聖魔の救済者

港瀬つかさ

文字の大きさ
24 / 53

23.精霊は踊る

しおりを挟む
「…………なんだ、これは。」
「アァ、祭りの日だったのか、今日は。」
「祭り?」
「この辺り一帯の精霊達が集まって騒ぐ、年に一度の祭り。」

 平然と答えられた内容に、アズルはがっくりと肩を落とした。彼等の視界では、楽しそうに声を上げながら、精霊達が踊っていた。きゃらきゃらと、高い声で騒ぐ様は煩い。確かに踊る姿は美麗だが、幼い子供のような騒ぎ声は耳に痛かった。まして、昼間散々フーアに苛められた後とあっては。
 ちらりと、アズルはフーアを見た。少年は、物凄くご機嫌だった。そんなに俺を苛めたのが楽しかったか?体内の魔力を三分の一程奪われた邪神は、未だに痛みを訴える身体を引きずるようにして歩きながら、少しだけ哀しくなった。ちなみに、今現在の彼には浮遊する元気がないのだ。

「ちょうど良いから混ざっていくか?」
「……行ってこい。俺はここで見ている。」
「何で?」
「…………疲れた。」
「あ、そう。じゃ、ちょっと遊んでくる。賢く待ってろよ。」
「お前も暴れるなよ。」
「失礼だな。精霊達の前で、そんな事するわけ無いだろう?」

 キラキラしい笑顔を残して、フーアは走っていった。近場の木の幹に背中を預けて、アズルは溜め息をついた。精霊達が、勇者の登場にわっと沸いた。確かに沸くだろうなと、アズルは思う。黄金の髪に青の双眸の、美貌の救済の勇者。精霊達にしてみれば、この世界唯一の希望が目の前にいるのである。
 本性は単なる外道なんだぞ。口にしたところで誰も信じないと解っているので、アズルはあえて沈黙していた。それでも、心の中では罵詈雑言の嵐なのだが。
 そもそも、彼は不幸なのである。大人しく封印されていたところをいきなり叩き起こされ、意識が覚醒したと思ったら突然の下僕宣言。それでも仕方なくついて行ってみれば、勇者であるはずの少年の行動は単なる外道。何時の間にやら常識人的な考えが定着してしまった、彼は世界一不幸な邪神であった。

「……精霊と踊って、何が楽しいんだか……。」

 やれやれとぼやきながら、その瞳が不意に和らぐ。偽りのモノではない、心底からの晴れやかな笑み。それがフーアの顔に浮かんでいるのを見て取って、らしくもなく彼は、安堵していた。まだあの少年にも、素直に笑える感情があるのだと知って。
 そして、その事実に彼は気付く。自分がフーアを気にかけている事。彼が普通である事に安堵している事。そんな、異質な感情を持ってしまった自分の事。眉間に皺を刻み、その妙な変化に彼は戸惑った。彼はあくまで、単なる邪神にすぎないというのに。


 踊る精霊達の輪の中で、勇者の少年はただ、幼い子供のように、無邪気に笑っていた…………。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私は逃げ出すことにした

頭フェアリータイプ
ファンタジー
天涯孤独の身の上の少女は嫌いな男から逃げ出した。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

魅了の対価

しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。 彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。 ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。 アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。 淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。

奪った代償は大きい

みりぐらむ
恋愛
サーシャは、生まれつき魔力を吸収する能力が低かった。 そんなサーシャに王宮魔法使いの婚約者ができて……? 小説家になろうに投稿していたものです

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

処理中です...