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序章
序章
しおりを挟む青々とした草原。風に揺れる花々。
それらを踏みしめて、春空の下を駆けまわる少年少女。
楽しそうなはしゃぎ声が、窓を介して聞こえてくる。
その様子を、羨むでも妬むでもなく、ただ微笑ましく見つめていた。
熱で火照った身体をベッドに沈めて、目を閉じる。
眠れず何度も寝返りするが、咳が喉を刺すばかり。
治ったと思ったらまたぶり返す。
気づけばもう、ずっと部屋から出れていない。
「ーゴホッ、ゴホ」
何度目かの咳をした時、部屋のドアが勢いよく開いた。
「ルタ、読み書きを教えてくれ」
僕の様子を気にも留めず、鉛筆と紙を持ってズカズカと入ってくる。
「…レイア、ノックしてっていつも、ゴホ!ゴホッ」
「ごめん。忘れてた」
いつも通り無機質な返事が返ってくる。
表情こそ動かないが、それはいつものこと。
「こら、レイア。ルタは風邪引いてるんだからダメだ」
「そっとしといてあげましょう」
後からカイとアイリスも入ってくる。
しっかり者のカイに叱られて悲しかったのか、黙り込んでしまった。
すかさずアイリスがフォローに入る。
「天気も良いですし、私達と鬼ごっこしましょう!」
「いい。アイリス達、遅いからつまらない」
はっきり言われてしまい、さすがにショックを受けるアイリス。
漂うカオスな空気に、息がしづらかった。
「遅いって言うけど、お前が速すぎるだけだからな。本当に女か?」
カイの言葉に少し口を尖らせる。
「…速いのと、性別は関係ない。」
正論で返されたことに腹を立て、クールなカイもお手上げだ。
「なんか言ってやれよ、ルタ」
何も考えていなかった僕は、しどろもどろな口調でこう言った。
「ま、まぁ…レイアのしたいようにすればいい、と思う…」
少しの沈黙が流れた後、呆れたようにカイが声を上げた。
「お前がそんなだから、コイツが調子乗るんだよ」
「ご、ごめん…」
なぜか僕まで叱られる羽目になってしまった。
横目でレイアを見ると、僅かに口角が上がっていた。
その姿が何とも可愛らしくて、胸がキュンと力なく鳴く。
「お前たち、そろそろ時間じゃ。」
話が落ち着いたところで、キース先生が入ってくる。
時間、というのは、恐らく継承式のことだろう。
数十年に一度、村の広場で行われる。村人は全員出席の式だ。
「ルタ、行けそうか?」
僕の額に手を置く。しわだらけの、少し乾燥した手。
幸い、熱はそこまで高くなかった。
この程度なら、式に少し顔を出すくらいならできる。
念のため薬を持って、僕たちは日が傾き始めた街へ出た。
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