5 / 53
5.白夜
しおりを挟む
日が暮れることなく、空に光が満ちている。あぁ、今日は白夜であったのか。そんなことを想いながら俺は、傍らで火を熾す少年を見た。枯れ枝をくべて火を大きくし、串に刺した魚や肉をその周囲に突き立てている。
そう言った野宿姿と、何処までも重ならない少年。時折爆ぜた火の粉が飛び、それをゆっくりとした動作で払い落としている。肉や魚が焼けるのを待ちながら、先に作ったスープを飲んでいた。人間とは、厄介なモノ。いや、殆どの種族が、厄介と言うべきなのか。
睡眠を必要とし、食事を必要とする。俺のような邪神にとっては、何処までも無縁なその行動。けれど時折、思いつきのようにフーアは俺を見る。食べるかと、屈託無く笑う姿は幼い子供。或いは、それが、この少年の最も本性に近いモノなのかも知れない。
何時からだ?歪であると、感じ始めたのは。勇者として歪んでいると言うよりは、何かヒトとして歪んでいる。それが一体何であるのかを理解できぬままに、俺は逃れる術を模索することなくフーアの傍にいる。
世界を、救う。そんなことは本来、どうでも良いのだ。そう、どうでも良い。滅ぶのならば滅びてしまえばいいと、思う。どうせ俺は、封印されていた、はみ出し者の邪神なのだから。
「白夜だったら、階段登ってれば良かったな。」
「光が強すぎて目が眩むぞ。」
「そうなのか?」
「光の神の影響を受けて、祭壇付近はかなりの発光量になる。邪神の俺ならいざ知らず、人間の貴様では眼を灼かれる。」
「お前、物知りだな。いやー、お買い得物件、お買い得物件v」
「…………ヲイ。」
言うに事欠いてそれはどういう事なのだろうか、このクソガキは。一度でも、見直そうと思ったことがある自分を、俺は恥じた。こいつを見直すことなど、一生有り得ん。むしろ、そのねじ曲がった性根をたたき直さねば。
そんな決意を固めかけて、俺はふと気付くのだ。何故、邪神の俺がそんな決意を固めるのか、と。放置しておけばいいのだ。確かに今は限りなく邪魔でうっとおしく、尚かつ俺に対して実害ありまくりだが。全てが終わった後に困るのは、俺ではなく人間達だ。
…………こいつが、俺を解放するというのなら。
一瞬、不可能かも知れないと思った。何故かは解らないが、物凄く気に入られてしまっているのだ。どうしてだ?何故この拗くれ曲がった勇者が俺を気に入る?その理由が、俺にはまだ解らない。
焼けた肉を串にかぶりついて食べる姿が見える。天使の美貌がそういう生々しいことをするのは、はっきり言ってあまり嬉しくなかった。背中に翼がないのが不思議な程の顔立ちをしているのだ、一応。
とはいえ、まぁ。まだ大人しい方なのだ、これで。外見と中身が一致していないとはいえ、17歳の少年だ。荒っぽかったりするのは、普通だろう。
そんな風に考える自分の思考に、それは只の現実逃避だと告げる、もう1人の自分がいた…………。
そう言った野宿姿と、何処までも重ならない少年。時折爆ぜた火の粉が飛び、それをゆっくりとした動作で払い落としている。肉や魚が焼けるのを待ちながら、先に作ったスープを飲んでいた。人間とは、厄介なモノ。いや、殆どの種族が、厄介と言うべきなのか。
睡眠を必要とし、食事を必要とする。俺のような邪神にとっては、何処までも無縁なその行動。けれど時折、思いつきのようにフーアは俺を見る。食べるかと、屈託無く笑う姿は幼い子供。或いは、それが、この少年の最も本性に近いモノなのかも知れない。
何時からだ?歪であると、感じ始めたのは。勇者として歪んでいると言うよりは、何かヒトとして歪んでいる。それが一体何であるのかを理解できぬままに、俺は逃れる術を模索することなくフーアの傍にいる。
世界を、救う。そんなことは本来、どうでも良いのだ。そう、どうでも良い。滅ぶのならば滅びてしまえばいいと、思う。どうせ俺は、封印されていた、はみ出し者の邪神なのだから。
「白夜だったら、階段登ってれば良かったな。」
「光が強すぎて目が眩むぞ。」
「そうなのか?」
「光の神の影響を受けて、祭壇付近はかなりの発光量になる。邪神の俺ならいざ知らず、人間の貴様では眼を灼かれる。」
「お前、物知りだな。いやー、お買い得物件、お買い得物件v」
「…………ヲイ。」
言うに事欠いてそれはどういう事なのだろうか、このクソガキは。一度でも、見直そうと思ったことがある自分を、俺は恥じた。こいつを見直すことなど、一生有り得ん。むしろ、そのねじ曲がった性根をたたき直さねば。
そんな決意を固めかけて、俺はふと気付くのだ。何故、邪神の俺がそんな決意を固めるのか、と。放置しておけばいいのだ。確かに今は限りなく邪魔でうっとおしく、尚かつ俺に対して実害ありまくりだが。全てが終わった後に困るのは、俺ではなく人間達だ。
…………こいつが、俺を解放するというのなら。
一瞬、不可能かも知れないと思った。何故かは解らないが、物凄く気に入られてしまっているのだ。どうしてだ?何故この拗くれ曲がった勇者が俺を気に入る?その理由が、俺にはまだ解らない。
焼けた肉を串にかぶりついて食べる姿が見える。天使の美貌がそういう生々しいことをするのは、はっきり言ってあまり嬉しくなかった。背中に翼がないのが不思議な程の顔立ちをしているのだ、一応。
とはいえ、まぁ。まだ大人しい方なのだ、これで。外見と中身が一致していないとはいえ、17歳の少年だ。荒っぽかったりするのは、普通だろう。
そんな風に考える自分の思考に、それは只の現実逃避だと告げる、もう1人の自分がいた…………。
0
あなたにおすすめの小説
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
魅了の対価
しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。
彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。
ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。
アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。
淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる