脱出ホラゲと虚宮くん

山の端さっど

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ナナフシギ喫茶@廃高等学校B

ななきつ⑼(結)

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 さーて。
 どうもリスナー、どうも目の前のお前ら。今回はさすがにちゃんと名乗りを上げよっかな。ゆーちゅーばーでも肝試し軍団でもないっぽくね。

「どうも、屋城蓮子やしろれんこが来たわよ。出迎えてちょうだい」

 コツはお化けに囲まれて怖くても絶対絶対言い淀まないこと。視線が揺らぐ程度なら接客の粗探ししてるつよつよお客神って受け取ってもらえる事もあるから。いやそんな悪徳テク教えんなよ忘れろリスナー。そんで君は従者みたいなポジに収まって名乗んないのね虚宮。ちっ。名を名乗れ。

 〈……随分と早いご到着で〉
「お互い急いでるんだから良いだろ」
 〈どういう意味か……分かりかねます〉
「下手くそ経営者って言い捨てられる方が好みか? 俺はこういう感情的なやり取りは好きじゃない」
 〈……〉

 あ、なんか黙った。ヘイヘイ理科室の人体模型(※内臓無し)、何か言ったらどうだい。客とお仲間お化けが見てるぜ。
 ……ちょっとリスナー、「自分のことは棚上げである」じゃないんだよ。「醜態がなんか言ってる」でもない! 「ここ最初の理科室じゃん。7つ目いつ回ったんだよ」……それ! そういう感想待ってたのよこっちは。ラジオDJとしては。ラジオでもDJでもないけど。
 うん、まだ回ってない。虚宮が「先にこっち行く」って言ったからよく分かんないけどついてきた。

 ……あっはっは好きなだけ文句言いなさいリスナーあんたたち、メンタル回復したあたしには響かないから。下がってたテンションも踊って上がって、落ち着いて結果普段通りよ。この語りっぷり、とうとう最終話かって? だといいね。

「……だから言ってんだろ。参加者がメンタルやられて1人ラジオ始める惨状を無視して経営手腕を語るな」

 ちょい虚宮何の話してんの?
 ああいい別にガイコツの台詞全部翻訳してくれなくて。かいつまんで。

「簡単に言えば、今回君を無事に脱出させるだけじゃなく、ここの仕組み自体を改善しろって話してる」

 んー……? 仕組み?

「客が校内の喫茶店回るって建前、どう見ても破綻してるだろ。ろくなガイドはいないし飲み物が出てこなかったこともある。あと単純に最低7杯のカフェイン飲料がダルい」

 あっそれはそう。そういや最初虚宮お腹下してなかった? 元気すぎて忘れてたけど。

たとえるならコンセプトカフェだろ? ちゃんとなりきらせろよ。それが出来ないなら店の方針を変えろ」
 〈…………〉

 黙っちゃった……

「ねえ虚宮。クレーマーに見える」
「クレーマー客のつもりは無い」
「いや見えるってだけ」
「客じゃないんだよ」
「え」
「客は俺達じゃなくてこいつら。だろ?」



 指を指さずに虚宮の手がすらりと示したのは、人体模型周りのオバケ達。そういやトイレ回ったのに花子さんみたいなのは出て来なかったし、他の奴らも見てなかった。



「『喫茶店の』ってコンセプトで生きた人間と関わる機会をやって、幽霊や怪異に生気を与えたり正気を与えたり成仏させたりするきっかけを作る。一度二度でうまくいかなくても、大抵の奴は、人間驚かして満足して時間稼ぎしてるうちに成仏を選ぶようになるんだよ。ここはそういう怨念専門の施設。で、この部屋に詰まってる奴らは順番待ち。一度に7体しか相手できないだろ」
「え……じゃあ……」
「あいつらが客で、俺達は『喫茶店の客』って役割のあいつらの餌食。慰み物。生者1組につき7体って制限掛けてるのは、俺達を殺したり狂わせるのが目的じゃないから。文句言われて慌てて急ごしらえのFAQ用意したり、人間側へのサービスが薄いだろ? それも、本当は客と思ってないから」
「あー…………」

 なんか、なんかすーごい納得。いや超常現象どんとここまで来て何か納得する事ある? 普通ない。Heyリスナー、もしここに来ちゃう事あったらクレーマーになろうぜ。あたしが許す。許可する。

「そこまで虐めなくても待遇改善させておく」

 あ、今ね。その赤ペン入りまくったFAQなに? いつ書いた? 今? 今ぁ?!?!

〈……何が望みです〉
「ここを潰したい訳じゃない。人間連れ込むの止める気はないんだろ」
〈ふん……我々は、そういう存在でありましょう。誰も訪れない、知られない怪異には、存在意義などないのですから〉
「特にお前の弟には?」

 弟?

〈……どうしてそれを〉
「あいつは連れて行く。厄介すぎる」
〈やめて下さい!〉
「もうずっと制御できてないんだろ。お前の手には余ってる」
〈そんなことは!〉

 ガイコツが虚宮の肩を引っ掴んだ! でも暴力反対ってなんか言いづらい! ……し、なんかそもそも非力そう……体育館のオバケsとどっこいに見える。いや虚宮の前だからそう思うだけだろーけど。イエスあたしは威を借る狐。胸だけ借りて生きていきたいもんだけど。

「よっ」

 ワォ、見事な投げ飛ばし。背負い投げ以外の柔道知らんから何って言えないけど。あっ骨どこか外れてる。背骨だ!

 うん? リスナー何? 今なにか忘れてる事ないかって? なんかあったっけ?



 ……うわ。
 ……思い、出したわ……。
 寒……い……。そうだ、まだ7箇所目回ってなかった……それに……。

「出たな」

 大きな包丁。急にコーヒーの香り。あと血の臭い。あたしを殺したあのクソ××××が居るじゃん……
 寒い……いや動けない! 無理……

「虚宮!」

 クソ××は真っ直ぐ虚宮に向かってくる。なんで? お前速いのは分かるけど違和感ある。虚宮よりか弱そうなあたしを狙うでしょ普通、通り魔って。生首DJのところで見た記事にはなんて書いてあったっけ……ん? 生首?

「来るな」

 あたしに言ってる? もちろん行かないってか、マジで悪寒どころじゃない寒さでろくに動けもしない。
 あいつ、多分やっぱり虚宮の首を狙ってる。まっすぐ。あたしのことはズタズタにしたくせに。女より男を優先で狙って男と女で殺し方が違う幽霊? なにそれ?

「だから来るな!」

 虚宮がどこからか鉄パイプ出してきて振った! 包丁にかち合わせる感じ!

 あ、あれ? 目の錯覚?
 なんか、鉄パイプが押し負けてる……というか、包丁に押されてぐにゃっと曲がったように見えてるんだけど!!!
 なにあいつチート?! 人体の組成学校の扉か? は?! 虚宮は……怪我してない! 避けてる!

「聞こえてるよな?!」

 ん? ずっと虚宮あたしに言ってる? んだよね? なんで何度も言ってんの?
 あたしが勝手に動いてるから? え、動いてる?

 違う、別に操られて勝手に体が動いてるとかじゃないやこれ。
 とっさになんか体が動いちゃうやつだ。

 いや、あたしが近づいても虚宮の助太刀とか出来ないけどさ何も。何も出来ないし何も持ってな……持ってたっけ?
 手にツルッとしたものが触った。何だっけ、いいやとりあえず。クソの顔めがけて投げる。投げるのはたしなむ程度!



 …………CDは、狙いを外れて虚宮の目の前くらいをすっ飛んでいった。



 うわごめん! ぶつかってないだけマシかな……?

 って何、この空気。なんかシーンとしたんだけど2人とも。動き止まってるし。いやクソは人カウントでいいのか悩むけど、(脳内じゃ)一切悩まずに喋ってるからあたし……いや、そうじゃない本当に。何?

「あーうん、そうだよな……CDそれも一応『鏡』か……」
「えっ何の時間? 今って」
「まあこの空間内じゃ悪意が無い方だよな……言われてみれば確かに。これが正解だったか」
「何事?!」

 説明してよ電波君! いや、あたしに新しいホッカイロ手渡してくれるのは有難いけど。けど! あと君の左足首、外れたガイコツの手に掴まれたままだからね? 最悪なファッションだぜ。

「放送室で記事読んだだろ。犯人が兄弟のどちらだったかは覚えてるか」
「兄弟なのも今知ったけど」

 知ったっていうか認識した。見てはいたんだろうね。

「兄。事件の数日前に弟は死んでる。葬儀を終え、まだ温かい骨壷を持ったまま犯人は高校を襲った」
「そ、それって……どっちの話?」

 だんだん分かってきた。というか、やっぱり記事にはそこまで書いてなかったと思うんだけど?
 あ、「どっち」っていうのは、バラバラで転がってる人体模型とフリーズしてる包丁クソ男、どっちが兄弟のどっちかって話ね。え? 普通に考えたらクソが兄で骨が弟でしょ。でも虚宮、さっきガイコツに弟がどうとか言ったんだよねー。分かんなくても覚えてる。

「弟の霊魂はこっち」

 虚宮はクソを指差した。
 ……うん、服装や雰囲気だけじゃなく、ちゃんと見てみれば確かにそうだ。あの記事の写真の男、よく似てるけどこの顔じゃない。

「兄に操られて、自分を兄の方だと思い込まされてたんだろう。他の繋がりがあるから糸がなくても出来る操り人形。厄介なタイプ。……やらせてた事はシンプルだよな。『男の首を斬って殺す』。多分女子相手だと指示がないから殺し方が曖昧になるんだろ」

 あ、曖昧な指示? のせいであたし長く苦しむ殺し方されたのか…………ドン引きが勝るなあ……。なんでそんな事させたのか聞く気が失せてくるレベル……。

「……あ、それで鏡」
「自分の顔を見て、やっと正体を思い出したってとこか」
「はは……」

 うまくいったって顔しとくね。繕う相手がいないけど。

「さて。正気に返ったところで、自意識はあるか? お前」

 クソ……呼びはやめよう。「弟」は、首を振った。

「意識が無い奴は操られずにそういう反応しないんだけどな」

 気づかなかったら返事してー! はーい! のパラドックスだ。めっちゃ首振ってる。こんなに嫌がる事ある?

「そんなに消えたいのか」

 ……頷いた。

「だとよ」
〈そんなはずない……〉

 あ、足首の骨の手がガタガタしてる。他の骨も。頭蓋骨拾ってやろーっと。なんとなくね。虚宮と顔突き合わせる感じにしてやろ。なんとなく。対話シーンっぽく。

〈あの子がそんな事を望むわけがない……〉
「なあ、お前、最初はちゃんと弟や客の怨念どもを慰めて怨念を鎮める気があっただろ。見失ってるだけで、今もちゃんとあるだろ。こんな『喫茶店』なんて慈善事業やってるんだから」

 ……ガイコツ、顎の骨ちゃんと動くじゃん。やっといて何だけどちょっと構図キモい。まいっか。

〈私……私が、何を目指していたかなんて……〉
「客が集まりすぎて店が回らなくなった。多忙で余裕が無くなった。お前の怨念に囚われた弟が暴走するようになった。目的見失った原因は、まあこの三つだろ。だから言ってるんだよ、経営改善しろって」
〈……〉
「まずは弟離れしろよ。俺は優しくないから、しばらく没収」
〈没収……?〉
「お前の弟は俺が預かるって事。その方が安全だしな」

 首を振り続ける弟の肩に、虚宮が手を置いた。そしたら、……消えた。
 悲鳴みたいな甲高い音を立てて、ガイコツはバラバラの骨を軋めかせる。なんでこんなに……あたしには、理解しがたい理屈なのかな。

〈あの子は……!!!〉
「次来た時悪霊減ってなかったら、二度と返してやらない。頭冷やして考えてみろよ」

 多分わざと、ちょっと乱暴に頭蓋骨を机に置いて、虚宮はあたしを連れて理科室を出た。コーヒーの香りがまた鼻をかすめる。振り向いたら、心配したお化けが何匹か骨に群れ寄るのが最後に見えた。



〈??? コーヒーの香 巡〉



◇◇◇



「……大丈夫かな」
「大丈夫だろ。意外と『店のスタッフ』には慕われてるっぽいし、生前はともかく今の志は高い。トラブル起こしそうな奴はいくつかいなくなったし」

 いなくなった、というか君が消したよね。

「そういえば弟って」
「あいつに見えないようにしただけで、今も隣にいる」

 えっ嘘だよね……?

「とりあえず連れてって……兄から自由になって自殺願望が消えるかどうかだよな。それからの事はそれから考える」
「……聞かなかった事にする」

 部屋を出てしばらくしんみり歩いてると、超スピードで幽霊が飛んでくる。あ、テケ子ちゃん、ことメイド服テケテケ……いたなあ君!

〈いやーお客様、お疲れ様ですぅ。少ーし帰り道ご一緒しても?〉
「何だ?」
〈いやー、なんか、バイトクビになっちゃったんですよ私ー。今すごく困ってますぅ〉

 テケ子ちゃんはにへらって笑った。うん可愛いよ、顔は。仕草もギリ、無理。

「バイトだったのか?」
 〈そりゃあまあ、あわよくば怨念救済システムのどこか順番待ちに混ぜてもらえたらなあと思ってましたよ。最初は〉
「その気がなくなったって?」
 〈経営の上手い下手は置いといて、あんまりこの場所に居て満足出来る気しないんですよねー。現世に留まって色々やる方が楽しいかなーと。せっかく動ける霊なので? 脚無いですけど〉

 テケ子ちゃんの発言分かんないけど、バイト首になった話とかしてる? 何?

〈それでなんですけどー、もしかしてのもしかして、貴方が雇ってくれませんかぁ?〉
「バイト代は払えない」
〈うふふー、冷たいですぅ。お給金っていうのは貴方の庇護です? 寄る辺がないと私みたいな浮遊霊は困っちゃうのですー。ふよふよ〉
「……」
〈心配せずとも、私は人を傷つけない方針ですよー。そんな感じするでしょう? 弟さんより安全ですって。ね、よろしくお願いしますぅ〉
「……条件の話は後で」

 ねえ今再就職先の話してない? ねえ!

「それより案内してくれ」
〈はーい。2名様ご案なーい〉

 テケ子ちゃんはいかにもバスガイドの旗をひらひらさせて浮かんだまま動き出した。あ、あたしにも手振ってくれてる。

〈しかし本当にこちらの彼女、最後まで私の声聞こえるようになりませんでしたねー〉
SAN値正気度コントロールはいつも褒められるよ」
〈ひゅー! 守られてるぅ! あ、彼女にしちゃいます狙っちゃいます?〉
「狙わない」
〈おー怖〉

 うっわ仲良。君らいつ仲良くなったの。キョーミないけど。……リスナー煽んない。マジで興味ないから。

〈さてさて、喫茶店を7つ巡った人間(推定)の皆さまに対してはですねー、校舎の扉と校門がなんと、正しく開きます! じゃん〉
「ろくに巡ってないけどな」
〈貴方のせいですぅー、うふふ〉

 ……おお、鉄パイプに勝つガラス扉も開いてるしその先、開いた校門の先に地面がある! 知らん田舎の風景だ! 電信柱はある! 空も普通の曇天! う、嬉しい。やば。涙出そう。って言ってる時意外と出ないのよこれが世知辛マシマシ澄まし汁単品230円。税抜き。

「じゃ、これで。一応戻ったら早めに医療機関でメンタルケア受けてくれ」
「あっ、うん」

 フツーに答えちゃった。

「えーと……これ、どこに出るの」
「ここに来る前いた場所に戻される可能性が高いんじゃないか。そうでなくても、電波は通じるだろ」
「そっか」

 うーん、なんか、こういう時ってなんか言うべき? どうすりゃいい、リスナー。
 ……あー、一応ね?

「最後に教えてくれない? 君の名前」
「えー」
「えーって事なくない?」
「呼んで欲しくないんだよな」
「え、じゃあ知るだけ。呼ばない」

 というか、薄々感じてるけど……

「……むろき」
「え?」
「木のむろに画数が多い方の樹。以上」
「教えてくれるんだぁ」
「まあ」

 うんまあ、「まあ」は分かる。どこに住んでるかお互い知らないし連絡先交換してないし。交換する空気にもなんなかったし。この後名前呼ぶ事無いんじゃない? ってね。
 でもこのまま帰るよ。淑女としてはね。……あん? 淑女でしょうがレディーレディー。Ready to shoot you,xxxx.ふう。

「……じゃあ、色々ありがとう?」
「こちらこそどうも、命の恩人」

 最後まで言ってくれるじゃないの。

 あたし達は門をくぐって、簡単な事みたいに日常に戻る。いやほんと、簡単だったような錯覚があるよ。嘘だけど。
 そういう感じで、バイ、リスナー共。あんまり長引かせても疲れるし放送ごっこは終わりだよ。ゲストは虚宮榁樹、提供はお断り、DJ屋城蓮子がお届けしました。なんだかんだ感謝してるよ皆には! ……こんな感じでいいのかな、〆って?



◇◇◇



 ……あ、あたし、どうやってここ来たか記憶無かったけど普通に夜寝てただけだったんだ……別に、実は事故に遭ってて生死不明でーとかないんだ……まだ普通に夜だし寝直そ……



◇◇◇









「……虚宮くん! どこ行ったかと思った」
「悪い、百舌。今戻った。まだ次のゲームまで時間あるよな?」
「う、うん。えっと……起きてきて平気なの? 少しだけど、皆の代わりに毒を飲んだ、って聞いたよ!」
「ああ、薬飲んだら治った」
「これ信用しちゃいけないやつだ」
「大丈夫だよ」
「……あのね、虚宮くん。君が色々常識外れなのは分かってるけどさ。今僕たち、デスゲームに巻き込まれてるんだよ。それだけで、大丈夫って確実に分かること何もないよ」
「あー、間に『別の』も挟まったしな……」
「?!」
「霊とはいえ途中で1人増えるとどうなるかも確認しねえと」
「?!?!」


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