かわいらしきもの、お猫様。

あまくに みか

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最終話 私は人間で、君はお猫様。

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 小一の頃から結婚するまで、私の隣には常にお猫様の存在があった。

 だが結婚して実家を離れた時、私はお猫様不在の生活に猫ロスという名の発作を起こしてしまう。



 新居の床をさっと素早く視線で追う。
 いない。
 なぜ。ないのだ。
 床に毛玉が動いていないのはなぜか!

 旦那さんを捕まえて、首をクンクンしてみた。
 ちがう。
 この匂いではない!
 耳も三角じゃないし、尻尾も生えていない!
 ヒゲは生えているけれど、こんなんじゃない!

 これは、人間だあああぁぁ!



 私は重度のホームシックならぬ、猫シックに陥っていた。
 



 そして、旦那さんが夜勤の日。
 私はこっそり荷物をまとめて、お猫様に会いに実家に戻った。


 猫は、いた。


 前足をお行儀よく揃えて、久しぶりに帰ってきた私を見つめ、そして目をきゅっと瞑った。


『おかえり』


 そう言われた気がした。
 駆け寄って抱き上げて、顔を毛に埋める。
 懐かしい、匂い。太陽の匂い。


『まったく、しょうがない子ね』
 

 みーちゃんは私の顔を舐める。
 ついこの間まで子どもで、友達で、親友だった猫は、いつの間にか私より歳上になっていた。


 同じ生き物でも、時間は同じではない。
 いつかは、本当の別れがやってくる。

 それはケビンの時も、マロンの時も、唐突にやってきたことだった。

 
「長生きしてよ。また、帰ってくるから」


 私は人間で。
 君はお猫様。

 言葉も通じないし、ひょっとしたら感情だって同じじゃないのかもしれない。


 でも、君は大切な家族。


 言葉は通じなくても、感じていることはちがくても、一緒にすごした時間は、私たちの間になにかを生み出した。

 それは、あたたかくて、やさしくて。
 春の野に咲く、一輪のたんぽぽのようなもの。
 そこにあることが当たり前なのに、外国の黄色で塗ったように眩しくて、心にいつまでも残り続ける。



 猫は、けしからん。
 だって、かわいいもの。
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