聖魔の救済者

港瀬つかさ

文字の大きさ
14 / 53

13.笑顔の裏の涙

しおりを挟む
 オカアサン。僕を見て。僕を愛して。どうして僕を見てくれないの。僕は、いらない子供なの?どうして僕を、愛してくれないの?


 愛してくれないなら、どうして、僕を産んだの…………?


 …………久しぶりに、嫌な夢を見た。理由は何だろうか。あぁ、そうか。昨日、買い物をしているらしい母親と少年を見たからだ。仲の良さそうな親子だった。優しい笑顔の母親と、屈託なく笑う少年と。
 俺の母親は、俺に優しくないヒトだった。幼い子供が求める優しさを、与えてくれないヒトだった。あのヒトが俺に求めたのは、ただ勇者としてあることだけ。立派な勇者になりなさいと、口癖の様に言っていた。けれど、ただ、それだけなのだ。
 抱きしめて欲しかった時も。口付けて欲しかった時も。微笑みかけて欲しかった時も。優しい言葉を与えて欲しかった時も。慰めて欲しかった時も。あの人がくれたのは、『立派な勇者になりなさい。』という言葉。
 笑顔で、頷いた。解りました、母上。まるでゼンマイ仕掛けのカラクリの様に、そう答えた。それ以外のことをすると、母親はひどく冷たい目をした。強くて立派な勇者になること。そうしなければ俺は、勇者としてさえも、あの人の視界には入れなかった。
 笑顔だった。誰に会う時も、どんな時も。幼い頃の俺は、ただ、笑顔だった。仮面の様に、出来の悪い人形の様に、いつも笑っていた。辛い時も、哀しい時も。どれほど苦しくても、俺は笑顔を捨てることが出来なかった。
 母さん。俺は、欲しかった。ただ、それだけだった。俺という存在を認めてくれる優しさが、欲しかった。けれど貴方には、俺はいらない子供だったんだ。弟妹達ばかりに優しい笑みを見せる貴方にとって、俺は、勇者としてしか存在価値のない、子供だったのだろう?


 あの頃、笑顔の裏で涙した俺を、一体誰が知っていてるだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私は逃げ出すことにした

頭フェアリータイプ
ファンタジー
天涯孤独の身の上の少女は嫌いな男から逃げ出した。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

魅了の対価

しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。 彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。 ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。 アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。 淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。

奪った代償は大きい

みりぐらむ
恋愛
サーシャは、生まれつき魔力を吸収する能力が低かった。 そんなサーシャに王宮魔法使いの婚約者ができて……? 小説家になろうに投稿していたものです

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

処理中です...