて鎖に繋ぎ、

それから、若い王妃様と幼い王女様とを捕まえて、
若い王様のいる牢屋の前に引き摺り出し、
まず、若い王妃様と、それから幼い王女様とが見ているその前で
若い王様を、牢屋の役人に散々に叩かせました。

「お前が言うことを肯かなければ、この男をこのまま死ぬまで叩かせる」

若い王様のお連れ合いの王妃様は、泣き叫ぶ幼い王女様を胸に抱え込みながら答えました。

「私の夫である我が国の王が、あんなに叩かれても首を縦に振らないのです。
私が勝手に貴方の言うことを肯く訳には参りません」


若い王妃様の言葉を聞いた、とても強い王様は、
剣を抜いて、まず、若い王妃様が必死に抱きかかえている、幼い王女様を取り上げようとしました。
若い王妃様は、王女様を奪われまいと揉み合うはずみに、
とても強い王様の剣に脇腹を突き刺されました。


その一部始終を、
鎖に繋がれ、傷だらけで血だらけのまま、成す術も無く目をみはって見ていた、
牢屋の中の若い王様が、牢屋の鉄格子に齧りついて叫びました。
「ひとごろし!!妻のかたき…!!」

それを聞いて、強い王様は牢屋の役人に喚きました。
「その男も殺してしまえ!」
若い王様は、頭を打ち砕かれました。


幼く可愛らしい王女様は、
お父様である若い王様の亡骸と入れ替わりに、牢屋の鎖に繋がれました。



若い王様には、大勢のご家来衆が随いて来ていました。

王様は、若い王様のご家来衆をも捕まえようとしましたが、
その全員を捕まえることはできませんでした。

若い王様のご家来衆は、半数ほどがお城の外に逃れ、
更にその半数が、大急ぎで何とか自分達のお城に辿り着くと、

王様の位についたばかりの若い王様が、
そのご挨拶に行った先の、
とても強くて残酷な王様に捕まり、
王妃様とともどもに殺され、
王女様は牢屋に閉じ込められた、…と告げました。


若い王様のお留守の間、
若い王様の亡きお父上の弟御で、
若い王様の叔父上である将軍が、国を治めるお仕事をしていました。


とても強い王様は、
若い王様のお父上である、亡くなった先の王様とは、旧い友人でしたが、
その弟御で、若い王様の叔父上でもある将軍とは、一度も会ったことがありませんでした。


将軍は、逃げ延びてきたご家来衆からの知らせを聞き、
まず、とても強い王様の治める国以外の全ての国に、出せるだけ使いを出すと、

自分の甥である、
王様になったばかりの若い王様が、
そのご挨拶に行った先の国の、とても強い王様のお城で、
一緒に行った自分の王妃様と王女様とを譲れと言われたのを断ったことで、王妃様と王女様ともどもに捕まり
若い王様と若いお妃様は殺され、
王女様は捕まって牢屋に繋がれていること、
自分はこれから、王女様を助け出す為に兵を出すことを伝え、
ついては自分に協力して欲しいと頼みました。


半分くらいの国々は、とても強い王様を恐れて尻込みをしましたが、
残りの半分くらいの国々からは、
甥御でもある若い王様と、そのお連れ合いの若い王妃様とを一度に亡くした将軍への協力を取り付けることができました。



将軍は兵を率いて、とても強い王様の国に攻め込みました。


激しい戦いなどありませんでした。

若い王様とその王妃様が殺された事情に加えて、
とても強い王様が、とても意地の悪い、とても残酷な人だという噂が、
とても強い王様の国の外でも、また内側でも、いつの間にか広まっていたのです。




王様の元からお暇を取ってお里に下がった女の人達、
お城でのお仕事から外されて、お城を出されたご家来衆、
自分が丹精込めて拵えた料理を、八つ当たりでめちゃめちゃにされたお料理番、
そのお料理と同様に、八つ当たりで辛く当たられたお世話係、

とても強い王様に、
王冠やお城や領地を奪われ、
その名前を消された国に住んでいた人達。

そして、彼等の親族や友達。


とても強い王様は、
そのとても強い力を振るいつづけるうちに、
いつの間にか、世界中を敵に回し、
本当に独りぼっちになっていたのでした。


中には、戦わない兵士達に矢を射掛けさせる、とても強い王様のお国の偉い人もいましたが、
そういう人は、実際に矢を射掛けた兵士達ごと、
本来の味方である、
戦わないからと矢を射掛けられた兵士達を含む、ずっと大勢の人達から、
寄って集っての袋叩きの目に遭わされました。



将軍の軍勢は、まともな戦など殆どないままに、
とても強い王様のお城に攻め込みました。




とても強い王様は、もはや強くなどなくなっていました。


お城のご家来衆にも使用人達にも、
もはや王様を守ろうなどという者はおりませんでした。


目端の利く者は、
敵軍が攻め込んでくるという知らせを耳にした時点で、
早々に王様の貯め込んだ財宝を掠めて逃げ出し、

そうでない者も、敵の姿を見て恐れ、
或いは身ひとつで逃れ、
或いは抵抗ひとつしないままに、急ごしらえの白い旗を掲げました。



全く強くなくなった王様は、
鎧を出して身に着ける余裕もなく、
苦し紛れに、ふと、牢屋に繋いだままの王女様を盾にして落ち延びようと思い付き、
牢屋の鍵と剣とを手に、暗いお城の地下に降りました。


王様が牢屋の前まで来た時、
幼く可愛らしい王女様は、ひどくぐったりとした様子で眠っていました。

王様は牢屋の鍵を開け、
中に入ろうとして、寸前で足を止めました。


王様の目には、
爆ぜたざくろのような頭の若い王様と、
脇腹から血を滴らせたままの若い王妃様、
それに、先に亡くなった、自分の旧いご友人の三人が、
王女様を護るように立ち塞がり、
蒼い顔でこちらを睨んでいる姿が映っていました。



「……我等が国王ご夫妻、
 いや、…我が甥夫婦のかたき…!!」


不意に、あの日の若い王様の叫びとよく似た響きを持った声が、王様の後るで響くと、
王様は、背中から胸に掛けて、後ろから氷柱を突き入れられたように冷たくなって、
すぐに、それが燃え盛る火に変わったかのように熱くなりました。

王様は、どんどんと眼の前が昏くなる中で、
蒼い顔の三人が、
蒼い顔のまま一様に、にいぃ…と唇の両端を吊り上げて笑うのを見ました。



……ドコデマチガッタノダロウカ、
タダ シアワセニナリタカッタダケナノニ……

という溜息が、王様の喉の奥から吐き出され、
そして、王様は金輪際、
誰かに当たり散らすことも、
誰かに意地の悪い、残酷な仕打ちをすることも、
誰かから大切な何かを奪い取ることも、
もちろん、何かを見ることも、
何かを聞くことも、
何かを話すこともできなくなったのでした。



将軍は、王様の死骸から、剣を引き抜いて血を払うと、
牢屋の中で一人眠っていた幼い王女様の鎖を解いて、
亡くなった若い王様とその王妃様を弔うために、
率いてきた兵たちと共に、自分達の国に還りました。



(2023-11-20)
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