4 / 105
-04℃ 白い闇から
しおりを挟む
「『白い霧が僕をどこまでも追ってくる。僕は逃げ続けなければいけない』――か」
中年男の刑事は手に持った紙束にさっと目を通し、眉を寄せた。一文字一文字はお手本のように整っているが、原稿用紙のマスからズレまくっているせいで綺麗な印象を受けない。今は家主のいないこの1LDKの違和感にも似ていた。
小さなアパートの一室はひどく汚かった。半端に開いた引き出しの中の服はグチャグチャで、床にも洋服やら本やら雑貨が散乱して足の踏み場もない。しかしきっちりと畳まれ部屋の隅に積まれた布団、磨かれた床、汚れどころか曇りもない台所、整列された靴などは淡々と、家主のきちょうめんな潔癖さを物語ってくる。逆に言えば、荒れているのは金目の物が隠されていそうな机と箪笥、物が散らばった床だけ。つまり、この荒れようは家主のせいではなく空き巣によるものだった。
しかし、いくら几帳面な家主でもこの部屋の惨状に不満は言えないだろう。
家主はもう死んでいるのだ。
事実関係は捜査中だが、十中八九自殺だとみられている。
(しかも赤信号をわざわざトラック前に飛び出して、か)
確実そうな方法を狙うあたりが、またきちょうめんと言えなくもない。
しかし家主はなぜ自殺してしまったのだろう。刑事は空き巣の犯行現場を捜索すると同時に、手がかりがないかと探していた。
周囲の人々の話では、「幽霊が見える。白い影がいつも目の端に……」 などと最近言うようになり、心配していたらしいが……
(幽霊だのわけわからねぇ行動だのはごめんだ)
刑事は毒づいてあたりを丁寧に調べてゆく。
そして見つけたのがこの紙束……小説家を目指していたらしい家主の、何かの原稿だった。
【 白い闇。まるでそれは闇だった。
僕の視界のみならず心までも
端からじわじわと蝕んでいく
白い欠落だった。
ぼくの、僕の、僕の…… 】
うぜえ、と思いながら刑事は原稿を放り出す。
「なんだ、こいつ白内障になってたのかよ」
遺伝や生活習慣、眼のケガなどにより若年性の白内障が起きることはある。
白内障が進行すると、明るいところに出た時、視界が真っ白になることがあるという。となると、赤信号が見えなくて飛び出した可能性もある。
(ま、これで謎は解けた)
刑事はまだ知らない。若年性の白内障は老化によるものとメカニズムが違い、視界の中心に白い濁りが出るケースが圧倒的に多いことを。そして、遺体の目に白内障を治療した痕跡があることを。
中年男の刑事は手に持った紙束にさっと目を通し、眉を寄せた。一文字一文字はお手本のように整っているが、原稿用紙のマスからズレまくっているせいで綺麗な印象を受けない。今は家主のいないこの1LDKの違和感にも似ていた。
小さなアパートの一室はひどく汚かった。半端に開いた引き出しの中の服はグチャグチャで、床にも洋服やら本やら雑貨が散乱して足の踏み場もない。しかしきっちりと畳まれ部屋の隅に積まれた布団、磨かれた床、汚れどころか曇りもない台所、整列された靴などは淡々と、家主のきちょうめんな潔癖さを物語ってくる。逆に言えば、荒れているのは金目の物が隠されていそうな机と箪笥、物が散らばった床だけ。つまり、この荒れようは家主のせいではなく空き巣によるものだった。
しかし、いくら几帳面な家主でもこの部屋の惨状に不満は言えないだろう。
家主はもう死んでいるのだ。
事実関係は捜査中だが、十中八九自殺だとみられている。
(しかも赤信号をわざわざトラック前に飛び出して、か)
確実そうな方法を狙うあたりが、またきちょうめんと言えなくもない。
しかし家主はなぜ自殺してしまったのだろう。刑事は空き巣の犯行現場を捜索すると同時に、手がかりがないかと探していた。
周囲の人々の話では、「幽霊が見える。白い影がいつも目の端に……」 などと最近言うようになり、心配していたらしいが……
(幽霊だのわけわからねぇ行動だのはごめんだ)
刑事は毒づいてあたりを丁寧に調べてゆく。
そして見つけたのがこの紙束……小説家を目指していたらしい家主の、何かの原稿だった。
【 白い闇。まるでそれは闇だった。
僕の視界のみならず心までも
端からじわじわと蝕んでいく
白い欠落だった。
ぼくの、僕の、僕の…… 】
うぜえ、と思いながら刑事は原稿を放り出す。
「なんだ、こいつ白内障になってたのかよ」
遺伝や生活習慣、眼のケガなどにより若年性の白内障が起きることはある。
白内障が進行すると、明るいところに出た時、視界が真っ白になることがあるという。となると、赤信号が見えなくて飛び出した可能性もある。
(ま、これで謎は解けた)
刑事はまだ知らない。若年性の白内障は老化によるものとメカニズムが違い、視界の中心に白い濁りが出るケースが圧倒的に多いことを。そして、遺体の目に白内障を治療した痕跡があることを。
1
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
女子切腹同好会
しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。
はたして、彼女の行き着く先は・・・。
この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。
また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。
マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。
世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる