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-20℃ 冬の第二話「花盛り」
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「百物語を語るといえば、もちろん夜に決まっております。しかし季節は重要でしょうか。自分の元へは季節を問わず話が舞いこみますので、どうも夏ばかりに語るわけにはいきません。……いえいえ、わざとずらしているのではありませんが、これは春の話です。自分が話を聞いた幽霊は、なんでも不思議なことにたびたび巻き込まれたのだといいます。
ある日、彼はふと花見に興じたくなりました。桜は散り始めながらもまだ枝にたっぷりと残っている、そんなちょうど良い頃です。彼はどこか弾む足で桜並木へと向かい、奇跡的に他の花見客がいない場で存分に楽しみ、帰り途につきました。
ところが楽しい気分に水を差すことが起きます。警察官の職務質問を受け、そのまま署へ連れて行かれたのです。
後から考えてみれば仕方のないことでした。彼の頭と肩、それから靴の裏はいつの間にやら血まみれになっていたからです。
何度もその日の行動について問い詰められた彼がようやく釈放されたのは、その桜並木の木々から、体を切り首を吊って亡くなっていた集団自殺遺体が見つかってからでした。
彼の犯行ではないと分かってもらえたのは幸いでしたが、しかし彼は、上から滴る血や足元の血に全く気づかず花見を楽しんでいたことになります……。
実をいえば彼の一生はずっと、気味の悪い事だらけでした。
赤子のころ、数日後に亡くなる人の前でだけ活発に笑っていたり。
不自然に咲いている野花の道を進んでみたら犬や猫の骨の山を見つけたり。
冬に雪山で独り遭難したとき、凍えて朦朧とする意識の中で不意に感じた良い香りの方へ向かってみたら、気づけば腹が裂けた熊の肉に体を包まれていて助かったり。
友人の結婚式で自分に飛んできたブーケトスを受け取ったと思えば、なぜか手の中にあるものが異形のコウモリの干からびた死体になっていて、周囲の人が気絶してしまったり。
見舞いの花束が部屋全体を埋めつくし、その重みと匂いに苦しんでいたら、スッと幽霊になってしまったり……。
さて、ここまでお聞きになった中には、おや、とお思いの方もいらっしゃるでしょう。異常な事件は多かれど、明らかに妙な事が起きるときには法則があるようです。
はてさて、彼は本当に奇妙に遭う体質だったのか、それとも、彼の見ていた世界が他人とは違うものだったのか……話を聞いたばかりの自分には、判断がつきません」
ある日、彼はふと花見に興じたくなりました。桜は散り始めながらもまだ枝にたっぷりと残っている、そんなちょうど良い頃です。彼はどこか弾む足で桜並木へと向かい、奇跡的に他の花見客がいない場で存分に楽しみ、帰り途につきました。
ところが楽しい気分に水を差すことが起きます。警察官の職務質問を受け、そのまま署へ連れて行かれたのです。
後から考えてみれば仕方のないことでした。彼の頭と肩、それから靴の裏はいつの間にやら血まみれになっていたからです。
何度もその日の行動について問い詰められた彼がようやく釈放されたのは、その桜並木の木々から、体を切り首を吊って亡くなっていた集団自殺遺体が見つかってからでした。
彼の犯行ではないと分かってもらえたのは幸いでしたが、しかし彼は、上から滴る血や足元の血に全く気づかず花見を楽しんでいたことになります……。
実をいえば彼の一生はずっと、気味の悪い事だらけでした。
赤子のころ、数日後に亡くなる人の前でだけ活発に笑っていたり。
不自然に咲いている野花の道を進んでみたら犬や猫の骨の山を見つけたり。
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さて、ここまでお聞きになった中には、おや、とお思いの方もいらっしゃるでしょう。異常な事件は多かれど、明らかに妙な事が起きるときには法則があるようです。
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