春きたる虚舟

山の端さっど

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蛇足

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 それは広義に妖怪であるという。あるいはふしぎというものは全て妖怪なのかもしれない。神が現世に現れるとき、何かの形を借りて現れる、というのは分かりやすい考え方だ。少なくとも日本人には。なんなら付喪神なんて物的なものから妖は生じうるのだし。神も郷に入っては郷に従う。そういえば人間というものも、あの世へ向かうためにちょっとこの世で一休みしているだけなのであった。
 そんなふうに海上で思い巡らせたあの日、私は十七文字に言葉を収めることを考えた事がなかった。


「自分たちは人間になり損なった何者かだ」


 大人が胸につける装飾品を「ロケット」と呼ぶのに疑問を感じなかった子どもはいるのだろうか。ロケット型のロケットを見た事がないので分からない。あ、地球だって宇宙だったか。なら勝手にすればいい。楕円の硬貨のようなロケットは両面に半球をつけてUFOとして飛べばいい。どうせ中には愛しい人の写真でも入っていて心がトリップするのだろうし。空っぽならば空のまま飛べ。宇宙を。


「擬態しよう」


 眠い。真夏の蒸し暑い夜、あえて熱いコーヒーを選ぶ。深夜なので当然眠い。いつの夜だっただろう。勉強か仕事か夜遊びか。寝るわけにいかないから、あえて熱さで目を覚ます。缶なのもそのためだ。用事を終えた缶を放っておく。しばらく経てば、きっと余熱か夏の熱か分からない。それか人の熱か。とにかく眠い。まとまらないこの思考と共に肉体もばらばらになっていく。


「人間のふりをしてどうにか生きていかなくては」


 相撲は好きな部類だ。詳しくはない。祖母が見るのでタイミングが合えば見る。応援している力士や声援から、ほんのり祖母の性格を読む。まあ推しもいる。テレビで見た人もいる。気づくとメンバーが変わっていく。実はそれより行司の方が好きだったりもする。詳しくはない。まだ何年もこうやって祖母の隣で相撲を見ていたい。無心で見ていたい。感情を排せない。また千秋楽だ。


「文化的にならなくては」


 紫陽花を花毬の内側から見る。携帯を差し込んで茎側から花のうなじを撮る。花びらを透かして陽が入り込む。それが最も美しいカットだと思う。秋色紫陽花というものがあるらしいが、枯れ紫陽花の色のことか、今でも咲いている紫陽花の色のことか分からない。どちらでも好きだ。花にも葉にも毒があるというならば、もう死ぬだろうというときに、そっと食べてみたい。


「人間になりたい、なんて立場にない」


 どんな時も、十七文字の中に季語と感情とをパッキングする気になるなどとは、青少年の額ににきびが出来るのと同じくらいに予想しえなかった。いつか母星が砕けて欠片にほんのちょっとだけ取り残されても、何らかの重力に従って桜は降るだろう。露草は露をこぼすだろう。そこに人間がいなければ詩はないのか? 誰かが代わりに見つけて欲しい。例えばかみさまが。
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