聖魔の救済者

港瀬つかさ

文字の大きさ
41 / 53

40.慟哭

しおりを挟む
 知られたくなかった。知って欲しいと願いながら何処かで思っていた。お前にだけは、知られたくないと。矛盾し続ける感情を制御できない。けれど俺は、やはりお前には、知られたくなかったのだろう。


 俺という存在の異端性を、お前にだけは、知られたくなかった。


「……フーア、お前……。」
「……ばれたか。」

 驚いた顔をするアズルを見て、俺は肩を竦めた。うっかりしてた。沐浴をするのは結構好きだが、見られる事を失念してた。それとも俺は、何処かで知られても良いと思ってたんだろうか。……そうなのかもしれない。
 ばさりと羽織っていたタオルを身体から落とす。陽に灼けない体質の所為か、肌の色は白い。鍛えてきたから、筋肉はしっかりと付いてるだろう。アズルが呆然として俺の身体を見ている。そう、あるべきモノがない。

「お前は、一体……。」
「世間体が悪いから男だっていってるだけで、俺は無性体だ。」
「……馬鹿な……。無性体は禁忌の交わりによって生まれると……。」
「そ。呪いを受けている者との交わりや、ありがちな近親相姦だな。俺がどの場合だったかは、ま、気にするな。それでも俺は俺だ。」

 なるべくサラリといってやる。その方が、負担も小さいだろう。アズルの沈黙を無視して、俺はさっさと服を着る。顔立ちが中性的な事も、無性体と関係あるんだろう。ただ、声は少年で通る声だったから、まだ良かった。そうやって俺は、少年として生きてきた。
 不意に、肩に掌が触れる。顔半分だけで振り返ると、アズルが俺を見ていた。真っ直ぐな瞳だった。そこに憐れみがなかった事は、俺にとって救いだった。

「哀しくはないのか?」
「哀しい?俺は生まれた時からこの身体だぞ?確かに結婚したところで子供は望めない。だが、別に良い。」
「…………泣きたい時は泣けばいい。」
「…………ッ。」

 耳を、塞いでしまいたかった。言うな。その言葉を俺に聞かせるな。俺は、そんなに弱くない。弱くなんて、ない…………ッ!
 喉を嗚咽が走り抜ける。身体の力が抜けて、押し寄せてくる感情に翻弄される。こんな身体に生んだ親を恨んだ事はない。けれど、見て貰えないのはこの所為なのかと思った事はあった。俺は自分が嫌いだった。大嫌いだった。
 背後から、抱きしめてくれる腕を感じた。長身のアズルの胸に頭が当たり、鼓動を感じる。頬を、涙が伝った。何故泣いているのかすら解らない。哀しかったのか、苦しかったのか、それとも嬉しかったのか。何一つ解らないままに、俺は泣いていた。
  
「お前は何一つ悪くはない。罪など無い。」
「……違う、俺は……。」
「たとえそうであったとしても、お前は今生きている。生きているんだ、フーア……。」
「…………ぁ。」

 俺は罪の証として生まれた人間だった。だから母親は俺を愛してくれなかった。だから父親は俺が生まれる前に死んでしまった。だから祖父は俺を見てくれなかった。俺を肯定してくれる存在など、いなかった。
 お前が、肯定してくれるのか。俺が生きている事を認めてくれるのか。俺を個人として認識してくれるのか。邪神である、お前が。


 喜びでもなく、哀しみでもないこの感情を、何と表現して良いのか、俺には解らないんだ…………。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね

章槻雅希
ファンタジー
 よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。 『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...