聖魔の救済者

港瀬つかさ

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3.海のあお 空のあお

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 幸いなるかな、遠き世界の果てにありし海よ。幸いなるかな、遙かなる高みにありし空よ。汝らの麗しき『あお』を継ぐ子に、幸いあれ。否や、その生き行く先に幸いを約束し給え。

 彼の、救済の運命を背負いし、幼き勇者に、幸いあれ。


「いい加減にしろと俺は言っているだろうが、この外道勇者!」
「誰が外道だ、誰が。俺は自分に素直に生きてるだけだ。」
「それが外道だと言うんだ!」

 怒鳴りつけているのは、邪神。平然としてそれを聞き流しているのは、勇者。ある意味物凄く逆の行動を取っている、2つの影。一応この2人、世界救済の使命を帯びた、勇者と邪神である。

「そもそも貴様、自分が勇者だという自覚はあるのか?」
「あるに決まってる。一般市民の前では勇者やってるだろう?」
「その二面性をどうにかしろと俺は言っている!!」
「仕方ないだろう?俺の本性はこっちなんだから。」

 そう言って、晴れやかに微笑むフーア。その足下には、無惨にも踏みつけられた野盗の姿があった。既に魔法と剣技でボロボロにされている、生きているのが不思議な位の重傷を負った野盗達である。それを楽しげに足蹴にしながら、勇者は笑顔を浮かべていた。
 これが魔物であったなら、多分アズルも何も言わなかったのだ。だがしかし、一応人間達の希望の星である勇者サマ。そんなフーアが、ボコボコにした野盗を足蹴にし、むしろ高笑いでも浮かべた方が相応しいようなポーズを取っている。そもそも、天使の笑顔でそんなことをされても困るのだ。
 青の瞳が、にこやかに笑っている。楽しげである。ものすっごく、楽しげである。一度アズルは聞いてみたかった。何故皆はこれを勇者とし、世界救済を委ねたのか、と。危険どころの騒ぎではないと邪神は密かに思うのである。

「勇者である俺に刃向かうこいつらが悪い。」
「…………それなら、さっさととどめを刺すなり役所につきつけるなりしてやれ。何時までも貴様に足蹴にされていては哀れだ。」
「なんで?俺は楽しいぜ。」
「お前は、自分の称号と、外見を、どう理解しているんだ?!」

 称号、天才とか英雄とか言う形容のつく、勇者サマ。外見、黙っていれば天使と見まごうような絶世の美少年。しかも付け加えるならば、どちらかというと中性的。そんな素晴らしいモノを持っているフーアの中身は、只の極悪。自己中我が儘俺様、ついでに毒舌サド。
 色々な意味で間違っていると、冷酷非道な(筈の)邪神は思う。どうでも良いが、フーアと知り合ってから、アズルはこの調子だ。主にツッコミ役として存在している。むしろ、常識人的感覚が染みつき始めている。
 彼は確かに邪神だが、邪神故に勇者に対する理想がある。あくまでも彼等に敵対する、光に満ち溢れた存在。そうでなければいけないのだ。汚れなく清廉で、何処までも心優しく真っ直ぐで。


 ………………フーアとは、限りなく懸け離れていた。


「そもそも、お前は何故勇者になったんだ?」
「12歳の時にダークドラゴンを倒しちまったから。」
「…………はぁ?」
「で、俺はガキの頃から救済者になると予言されていて、その言いつけ通りに勇者になっちまったんだよ。お陰で今こうして、世界救済の旅をしているわけだ。」
「何処の何奴だ、貴様にそんな予言を与えた大馬鹿は。」
「…………オメガ神殿の神殿長。」
「何ぃぃぃぃっ?!!!!!!」

 オメガ神殿といえば、もっとも有力な実力者が揃う神殿。その神殿の主な役目は、占いと預言。その神殿の神殿長の言葉となれば、嘘ではない。というか、偽りなど告げるわけがないのである。
 アズルは、頭が痛くなってきた。預言するにしても、もう少し性格を選んで欲しかった。世界は広いのだから、もっと勇者に相応しいのもいただろうに。そんなことを考える彼は、だんだんと邪神から離れている。その、性格というか、考え方というかが。
 晴れ渡った空のように、澄み切った海のように、何処までも鮮やかな『あお』の瞳が、楽しげに笑っていた。それを見て、アズルは赤の双眸を細める。ならばせめて、少しは押さえつけておこう。そんなことを、彼は思った。


 とりあえず、勇者と邪神の旅は、続いている…………。
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