かわいらしきもの、お猫様。

あまくに みか

文字の大きさ
3 / 6

3話 マッチョなお猫様

しおりを挟む
 二代目お猫様は、アビシニアンのオスで、名前はマロンである。

 オレンジ色の毛並みが特徴的で、キリッとした金色の目が凛々しく頼もしい。


 そんなマロンは、たいそう猫らしくなかった。


 外に遊びに行けば下校途中の小学生が「ひやぁああ」と悲鳴をあげる。

「変なチワワがいるー!」

 うちのお猫様である。

 山の中を日々駆け巡り、蛇や鳥、ネズミを狩って過ごしているマロンは、筋肉がムキムキであった。特に前足は、筋肉がモッコリしていた。


 彼の猫パンチは、相当に鍛え上げられ、一撃必殺の重撃だったにちがいない。私がネズミなら、出会いたくない猫ナンバーワン(ニャン)にするだろう。


 そんなマッチョな猫が、筋肉をフリフリ見せびらかしながら道を横切るものだから、小学生たちは足を止めて、マロンが通り過ぎるのを目を皿のようにして見送った。

 私は玄関のドアからその様子を涙ながらに、そっと見守っていた。

 ああ、どうしたらマロンは猫らしくなるのだろうか。


 嘆く私に一条の光が差した。
 そう、マロンも猫らしさを垣間見せる時があるのだ。

 それは、冬の時だ。


 猫は、コタツで、丸くなるのだ!!


 まさに、猫らしさを存分に発揮し、それを愛でる時期が一瞬だけ訪れる。


 コタツの分厚い布団をめくりあげる。
 すると、そこは、猫の楽園である。

「ふにゃーん」

 と思わず腑抜けた声が出てしまうほど、コタツと猫のコラボレーションは素晴らしい。


 神よ、コタツを生み出してくれてありがとう!
 いや、猫を創ってくれてありがとう!


 マロンはコタツの中で、丸くなっている。アンモニャイトのように丸くなっている。


 そこに私が滑り込み、猫の円のど真ん中に顔を埋めるのである。


 お日様の匂いがする。幸せの匂いだ。
 呼吸にあわせて、毛並みが上下するのも心地が良い。
 オレンジ色の草原に寝転んだ気分になり、私の心は宇宙まで解き放たれていく。そう、猫は無限大の可能性を秘めている!



 その時だ。

 パッカーン。

 

 オレンジ色の草原が大きく揺らいで、地面が隆起した。何事か! と私は顔を上げる。


 お猫様は伸びきっていた。
 それはもう、餅のごとく伸びていた。



 股関節はどうなっているのかと、問いただしたくなるほどお股を全開に広げている。両手は伸びきって、万歳三唱。

 まるでビールを呑んでいるおっさんが「うぇーい」と声を上げながら道端で眠ってしまったような格好である。


 猫がこんなに無防備でいいのだろうか。
 
 
 私はふとイタズラをしてみたくなった。
 伸びきった猫の、無防備なお腹に唇をあてる。そして、息をぶーっと吐いた。

 ビクリとお猫様が体を揺らしてから、上半身を起こした。
 私と目が合った。
 金色の鋭い目が私を見ていた。


「えへへ」


 私は猫を被って可愛らしく笑ってみせた。

 次の瞬間。あのムキムキの前足が私の口めがけて飛んできたのだ。


 私は口を押さえて、おずおずとコタツから退却する。

 私が人間でよかった。
 ネズミだったら死んでいたにちがいない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

思いを込めてあなたに贈る

あんど もあ
ファンタジー
ファナの母が亡くなった二ヶ月後に、父は新しい妻とその妻との間に生まれた赤ん坊を家に連れて来た。義母は、お前はもうこの家の後継者では無いと母から受け継いだ家宝のネックレスを奪うが、そのネックレスは……。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

【完結】そんなに好きなら、そっちへ行けば?

雨雲レーダー
恋愛
侯爵令嬢クラリスは、王太子ユリウスから一方的に婚約破棄を告げられる。 理由は、平民の美少女リナリアに心を奪われたから。 クラリスはただ微笑み、こう返す。 「そんなに好きなら、そっちへ行けば?」 そうして物語は終わる……はずだった。 けれど、ここからすべてが狂い始める。 *完結まで予約投稿済みです。 *1日3回更新(7時・12時・18時)

処理中です...