Sweetest Quest & B お菓子な世界

山の端さっど

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Smallest Q.1 王都・ラスティケーキ

クラレットギルドの人々❶

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「ネロさん、お仕事です」

 冒険者ギルド受付嬢のファニーは声を掛けつつ、酒場のドアを開いた。ネロに仕事を持ってくる時の彼女は、いつも笑顔だ。

「あらファニーちゃん、また?」

 開店前の酒場でネロが一人何をしていたのかというと、腕に生えた鱗に一枚一枚トップコートを塗っているところだった。休日ならもう少し手間をかけてデザインを入れるところだが、酒場に出る日は何枚かに軽くアクセント模様を入れて艶を出すだけだ。
 ネロはクラレット国の荒野に生きる大陸鱗ラーテルの遊牧民族、「自由な大蛇リバティラーテル」の出身だ。着飾ることは神への信仰を表す、という宗教観の部族の影響で、ネロは化粧や身だしなみにひどく気を遣う。体つきは良いが蛇のようなしなやかさもあり、声色は低く男性寄りだが中性的な顔に磨きこまれた全身……となると男か女か分からなくなってくるが、それもそのはず、「自由な大蛇」は雌雄同体なのだ。男達から嫌らしい目で見られるのにうんざりしているファニーが、あまり気にせず本音で話したりお化粧の話で盛り上がれる数少ない異性。二人の仲は友人としてけっこう良い。

「あっ、ネロさん……邪魔しちゃいました?」
「そんな事ないよ。水女神よオフェーリア'ズ 加護をディーア

 少し部族訛りのある言い方で唱えると、氷水がキラキラと鱗の表面を撫でてトップコートを冷やし固めた。風乾するよりも早く固まるのだ。

「ふふ、いつも思いますけど綺麗ですね。今度私の角もネロさんに飾ってもらおうかな」
「いいよぉ、俺たちが魔法を使えてるのは女神様のお陰だからね。それでファニーちゃん、お仕事はなぁに?」
「実はアレンさん達のパーティの陰級認定試験場に、紛れ込んだタルティーおばかさんが居まして」

 ファニーは笑顔だが、その背後には炎が揺らめいているように見える。

「……あら、それは面白いジョークだね。流石にそんなタルティーな子いるわけないよね? いや、居なかった事にした方が良いかなぁ?」

 話を聞き、パキッと拳を鳴らして立ち上がったネロの背後にも、ゆらりと炎が生まれた。

「残念ですけど、今回は色々明らかにしたいんですよね。ほら、ギローノさんの処遇も関わってきますし」
「あぁ、それならしょうがない。じゃあ、俺は聴取だけすれば良い?」
「はい、今回は」

 二人はにっこりと笑顔で微笑み合う。





 酒場の奥には、用の部屋が用意され、問題がある場合はその部屋に直接転送することもできるようになっている。扉を開けると中は、ソファーと暖炉が一つずつ置かれただけのだだっ広い部屋で、開けた中央には水晶でできた二つのまるい檻が置かれていた。片方の中には狭いので全身を折り曲げたまま杖を振り、檻を壊そうと魔法を中から唱え続けるドロシーと、やや輪郭だが同じ事をしているドロシー? が居る。部屋に入ってきた二人に気づくと、両方のドロシーは詠唱をやめて叫んだ。

「出しなさいよぉぉおおおおおっ!!!」

 片方しか声を出してはいないらしいが、檻越しなこともあり、咄嗟には判別できない。

「……どっちがタルティーガールドロシーちゃん?」
「その……よく分からないのですが、ライズさんの私見では、片方は、体液を使った分身体のようなものではないかと」
「へぇ……面白いじゃない。そういえば、この『檻』は誰が作ったの? ファニーちゃん?」
「いえ、おそらくそれもライズさんですね。あの、フードの……」
「ああ、彼。良い腕してるね」

 言いながら、ネロは壁に掛けてあったホイッパーを手に取った。大柄なネロらしく、かなり大振りだ。

「じゃ、後は任せて」
「はい、では後で、ネロさん」

 扉を閉じて中から鍵をかけると、ネロは「せーのっ」と、ゆるい掛け声と動作でホイッパーを振る。と、水晶の檻は粉々に砕け散った。

「じゃあ、話聞く前にちょっと俺と遊ぼうか、ドロシーちゃん。面白いもの見せてもらったし、二体同時に相手するよ?」
「ふざけるなぁあ! お前なんてーー」





「ーーな、んで」
「うんうん、筋は悪くないよ。威力とスピードを鍛えたんならそこそこの相手には勝てるもんねぇ。ま、俺と相性が悪かったのもあるか」

 ネロはホイッパーをもてあそびながら悠々と部屋に置かれたソファーの上に座っていた。目の前には、息を切らして床に這いつくばるドロシー。ネロは部屋も家具もドロシー自身も一切傷つけることなく、水魔法だけでドロシーを屈服させていた。

「どぉ……うし、て……」
「どうしてもこれが現状だよ、ドロシーちゃん。早くて重いだけの攻撃じゃ『最強』なんて名乗れない。俺は『自由な大蛇リバティラーテル』の中でも退方だから、この程度しかしないけどねぇ」
「り……リバティラーテル?」
「知らない? 俺の出身部族。狩猟民族って奴。俺は学校とか通えなかったから、オニイちゃんオネエちゃんに混じって早くから魔法で戦ってたの。学校で習うようなお綺麗な魔法がベースになってるわけじゃないけど、強いでしょ?」

 にっこりとネロは笑う。

「ドロシーちゃんはまだ甘いんだよ、卑怯な手に際限なんてないからね。一つアドバイスするなら、ドロシーちゃんは自分が攻撃しながら同時に自由自在に使えるようになるまで、その分身ちゃんを無理に使わない方が良い。どっちも同じ攻撃をしちゃったり動きが単調になったり。分身というより、使役人形ゴーレムみたいなものなんだろ?」
「っ!」
「あくまでも隠し玉にするか、自分は後ろに退いてゴーレムを先発させるか。それだけで、今の倍くらいの時間は俺と戦ってつよ」
「それでも、倍になるだけ……?」

 完全に心が折れたように、ドロシーは地面に突っ伏した。

「さて、気も鎮まったところで、そんなチョコまみれの格好から可愛い服にでも着替えようね。それからゆっくり、話を聞かせてもらおうか、な」







 ……それから程なくして。

「ネロさ~ん、何だか大変なんです!急にアレンさんとライズさんのパーティの通信腕輪の反応が消え……て……」

 合鍵で部屋に飛び込んできたファニーは、お嬢様の着るようなフリルやリボンで飾られた明るい服をまとい、陰気だった長い前髪を脇に流して丁寧に編み込み、あらわになった顔にお化粧を施され、羞恥で顔を真っ赤に染めたドロシーの変貌ぶりを見て、しばらく我を忘れることになる。
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